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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
6.ワールズエンドの歌姫
155/177

24

 見晴らしのいい、北海道の景色は好きだ。

 しかし、今回ばかりはそれが仇になっている。

 進む道は、右も左も畑や牧場ばかり。ついでに前後は昼間なら数十メートルは見通せそうな一直線。その場で身を隠せる場所は少なく、夜の帳だけが2人の姿をうっすらと隠している。

 それでも、奏介は彼方を連れて東に向かってひた走る。なるべく大きな通りは避けて、朝日の昇るほうに向かって。

 時折、遠くに車のヘッドライトが見えた。そのたびに2人は道を外れ、叢にできる限り身を隠す。そして、車の気配が消えると再び走り出す。それを繰り返して、ようやく身を隠せそうな森が見えてきた。

 アスファルトで舗装された道から、鬱蒼とした森を掻き分けるけもの道へ。星空は閉ざされて、闇はずっと深くなる。しかし、灯りをつけるわけにはいかない。文字通り、手探りの行軍だった。

 がさがさという、2人分の足音。所々で、虫の息遣い。奏介と彼方は何も言葉を発しない。2人を繋ぐのは、ただ互いの体温を伝える掌だけ。

 奏介は錯覚する。この世界の人類は足利の目論見通り、すでに滅んでしまったんじゃないか。自分達だけは最後に出会った縁として、何となく滅亡から見逃してくれたんじゃないか。あるいは、足利はアダムとイブの役割を自分達に勝手に押し付けたんじゃないか。だとしたら、いい迷惑だ。いや、でも感謝するべきか。それなら、もう自分達は何のしがらみにも縛られないのだから。それこそ、本当の自由を手に入れられるのだから。

 だとしたら、これから2人で何をしよう。世界の果てからまた旅を始めてもいいし、そこで終わるのもいい。

 旅を終えるなら、辿り着いたその場所でどうやって生きていこう。やっぱりお店を作るのがいいかもしれない。作るなら、おしゃれなカフェがいい。それなら、ブルーポートみたいなカフェにしたい。勝手にブルーポートの2号店を名乗っても、きっと、あの人達なら笑って許してくれる。担当は自分がキッチンで彼方がホール。また彼方のクールな応対が、一周回ってウケるに違いない。2人きりの世界に客はいない? そんなの知るか。想像するのは勝手だ。

 それから、お店にはライブスペースを作ろう。キャパは立ち見で50人くらい。定期的に、自分達で演奏会を開ければいい。お客さんを手料理やコーヒー、お酒でもてなし、2人でギターを鳴らして歌うのだ。きっと、みんな喜んでくれる。そこにジェロムや梨音がいたら、絶対に割り込んで来るだろう。そしてアンコールで、ジェロムズまさかの再結成。

 ああ、未来は明るい。明るすぎて、涙が出そうだ。

 本当に視界が明るくなった。一瞬、想像からくる幻覚だと思った。しかし、すぐにそれがリアルの光だと気づく。いつの間にか、自分達は森を抜けていた。身を隠せるものは皆無。その正面には、ずっと恐れていた車のヘッドライト。夜行動物の目のように光るそれは、明らかに自分達をじっと見据えていた。ものすごい速さで近づいてくる。

 本能的恐怖で動けない。目を離せない。ただ、互いの手を握る力がぐっと強くなる。これはもう、流石に詰みだ。旅の終わりは、あまりにあっけない。

 奏介が全てを諦めかけた時、車は数メートル手前で停車した。

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