15
「眠そうだな」
翌日。出発の準備を済ませて車に乗り込むなり、足利に指摘された。
「海渡、大丈夫?」
「ん、何とか……」
力のない返事をしつつ、奏介はあくびをかみ殺す。
結局、奏介が眠りについたのは夜空が薄明るくなってきた頃だった。だから、奏介は実質2〜3時間程度しか寝ていない。その分眠気と戦いながらもそれなりに書き進めることはできたが、まだ完成には程遠い。ちなみに、最後はほぼ電池切れのような寝落ちだった。
車が動き出す。緑の多い景色が前から後ろへと流れていく。がたがたと身体をゆする小刻みな振動が、今の奏介にとっては睡眠導入剤だった。瞼が重くなってくる。
「着いたら教えてやるから、寝てていいぞ」
そんな足利の声が、随分遠くに聞こえる。
「今日は寄り道するから、それまでに回復しておくといい」
寄り道か。そんな余裕があるのか。一体どこに行くつもりなんだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、奏介の意識は深い眠りの中へと落ちていった。
それから、奏介はかなりの時間眠っていたらしい。
「海渡、起きて」
「んん……」
横からの彼方の声に気づいて目を覚ました時には、太陽の光は天頂を通り過ぎていた。横の車窓からまだ高さのある西日が射し込む。そのまぶしさが、奏介の意識を徐々に覚醒させる。ミスチルの『Worlds end』が流れている。
「ここは……?」
もぞもぞと動き、目をこすりながら訊ねる奏介に、足利が答えた。
「例の寄り道だ。とりあえず外に出てみないか?」
足利に促されるがまま、奏介と彼方は車の外に出る。
「特に大事な用があったわけじゃないが、個人的に道東に来たら一度行ってみたい場所だったんだ。どうだ、いい見晴らしだろう?」
いい見晴らしってもんじゃない。
全方位、地平の彼方まで見通せる、絶景。駆け抜ける風。雲ひとつない空から、一面を照らす太陽光線。
「陽に向け発展する。太陽のごとく拓け隆々発展する。地名にはそんな意味が込められているそうだ」
奏介達が立つ、その場所の名前は『開陽台』といった。