表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
6.ワールズエンドの歌姫
145/177

14

 彼方が寝静まって、再び静かな夜がやってきた。

 それでも、あれから定期的に飛行機の駆動音が頭上を飛び越えていく。遅れて戻ってきた足利は、バルコニーから飛行機を見送りつつ煙草を吸っていた。2本ほど吸ったところで、「先に寝る」と言ってソファーを変形させた簡易ベッドで眠りにつく。

 時刻は午前2時。起きているのは奏介だけ。奏介は、ずっと部屋にある簡素な机に座っていた。その机に広げられていたのは、散らかった消しカスと1枚のルーズリーフ。

 奏介は、決意を固めていた。

 バルコニーで聴いた彼方の歌。足利に思い知らされた無力感。真夜中に向き合った彼方の涙。悠々と飛び去って行った軍用機の群れ。断片的に焼きついた光景が繋がる。それが、原動力になる。

 海渡が遺した音楽。まだ歌詞のない、未完成の音楽。そこに自分の歌詞を乗せて、完成させる。そして、彼方と一緒に歌う。無力な自分には音楽しかない。ならば、それを完成させなきゃ話にならない。海渡にも、顔向けできない。

 いろいろな感情があった。その全てを詰め込みたかった。だけど、上手くまとまらない。輪郭がぼんやりとして、伝えたい思いが結びつく前に消えてしまう。そんなままならない感情の象徴が机に散乱した消しカスであり、筆跡の名残がある白紙のルーズリーフだった。

 どうにか形にしなければと思う。しかし、そう考えれば考えるほど、思考は空回り。喉元まで出かかったアイデアも、あと一息で霧散する。それを繰り返していると、やがて睡魔という別の敵が現れた。じわじわと意識を奪い、徐々に瞼が重くなる。

 絶対に寝てはいけない。寝てはいけない。寝てはいけない。寝ては————…………。

 いけない。

 辛うじて残ったなけなしの意識で、奏介はボールペンを手の甲に突き刺した。

「…………くあっ!」

 思いのほか力が強すぎて、変な声が出た。勢い余って血が滲んだが、おかげで目が覚めた。

「まだ、終われない」

 再び、奏介は白紙のルーズリーフと向き合った。のんびり寝ている時間はないのだ。

 とにかく書かねばならない。考えるのをやめた奏介は、断片的な単語の羅列を書き殴った。

 意地と執念だけで、奏介はペンを動かした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ