11
2人揃って泣き腫らした目で、足利を出迎えた。
「大丈夫か……?」
驚いた様子で心配する足利だったが、2人は「何でもない」の1点張りでしらを切り通した。
それから奏介達は夕食をとりシャワーを浴びた後でベッドで横になる。正直彼方がシャワーを浴びている時はドキドキしたが、それでもいつの間にか意識は眠りに落ちていた。思っていたより、疲れていたのかもしれない。
奏介の目が覚めた。
真っ暗な部屋。天井のしみ。カーテンの閉じられた大窓。かすかに煙草の匂い。自分がラブホテルに泊まっていたことをぼんやりと思い出す。
「あ、起きたっすね。おはようございます」
「おはよう……」
寝ぼけた声で返事をする。返事をしてから、聞き覚えのある声と口調であることに気づく。
海渡。
気づいて、がばっと起き上がる。薄暗い部屋に1つだけスタンドライトの明かりが灯る。声の主のシルエットが映し出された。半袖Tシャツにジーパン姿のラフな出で立ち。短いつんつんの髪。歳の割に小柄な身長。
「海渡……!」
「なんだか久しぶりに会った気がするっすねぇ」
そう言って、海渡は奏介の前でへらへらと笑う。
「お前どうしてここに……無事だったのか?」
すると、海渡はへらへらと笑ったまま。
「無事じゃなかったっす」
目は全く笑っていなかった。
「跡形もなく吹っ飛ばされましたよ、最初のミサイルでね」
ずるり。
海渡の肩から何かが落ちた。
腕だ。焼け爛れたゾンビのような腕。それは煙を吹いて熱を持ち、じゅくじゅくとした熱源となって床中に炎を燃え広がらせた。
「うあっ⁉︎」
奏介は飛び上がって逃げ道を探す。しかし、油を撒いたかのように火の回りが早い。すぐに視界が朱に染まった。炎は床を這い、ベッドもろとも奏介を取り囲む。
「オレが死んだのは、もう仕方ないことっす。その事実は変えられないんで」
息が苦しい。酸素を求めて呼吸が早くなる。
「ただ、奏介さんがオレの名前を名乗ってるのが納得いかないんすよ」
「それは……」
「それは姐さんが奏介さんのことをオレと認識してるから仕方なく、って言いたいんすか? でも奏介さん、実はその状況をオイシイと思ってません?」
炎が徐々によじ登ってくる。ベッドの脚はすでに蹂躙され、海渡に至っては両足がすでに発火していた。熱気が勢いを増していく。
「心のどこかで現状維持に甘んじようと思ってません? 悲劇のヒーローを演じようとしてません? 演じることでうやむやにして、自分が何を望むのか誤魔化そうとしてません?」
海渡の身体から煙が立ち始める。
「お前は嘘つきだ」
肉が焼ける悪臭を孕んで、海渡の身体が溶けていく。
「おまえはうそつきだ」
服は焼け落ち、眼球が飛び出し、肉が抉れ、骨が至る所から露出する。
「オマエハウソツキダ」
そして、炎が奏介を飲み込んで——
奏介の目が覚めた。
静寂に包まれた暗い部屋。聞こえるのは、自分の荒くなった呼吸。ずきずきと頭に響く心音。
もぞもぞと動く。起き上がる。身につけた安っぽいローブがじっとりと汗で濡れている。頭が重い。
「起きたか」
「っっ⁉︎」
唐突に視界の外から声がかかった。気が立っていた奏介は過剰に反応してしまう。声の主はもちろん足利。月明かりに照らされ、Tシャツ1枚にハーフパンツ姿で煙草の煙をくゆらせている。
「うなされてたな。嫌な夢でも見たか?」
「はい……」
返事をして、喉がからからに渇いていることに気づく。ついでに、声も思っていた以上に掠れている。
すると、部屋に入った足利は灰皿に煙草を押しつけながら言った。
「少し外に出ないか? 気分転換になるだろう」