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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
6.ワールズエンドの歌姫
142/177

11

 2人揃って泣き腫らした目で、足利を出迎えた。

「大丈夫か……?」

 驚いた様子で心配する足利だったが、2人は「何でもない」の1点張りでしらを切り通した。

 それから奏介達は夕食をとりシャワーを浴びた後でベッドで横になる。正直彼方がシャワーを浴びている時はドキドキしたが、それでもいつの間にか意識は眠りに落ちていた。思っていたより、疲れていたのかもしれない。


 奏介の目が覚めた。

 真っ暗な部屋。天井のしみ。カーテンの閉じられた大窓。かすかに煙草の匂い。自分がラブホテルに泊まっていたことをぼんやりと思い出す。

「あ、起きたっすね。おはようございます」

「おはよう……」

 寝ぼけた声で返事をする。返事をしてから、聞き覚えのある声と口調であることに気づく。

 海渡。

 気づいて、がばっと起き上がる。薄暗い部屋に1つだけスタンドライトの明かりが灯る。声の主のシルエットが映し出された。半袖Tシャツにジーパン姿のラフな出で立ち。短いつんつんの髪。歳の割に小柄な身長。

「海渡……!」

「なんだか久しぶりに会った気がするっすねぇ」

 そう言って、海渡は奏介の前でへらへらと笑う。

「お前どうしてここに……無事だったのか?」

 すると、海渡はへらへらと笑ったまま。

「無事じゃなかったっす」

 目は全く笑っていなかった。

「跡形もなく吹っ飛ばされましたよ、最初のミサイルでね」

 ずるり。

 海渡の肩から何かが落ちた。

 腕だ。焼け爛れたゾンビのような腕。それは煙を吹いて熱を持ち、じゅくじゅくとした熱源となって床中に炎を燃え広がらせた。

「うあっ⁉︎」

 奏介は飛び上がって逃げ道を探す。しかし、油を撒いたかのように火の回りが早い。すぐに視界が朱に染まった。炎は床を這い、ベッドもろとも奏介を取り囲む。

「オレが死んだのは、もう仕方ないことっす。その事実は変えられないんで」

 息が苦しい。酸素を求めて呼吸が早くなる。

「ただ、奏介さんがオレの名前を名乗ってるのが納得いかないんすよ」

「それは……」

「それは姐さんが奏介さんのことをオレと認識してるから仕方なく、って言いたいんすか? でも奏介さん、実はその状況をオイシイと思ってません?」

 炎が徐々によじ登ってくる。ベッドの脚はすでに蹂躙され、海渡に至っては両足がすでに発火していた。熱気が勢いを増していく。

「心のどこかで現状維持に甘んじようと思ってません? 悲劇のヒーローを演じようとしてません? 演じることでうやむやにして、自分が何を望むのか誤魔化そうとしてません?」

 海渡の身体から煙が立ち始める。

「お前は嘘つきだ」

 肉が焼ける悪臭を孕んで、海渡の身体が溶けていく。

「おまえはうそつきだ」

 服は焼け落ち、眼球が飛び出し、肉が抉れ、骨が至る所から露出する。

「オマエハウソツキダ」

 そして、炎が奏介を飲み込んで——


 奏介の目が覚めた。

 静寂に包まれた暗い部屋。聞こえるのは、自分の荒くなった呼吸。ずきずきと頭に響く心音。

 もぞもぞと動く。起き上がる。身につけた安っぽいローブがじっとりと汗で濡れている。頭が重い。

「起きたか」

「っっ⁉︎」

 唐突に視界の外から声がかかった。気が立っていた奏介は過剰に反応してしまう。声の主はもちろん足利。月明かりに照らされ、Tシャツ1枚にハーフパンツ姿で煙草の煙をくゆらせている。

「うなされてたな。嫌な夢でも見たか?」

「はい……」

 返事をして、喉がからからに渇いていることに気づく。ついでに、声も思っていた以上に掠れている。

 すると、部屋に入った足利は灰皿に煙草を押しつけながら言った。

「少し外に出ないか? 気分転換になるだろう」

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