13
彼方と奏介のいるところから十数メートルほど離れた木陰。そこから2人をじーっと見つめる2つの影。
「なーにー、なんなのよあれー?」
「さあなんだろうな。それにしても、やっぱり俺はこういうスニーキングミッションは苦手だ」
「……とか言いつつ双眼鏡まで持ってきてノリノリじゃないですか」
「だって、ちゅーの1つくらい目撃できるかもしれないだろ?」
「殺す」
「それは何だ? 俺が殺されるのか? 対象を間違えてないか?」
影の正体は、梨音とジェロムだった。
「それにしても、本当なんなのよあれー? あの子は結局軽音部には入らないんじゃなかったのー? なのに何であんなにソウと仲良さそうにしてんのー?」
「確かに昨日、彼方は軽音部に入るとは言っていなかった。しかし、逆に入らないと明言したわけでもない。つまり入部する可能性も大いにあるわけだ。というかこれはむしろ入部する流れだろう。やったなベリオン! ついに新入部員だ!」
「いろいろ文句言いたいところはあるけどまずは声がデカい! バレたらどうするんですか!?」
梨音は現状で出せるギリギリの声でジェロムにツッコミを入れつつ、引き続き2人を監視する。
できれば噂の歌声を生で聴いてみたかったが、梨音が現場に到着したときにはもう歌い終わった後のようだったので、結局まだ聴けていない。しかし、どちらにせよ軽音部的には、彼方の加入は大きなプラスだと思う。今回は成り行きでジェロムも尾行に連れてきたものの、彼は言うまでもなく入部賛成派だ。
だけど、私は認められない。
あんな正体不明の女を、軽音部には入れたくない。
「……お前、そんなに気に入らないのか?」
「気に入らない」
「だったら、その即答を本人の前で言ってやれよ。こういうコソコソした真似は、梨音らしくない」
「そんなのわかってる」
「わかってるけどじゃあどうすればいいんだ? って顔してるな。よし、じゃあここは俺が一肌脱いで……」
「やめろ立ち上がるな嫌な予感しかしない!」
と、誰も見ていない虚しいコントを続けているうちに、2人は学校まで歩きだしてしまった。その背中を見つめて、梨音は忌々しく心の中でつぶやいた。
彼方だか何だか知らないけど……絶対に、認めないんだから。