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まだ夜明けの気配すら見当たらない、午前3時。
河合は夜の国道を車で駆け抜けた。
北海道の道は街灯が少ない。それは国道でも例外ではなかった。ヘッドライトのハイビームで照らしても、目の前には真っ黒なペンキで塗り潰したような闇が広がっている。その中でたまに反射する野生動物の目は、まるで亡霊の眼差しのよう。
しかし、そんなものは関係ないとばかりに、河合は法定速度を大幅に超えていそうなスピードで突き進む。正面の一点を見つめる河合の目は、苛立ちと疲労で血走っていた。
いいニュースと悪いニュースがあった。いいニュースは、遠野彼方及び多田奏介の足取りが掴めたこと。悪いニュースは、その2人がある人物と行動を共にしているということだった。その人物とは。
「足利……」
かつて、同じ釜の飯を食った男。今は、河合の計画を妨げる最大の障壁となるかもしれない男。
また、自分の計画に邪魔が入りそうだ。
しかも、これ以上ないほど厄介な人間から。
「足利……!」
その忌々しい名前をもう一度つぶやく。自然とハンドルを握る手に力が籠もる。
今は昨夜の乙江砲撃事件から難を逃れ、函館方面に進んでいるとの情報がある。
その情報を頼りに、河合は深すぎる夜に包まれた北の大地を疾駆した。