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練習時間を除くと、3人だけでちゃんと顔を合わせる時間は意外と少なかったことに気づく。
仕事中は当然のことながら長話する余裕なんてないし、食事の時間にはいつも両親が同席している。昼と夜の合間にある自由時間も、海渡は作曲に打ち込んでいるのでなかなか声をかけられない。
そうなると、彼方も奏介もじわじわと寂しさが募ってきた。
「さびしい……」
いよいよ彼方の口からそれが言葉として出てきたのは、海渡の作曲宣言から3日目の朝。カモメ島で練習していた、休憩中のことだった。ステージの段差に座っていた彼方の瞳が、ここではない遠くを見つめている。
思えば乙江に来てからというもの、海渡が近くにいるのが当たり前になっていた。
函館に初めて降り立った時、奏介は今後何があっても2人で強く生き抜こうと思っていたのに。今では彼方のつい口をついて出てきた4文字に、痛いほど共感できてしまう。函館での決意は何だったんだ。自分の覚悟はこんなにも弱かったのか。奏介は軽くショックを受けた。
「完成するまでの辛抱だから、大丈夫」
隣に座っていた奏介は言った。
彼方に対してなのか、それとも自分に言い聞かせたのか。正直なところ、奏介自身にもわからない。
でも、きっと海渡だって寂しさは少なからず感じているはずだ。そんな中で頑張っている海渡のためにも、自分達の心が折れるわけにはいかない。
「さて、練習再開だ!」
奮い立たせるような奏介の声は、いつもより大きくはきはきとしていた。気合いを入れて一息で立ち上がる。
「俺らも余計なことは考えないで練習しよう。こっちはこっちで、上達っぷりを驚かせてやればいい」
「確かに、その通り」
彼方もギター片手に立ち上がる。寂しいが、お互いモチベーションは決して低くない。
風が吹いた。果てしない水平線の向こうから吹いてきた潮風。
その流れに乗せて、彼方はギターを奏で、歌った。
きっとそれは、今ここにいない海渡にも届く歌声だ。