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海渡の部屋は普段から使われているだけあって、彼方の部屋よりも生活の色がある部屋だった。いや、生活の色というよりも海渡そのものの色、と言ったほうが正しいか。
とにかく、部屋は海渡の好きなもので満ちていた。本棚にはギターの教則本と音楽雑誌。スタンドに鎮座するアコースティックギター。ラックには入り切らなくなったCDと漫画本が積み上げられ、壁にはロックバンドのポスターが何枚も貼られていた。海渡は本当に音楽が好きな人なんだな、と奏介は改めて感じる。
「なんか、ごちゃごちゃしててすいません。一応、奏介さんの物が置けて寝れるくらいのスペースは確保したんすけど……」
「大丈夫大丈夫。こういう部屋は嫌いじゃないし、趣味に溢れてるところとかむしろ好感が持てるよ」
「へへ、そう言われるとちょっと嬉しいっす」
「それに、こんな景色は俺の地元じゃ見れないから」
海渡の部屋にも、彼方の部屋と同じサイズの大きな窓があった。そこからも真正面に海が見え、波の音がすぐ近くまで寄せては返している。
「彼方さんと奏介さんって千葉から来たんですよね? 柏でしたっけ? やっぱり千葉の高校生バンドって毎日のように都内でライブやるんすか?」
「まさか。地元のライブハウスだって数えるほどしかやったことないよ」
「地元にライブハウスあるんすか!? どんな感じのライブハウスなんすか!?」
「うーん、一口にライブハウスと言っても柏にはいくつかあるし……」
「いくつか!? 地元にいくつもライブハウスがあるんすか!? この辺りじゃそんなの函館くらいなのに!?」
どんどん海渡の目がきらきらと輝いていく。そして、興奮を抑えきれなくなった海渡は窓から身を乗り出して。
「すっげぇ――――――――っ!!」
海渡の叫びが、その名の通り海を渡って水平線の向こう側に消えていった。
「やっぱすげえっす! 東京ってすげえっす!」
「いや、俺は千葉県出身だけど……」
「オレから見たら千葉も東京みたいなもんっす! やっぱすげえ! オレも東京で音楽やりてえ!」
海渡はメラメラと燃えていた。今の自分になら何だってできそうな気がしてしまう。そんな万能感に満ちたメラメラ。
「オレ、いつか東京に行くんす。東京に行って、音楽やるんす。東京に行ったら演奏が超上手い人とか、ワンマンでライブハウスを満員にできる人とか、そんなミュージシャンがゴロゴロしてるんすよね? だったらオレも、その中に飛び込んで自分と自分の音楽をガンガンアピールして、1人でも多くの人に音楽を届けたいって思うっす」
「それじゃあ、海渡はプロを目指すってことか?」
「もちろん!」
その迷いのない海渡の言葉に、奏介の心は揺れた。
自分も、海渡と同じはずだ。自分の音楽を多くの人に聴いてほしい。MiXを超えたい。そう思って、ここまで音楽を続けてきたはずだ。
しかし、もし仮に海渡と逆の立場で「プロを目指すか?」と訊かれたら。自分は、あんなに迷いのない返事を返せただろうか。
いつの間にか、彼方と音楽を続けることが全てになっていなかったか。
MiX=彼方だったと知った今、実質的な目標を見失って、無意識のうちにぬるま湯に浸かってはいなかったか。
「奏介さん? 大丈夫っすか?」
「ああ、ごめん……海渡の本気にちょっと驚かされた、っていうか……」
「いやいや、オレなんてまだまだひよっこっすよ。……あ、そうだ! もしよかったら、今日の夜練習に付き合ってもらえないっすか? とっておきのスタジオがあるんで!」
「いいよ、喜んで。そのスタジオってのは?」
「そこっす」
そう言って、海渡は天井を指さした。
上?




