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「あら、こちらの人が例のバイトさん?」
店内に入ると、小柄な女性が出迎えてくれた。奏介よりも年上のようだが、身長は彼方とほとんど変わらない。海渡のお姉さん、だろうか。
「そうそう! こちらがミュージシャンの奏介さんと彼方さん! で、こっちがうちの母っす」
「え、お母さん?」
奏介は思わず聞き返した。
「母の春海です、うちの息子がお世話になりましたー」
深々と頭を下げる春海につられて、奏介も頭を下げる。いかにもいい人な雰囲気が出ている。
「いえいえ、こちらこそ。これから、よろしくお願いします」
すると、春海はニコッと笑って。
「ん、それじゃあ海渡が更衣室案内するから、このシャツとエプロン着て。早速やってもらうことがあるからねー」
と、有無を言わさぬテンポで店の制服を渡す。
「母ちゃん待った! まだ着いたばっかりだし、ちょっと休んでもらった方が」
「そんな暇ありません」
海渡の反論はぴしゃりとシャットアウトされた。春海の表情はニコニコのまま。変わらない表情に、かえってプレッシャーを感じる。
「もうすぐ自衛隊の人が非番やら昼休みやらで押し掛けてくるんだから、早め早めに動いて仕事覚えてもらわないと。そうしないと余計に店が回らなくなるでしょ? ささ、海渡はすぐ案内してあげなさい」
気まずそうな表情の海渡が、奏介と彼方に小声で言う。
「すんません、そういうことなんすけど……いいっすか?」
「もちろん、働く約束だし……彼方も大丈夫?」
「問題ない」
それから男女別の小さな更衣室に移動して、奏介は海渡に訊いてみた。
「もしかして……海渡のお母さんって怖い?」
「普段は優しいっすけど、怒ると超怖いっす。あの表情のまま静かにブチ切れるんで。特に最近のランチタイム前は忙しすぎてピリピリしてるんでヤバいっすよ」
「ああ……」
奏介はいろいろと察した。