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「到着っす~」
車から降りると、車5台分の駐車場に2階立てのログハウス風の建物があった。港と日本海をすぐ近くに望むカフェ。積雪対策のとんがり屋根の下、木彫りの看板がある。名前は『BLUE PORT CAFE』。
「悪いな、早速だが奏介君は荷物運ぶの手伝ってくれ! こっちの段ボールに詰めてある野菜を頼む。とりあえず裏口の前に置いてくれれば大丈夫だ」
「わかりました」
ナスやキュウリやカボチャなど、夏野菜がぎっしり詰まった段ボール箱を抱えて、店の裏口へ向かう。
額に汗を滲ませつつ裏口までやってくると、どすっと段ボールを置いて一息ついた。久々の肉体労働は、少しだけでも意外と疲れる。
ふと、港の様子が目に入った。
先ほどまではいなかった、灰色の船が停泊していた。装甲に覆われた、重厚なデザイン。特に知識のない奏介でも、それが自衛隊の護衛艦であることは容易に察しがついた。
さらに地上側に視線を移すと、装甲車やら軍用トラックやらが頻繁に行き来している。
「驚いたっすか?」
後ろから、声がかかった。両肩に大きなクーラーボックスをぶら下げて、海渡が歩いてきた。
「最近、自衛隊の軍艦が乙江の港を臨時の軍港として利用してるんす。日本海側で、大陸のほうから不穏な動きがあるとかないとか。もう最近物騒で嫌になるっすよ。でも、おかげで自衛官の人がちょくちょく飯食いに来てくれるんで、店としては儲けが増えてありがたいんすけどね。ただ忙しすぎて死にますけど」
「へえ……」
MiXを失った世界の治安は、徐々に悪化の一途を辿っていた。その影響が、日本の小さな港町にまで飛び火している。
「奏介さん、大丈夫っすか?」
「あ、ごめん……ちょっとぼーっとしてて……」
「そうっすよね、今朝の船で北海道来たばっかりじゃ疲れますよね。荷物片づけたら部屋に案内するんで、店開けるまであんまり時間ないっすけど、一休みしてください!」
「ありがとう」
クーラーボックスを片づけに向かう海渡のすぐ後ろから、今度は彼方がやってきた。
「この街、自衛官が多い」
彼方から自衛官というキーワードを聞いて、奏介は思い出したように身構える。
「そういえば、俺達自衛隊に見つかったらやばいんじゃ……!?」
「たぶん、大丈夫だと思う」
彼方は、大した動揺を見せずに言った。
「さっき、海渡のお父さんが自衛官らしき人と話してた。私も近くにいたけど、私に関心を示した様子はなかった」
だったら大丈夫、だろうか。
しかし、やっぱり不安を拭えなかった奏介は彼方に耳打ちした。
「とりあえず今のうちはここでお世話になるとして、もし少しでもヤバいと思ったらすぐ逃げよう。そういう覚悟は、常に持っておいた方がいい」
「わかった」
すると、クーラーボックスを手放し身軽になった海渡が戻ってきた。
「お待たせしました! 家の中に案内するっす!」
海渡の屈託のない笑顔を見て、奏介は思う。
ひとまず、海渡のことは信用してもよさそうだ。
「悪いな、よろしく」
奏介は笑顔で返した。