龍のいる世界
「おいこら起きろ!」
キンキンとした声が耳元で響き、ヴァルは跳ね起きる。
目の前にセンがいるのを見ると、どうやらまた居眠りをしていたようだ。
「うっせーなあ。」
「どっかの居眠り小僧と違ってちゃんと飛羊の見張りをしているからね。」
飛羊には名の通り鳥の羽と透明な角の生えた羊のことだ。
毛皮は衣服を作るのに適しているし、肉は食べられ、角は高額で売れる貴重な家畜である。
基本勝手気ままに飛ばせておいて、角笛か声で群れを集めて小屋に押し込む方式で放牧するのだ。
センはこの飛羊の見張り役のおかげなのか声がキンキンとよく響く。
動く目覚まし時計だ、とヴァルはいつも思う。
「別にいつもちゃんと獲物は取ってきてるし・・・。」
センはあきれて首をふるふるとふる。
「そんなふうにいっつも居眠りしてたらいつかニンゲンに捕まるよ?」
「へっ、まさかこんな辺鄙なところに来るわけねーよ。空から降ってこない限り――」
「のわあああああああああ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
ヒュー―――――と空から何か降ってくる音がしたような気がして振り返ったとき、ドーンッとそばの野で盛大な音がした。
あとなんか悲鳴も聞こえたような気がする。
センとヴァルは顔を見合わせ、音のした方へ走った。
「いってえ・・・。どこ?ここ。」
夜叉は頭をさすりながらむくりと起き上がる。
鬼なだけあって頑丈な体だ。
「なんか眼鏡が異世界だか転生だかいろいろ呟いてたような気がするー。」
「それほんとのようですよ。」
いなりは寝っ転がったまま空を指さす。
澄んだ青色の空には二つの輝く太陽があった。
「おいおいおい・・・マジかよ・・・。今まで殺されかけたり封印されかけたりいなりに刻んで焼きかけられたりしたけど、こんなことは俺の妖生でなかったぜ。」
ため息をつきながら夜叉は体を起こす。
「えーっと・・・。どうやら私たちは龍の角と呼ばれるところにいるらしいですね。」
「なんでわかんの!?」
いなりは無言で夜叉と鞍馬の前にそれをおく。
~はじめての転生マニュアル~
ここは四大邪龍と呼ばれる南北東西・四季をつかさどる龍のいる世界です。
たぶん皆さんがいるのは龍の角とよばれる半島です。
こちらの世界には魔物と呼ばれるいわばあなたたちのもといた世界でいう動物とかにあたるものがいま す。
どうやら彼らはニンゲンと敵対しているようなので注意しましょう。
前書きは以上です。
ちなみにこの世界の地形図は4ページにあるからそこ見てね~★
「なんだこれ?これもあのくそ眼鏡野郎のしわざか・・・?」
「もしあそこで妖力が使えたのなら速攻で殺したのになー。」
殺気まんまんの笑みで夜叉と鞍馬は分厚い辞書のようなマニュアル本から顔を上げる。
「でも何も説明なしでいきなりこっちの世界に放り込まれるよりは楽です。」
どうやらこのマニュアルによるとこの世界は魔法と呼ばれるものを人間も魔物というものも使えるらしい。
どうやら現実世界のゲームのような世界のようだ。
「とにかく誰かいねーか探すっきゃねーな。いつまでもここでぼへーっと突っ立ってるのもなんだし。」
「だねー。」
その時だった。
立ち上がったとき、殺気を背後で感じた。
どうやら誰かは確実にいたようだ。