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掌編小説集 「太陽が近かったなんて」 収録例

掌編「自転車」

作者: 蓮井 遼

お読みいただきありがとうございます。


和久は、一通りプールで泳いで、室内の時計を見たら大体1時間経っていたので、そろそろいいかとプールから出た。25mのプールをずっと往復していた。途中で潜水したものだから、耳の中に水が残った気がする。片足で飛び、首を傾け手で叩いて取り払おうとするが、簡単にはならない。あとは時間が解決してくれるだろうと呟いたが、本当は水分が気化してくれるだろうの間違いだった。

体育館のロビーの自販機でゲータレードを飲み、寄りかかれない椅子に座っては、手でリズムを作っていた。

前から女性が二人話ながら歩いてきた。楽しそうにすれ違っていた。どことなく彼はこの二人の明るさが気になり、知り合いたいと思った。けれど、それは何回も会ううちに発展するものだろうと思った。俺はまたしばらくは泳がないから、よくあるすれ違いになるだけさと彼は思った。

駐輪場の自転車を取ろうとすると、隣にさっきすれ違った女の子の一人がいて、和久は困った。どうやら二人はすぐに別れて帰ったらしい。普通に何も話さず帰るつもりだったが、何やらその子がまごついていたので、どうしたものかと声をかけてしまった。

「あの、何かありましたか」

女性は和久の顔を一目見て、照れ笑いした。

「あっ、い…いえ、丁度他の自転車と絡まったようで」

来館者の多い体育館だと駐輪スペースが割に合わなく、混雑する。車輪がぶつかり絡まったようだった。

「手伝いますよ」

と和久は自分の自転車を降りたものの、停める角度が悪く自分の自転車まで倒れてしまった。

「あっ」

と女性が言ったのは、彼の自転車かごに入れてあったビニール袋が地面に落ちて、そこからコンビニのおにぎりが出てきたからだった。

「あっ、シーチキンが」

ふと考えるまでもなくショックで彼は口に出してしまった。言った後、彼はこんなこと言うのは変なやつだと思われた気がして、恥ずかしさを感じた。女性はおにぎりを袋ごと拾って、彼の自転車をまた停めるのに手伝っていた。

「すみません、かえって面倒かけてしまい」

和久は周りの自転車を動かして、女性の自転車を動きやすくした。んっと、女性が力を入れるとやっと自転車の絡まりは取れて自由にできた。

「ありがとうございます」

と女性はお辞儀した。

「いえいえ」と和久は言いそのまま続けた。

「ここ、よく来るんですか」

「はい、友達とよく気晴らしに来てます。運動不足ですし」

「そうなんですね、自分はたまに来るくらいです」

和久はこんなとき、映画に出る登場人物だったらなんていうだろうと思い出した。よく初対面で一緒にご飯できるなと映画の脚本に恨めしさを少し感じた。

「それじゃあ」

と女性は帰ろうとした。和久は

「あの、僕は和久といいます。またお会いするかもしれませんし、名前聞いてもいいですか」

と尋ねた。ハンドルを握ったまま彼女は振り返った。

「えっと、真理恵といいます」

「真理恵さん、ですね。じゃあまた会えたら」

「和久さんは…あまり来ないのなら、そうそう会えないのでは」

「あっ…じゃあもうちょっと頻繁に来るようにします」

と声が大きくなった。

「そうです。その方が体にいいですよ」

と彼女はわらって、先に行った。和久は他の自転車をまた並びやすく動かして、家に向かった。

「運動は体にいいねえ」

と漕いでいる彼は上機嫌だった。





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