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超能力を使える女の子が俺を落とそうと必死に動いているけど、一人と付き合った時点で俺の人生が終了な件について。加えて世間は物騒です…… 作者:くろい

5章

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ひと夏の思い出7

 バイトを始めて一週間が経った。
 夏休みという事もあり、毎日が忙しくほとんど休む暇もなく働き詰めていたある日。
 いつものように厨房で働いては別の仕事をして昼に休憩していると……。

「あ、お疲れ様です。実は悲しいお知らせと嬉しいお知らせがありますがどちらから聞きたい?」
 香澄さんが何やらお話があるようだ。
 嬉しいお知らせと悲しいお知らせか……。

「じゃあ、悲しいお知らせからでお願いします」

「じゃ、話すわね。簡単に言うと、今日お泊りに来る団体様からキャンセルの電話を頂きました。それも、複数の団体様からです。とはいっても、当日キャンセルは8割のお支払いを頂くことになっているので平気ですけど。それでも、食材やらが無駄になると言うのは良い気持ちじゃないしね」

「まあ、そうですね。キャンセルされた団体さんは結構な人数だったんですか?」

「そうだね。二つとも宴会形式でのお料理の提供をご希望だったのよ。というわけで……嬉しいお話としてお仕事が減りました。ですから……神田君は今日は早く仕事終わりになりました」
 おお、確かに嬉しい話だな。
 この一週間ずっと朝から晩まで働き詰めだったし割と嬉しいけど、背景を考えると素直にはうれしくはない。

「じゃあ、今日は早上がりして良いっていう事ですか?」

「はい、今日は少し早いだけですが、ゆっくりとしてください」

「わかりました。ありがとうございます」

「じゃあ、私は仕事に戻りますね」
 香澄さんはそう伝えると再び忙しそうに仕事へと戻って行った。

「さてと、俺も仕事に戻るか……」




 そして、いつもよりも早めにバイトを切り上げることが出来た俺は自分の部屋に戻って来たのだが、

「なにをしよう」
 確かに早く上がれて時間が貰えたのは嬉しいのだが……。
 せいぜい3時間ちょいとなんとも言えない微妙な時間。
 疲れを取るために寝てしまうのもありな気もするが、それはそれで勿体ない。

「っと、そうだ。京香の事を気に掛けてやらないとな」
 京香は俺達に比べて相当早くにバイトを終わらせている。
 そんな京香は俺達を気遣ってなのかバイト終わりに訪れることもなく静かにしているのだ。
 しかし、今日は俺も時間がある。初めての体験だらけだろうし、どんな風に思っているか聞きに行こう。
 もしかしたら、何か不満を抱えてるかもしれないし。

 というわけで、京香の部屋に行くと、

「おにい。どうしたの?」

「いや、まあ。今日は仕事が早く終わったから。さすがにお前のことを気に掛けないとなって」

「へー、じゃあ入って」
 といったように部屋に入り適当に話を始める。

「で、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。皆良い人で、私も気楽で楽しい。なんと言うか、普段できない体験? ですごく新鮮」
 京香の目は曇りなく顔色も良いし、心底新鮮な体験をして人生の糧としての経験を得ているのが見て取れる。
 俺が心配していたようなことは何一つなさそうでとりあえず良かった。

「そうか。問題がなさそうで何よりだ」

「おにいたちこそ大丈夫? 明らかに働きすぎな気がするけど……」

「うーん。正直に言うときついな。短期じゃなくてこれが毎日続くんだったら俺は逃げ出す」
 短期バイトで終わりが見えていると言うこともあり、過剰な労働に耐えられているものの、これが毎日の日常となると正直はだしで逃げ出すレベルだ。
 というか、従業員の人たちもなんか最近働きすぎで殺気立ってるんだよなあ……。

「おにい。本当に大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。というか、皆はって調先輩と波豆さんは大丈夫そうなのか?」
 京香に調先輩と波豆さんの事を聞く。
 若田部さんはやはり忙しさに慣れているのか割と平気そうだし。

「調姉さんはなんと言うか。能力を多用しまくって凄い効率的に動いてる。波豆さんは……かなり手間取ってるけど最近は慣れて来たみたい」

「なるほど、調先輩は大丈夫だけど。波豆さんは少しダメというか慣れ切れてないっていう感じか?」

「そうそう。そんな感じ。で、今日だけど、波豆さんはミスして落ち込み気味。だから、一声してあげれば? なんか最近おにいは波豆さんから距離取ってるみたいだし。きっと喜ぶよ」
 ミスして落ち込み気味か……。
 京香から見ても俺が波豆さんを避けてるように見えるのか、いや避けるつもりはないんだけどさ。
 こう、波豆さんを見ると震えが……。
 だがしかし、ミスして落ち込み気味というのなら声を掛けるべきだろうな。

「わかった。で、波豆さんとかはいつ帰ってくるんだ? 物音から帰って来てはいないみたいだし」

「あと少し。ほら、今日お客さんのキャンセルがあったから。バイト組は早上がりという事らしい」
 俺以外もそろそろ帰ってくるのか。
 加えて、宿泊間近のキャンセルという事で料金も頂くと言っていたし、旅館にとっては割とありがたい誤算と言いたいけど。さすがに厨房に残ったあの食材の山を見たらなあ……。
 野菜とかは翌日に回せるけど、一部の食材、主に生ものは足が付くのも早く捨てざる負えないって愚痴が聞こえたからな。

「京香。それよりも一つ聞いて良いか?」

「何?」

「俺ってさ。普通か?」

「うん。普通じゃないところもあるけど。割りと普通に近いよ」

「だよな……。お前に話しただろ。超能力者が利用されるのではなく利用する世界を目指すって」

「知ってる。何が言いたいの?」
 急な俺の変わりように少し首を曲げて聞いてくる京香。
 切り出すのが急だったし当然の反応である。

「調先輩、それとばあちゃんにそれを叶えるには普通を辞めろって言われた」

「なるほど、つまりおにいは悩んでるの? 自分が変われるかどうか」

「まあな。いや、二人に言われた通りに変わらないといけない。それはもう分かってる。でもさ、正直に言うと変われる自信がないんだよ」
 二人に言われて俺が目指している目標を達成するには変わって、普通を飛び出さなければ到底なしえないのは分かってる。
 しかし、変われる自信がちっとも湧いてこないのだ。

「おにいは何か履き違えてる。おにいは凄く変わろうとしてるけど、そんなに気張る必要はない。少しだけ、ほんの少しだけ積極的になれば良いのに。だって、おにいは変わろうと思えばもう周りが押し上げてくれるんだよ?」

「周りが押し上げてくれる?」

「おばあちゃんの権力も考えが分かる人も嘘が分かる人も、他者から隠れて情報が集められる人も、いざとなれば相手を殺せる力もある。それを使えと指示するだけで好木さんは今以上に普通じゃなくなる」

「はは、改めて聞くと俺の周りって凄いんだな……」
 京香の言ってきた事に苦笑いしか出ない。
 なにせ俺の周りは超能力者を悪用し始めようと色々な組織が動き出したのがつくづくよくわかるんだからな。
 だから、俺は周りを守ろうと……。

「そう、おにいは正直に言うと凄くない。でも、周りは凄い。でも、立ち上がるのには意志が必要。そして、その意志を束ねる存在も。きっと、おにいが居なければ今ここに居るみんなは結託するなんてありえない。だから、おにいに二人が言った普通を辞めろって言うのは単純な事」

「単純な事?」

「おにいがみんなを利用しろって事。特におばあちゃん関係の力は近いうち失われる。それが分かってるから、二人ともおにいに普通を辞めさせて少しでも失われる力を残そうとしている。本当なら……権力は私たちの両親がそれなりに引き継いで割と権力を働かせることが出来た。でも、出来ない。だって……」

「……ああ、そうだな。父親はもう赤の他人でどこにいるのかもわからない。母親はうつ病で入院……いや、うつ病なんかじゃない。だって、うつ病になってからは一度も会わせて貰えてないんだからな」

「うん、たぶん。おばあちゃんの嘘なのは私も分かる。そして、口ぶりから私達に直接財産を残すって言ってる当たり……本当は死んでるんだと思う」
 俺と京香が実の母親から会わなくなって約10年。
 いくら何でもうつ病といえど会えないというわけがない。
 さすがの俺と京香はばあちゃんが死んだのを隠していることくらい普通にわかる。

 というか、ばあちゃんも言うタイミングを逃して言えてないだけできっと俺達がこの事に気づいているのを分かってるしな。

「でも、皆は良いのか? 俺なんかに利用されて」

「利用? 何を言ってるの。おにいは私たちを助けようと少しでも良い環境に導いてくれようとしている。力を貸さないわけ無いよ」

「本当に?」

「本当だよ……だって、このままだと私たちは紛れもなく利用されてく。そんなの目に見えている」

「だから、利用されても構わない……のか?」

「まあ、そんな理由よりも皆がおにいが好きだから力を貸すんだけどね」
 少し恥ずかしそうに言った。
 散々語ったと言うのに結局は俺が好きだからと言う単純な理由が一番の理由なのだから。

「京香。ありがとう。俺はやっぱり突き進む事にした」

「おにい、頑張って。ううん、一緒に頑張ろう」
 手を添えて励ましてくれる。
 手の暖かみが何だか悩んでいたことがちっぽけに感じさせるくらい暖かくて落ち着く。

 俺は皆を守るために皆を利用する。
 だから、まずは……

 この旅館を神田系列のホテル事業部に引き込んで利益を上げる事に繋げ、今のうちに俺の顔を売る。
 そう決意した。

 それと同時に廊下から足音が聞こえて来た。

 羽豆さんでも励ましに行くか……。
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