⑦俺の失敗
お待たせしました。
俺は落ちてた俺のバックと女のバック、それにクッションを抱えて戻ってくると、女が立て籠もっているトイレ前に陣取り女の荷物を床に広げ始めた。
先ずは財布から。っと、その前に、
「これスタンガンだろう?」
電源を『入』にしてスイッチを押すとバチバチッと紫電が走る。
「あっぶねえ」
それに、こっちも一見キーホルダーに見えるが痴漢防止対策のあれだ。紐引っ張ると警報が鳴るやつ。
知らない男にほいほいついて来る割には案外警戒心が強いんだなと感心する。まあ此処にあって俺が持ってる時点でアウトだけど。
「っつう事で没収~」
俺は取り敢えず自分が使いそうな物、要る物、女に持たせておくと特に危なそうな物は迷いなく自分のバックの方に移し替えていく。
「ええと、現金は…おお?結構もってんな。ラッキ~!」
思わず顔がにやける。諭吉さんが1、2、3枚…5枚もある!金持ち~!
これで5万円ゲットだぜ!あと千円札が2枚と…は有無を言わさずそのまま札だけ抜き取り俺の財布にイン。
これは後で俺が俺の為に有意義に使ってやるからな安心しろ。
現金を得た事でほくほく顔の俺は、さあ、次なるお宝は何だ?と、上機嫌で次の作業に取り掛かる。
「あとは…」
各種カード名義から判明した女の名前を連呼しながらの心理作戦。
「へえ、あさなかみおちゃんってこういう字書くんだ」とか「××って店に勤めてるんだね」とか「○○って、家、結構此処から近いじゃん、実家なの?」とか。返事が無くても別に構わない、これは女にただ聞かせる事が目的だから。
持ち物を一つ一つ床の上に並べながら、わざと中に聞こえるような大声で喋り掛けて女に精神的プレッシャーを与えていく。
それは、いつまでも其処でごねててもしょうがないだろう、もうこれだけ個人情報出揃っちゃってるんだからさっさと観念して出て来いや、そして土下座して詫びろ、その方が傷が浅くて済むしお互いの為だ、時間の節約にもなるだろう、という俺なりの彼女への優しさというか、気遣いというかメッセージだった。
本当は学生証があれば一発なんだけどな。残念ながら女は学生では無いらしい。まあ、元々そうは見えないけど。
「それに、可愛い妹がいれば言う事無しだ」なんて呟きながら、おお、我ながら鬼畜!だと思う。けど、この世は弱肉強食。弱い者から順に喰われていくのは当たり前。それが世の摂理というものだ。なんつって。
まあ、妹、可愛いけりゃ俺の女にしてやってもいいけど。
女ってのは何でかな、そういう変に情に脆いところがあって、大抵その部分を上手く突いてやると直ぐに落ちるように出来ている。まじでチョロ助。一石二鳥。
そして俺は女を更に追い詰めるべく情報を引き出そうとして…ある違和感に気付いた。
「…あれ…?」
俺はそこで此処にあって然るべき現代人には絶対必要不可欠の、財布代わりにもなるある物が無い事に今更ながらに気付いた。
(‥スマホ…が、無い…?)
それか携帯でも良い。
ベッドの所か?さっき見た時は無かったと思うけど、「見落としたか…?」それとも暴れて下に落ちたのかもしれない。
俺の胸中に俄かに焦燥感が沸き起こる。
トイレの壁向こうへ耳を欹てると、丁度良いタイミングで流水音が流れてきた。
俺はチッと舌を打ちながら、「まさかな…」と思う。
いや、まさか…。無い、無い。
「…………」
俺は嫌な想像に蓋をして、この部屋の何処かにあるだろう女のスマホを取り急ぎ探し始めた。
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