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「よって本法案を可決する!」  作者: ミスター&ミセスX
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③「来るんじゃなかった」

※文章中、差別用語が使われております。特に男性の方、ご注意ください。

「じゃあっ、アキちゃんの出所を祝って、かんぱーーーい!」

「「「乾杯-っっ!!」」」

ガチャガチャとビールジョッキを打ち鳴らす。


それからは「おめでとう」だの「お疲れ」だの「久しぶりー」だの、皆から一通り祝いと労いの言葉を貰いつつ、俺もいちいち「おう」とか「ありがとう!」とか言って、ジョッキを掲げ笑顔を振り撒く。



「美味そ」

「おう、今日は俺たちの奢りだし、食って、食って」


テーブルの上には唐揚げ、枝豆、揚げ芋、ピザ、キムチetc。塀の中じゃ凡そお目に掛かれないような油物に刺激物といった美味そうな摘まみの数々が所狭しと並べられている。おまけに酒と煙草の組み合わせで、


「ふぅ~。やにくら、きた~」

久々はきついぜ。

けど、やっぱシャバの空気はうめえ!


それから、痩せた?だの太った?だの、JKじゃあるまいし。まあ、割とどうでも良いけど。この辺はお約束の話。


けど、なんか途中からやたらとダチの態度というか、喋り方というかが鼻についてきて、俺は何か言いようのない悪い予感のようなものを覚え始めていた。


「何、女でもできた?」

「まあな」

「へえ。俺にも紹介してよ?」

「ああっ、無理!」


だって、そんなの社交辞令じゃん。そんなに目一杯否定しなくても。取り敢えず、「そうだな」、「今度な」くらい言っとけば良くね?…まあ、あんな事があれば友だち紹介したくない気持ちも分からなくも無いけど。


俺だってこいつに妹紹介したくねえし。

まあ、いっか。今日はめでたい日だしな。喧嘩は良くねえよ。

つうか、今の俺じゃこいつらに勝てる気しねえしな。


「まあ、飲め飲め」

「ん?おうよ」

「ねえねえ、それよかさ、刑務所(ムショ)ん中のこと教えてよ」

「つうか、さっきから声でかいっての」

刑務所、刑務所って、隣の奴に聞こえるだろうが。まあ、別に良いけどよ。


「やっぱ飯って臭えの?麦飯?6:4?7:3だっけか?」

「7:3。ちなみに7が米の方な」

つか、言う程臭くも不味くもねえよ。

「うおお!なら銀シャリ食わそうぜ!」

「何、銀シャリって?」

「おま、知らねえの?銀シャリって言ったら白いおまんまの事でしょうが!なあ?で、感極まって飯食いながら涙と鼻水盛大に垂らして泣くの。だしょだしょ?」

ニヤニヤしてんじゃねえよ。

「はあ?なんか、お前らさっきから人のことちょこちょこ馬鹿にしてねえ?」

俺のこと舐めてる?

けど、そんな俺の言葉は無視されて。


「なあ、背中に落書きしてる人とか、いた?」

「……さあ、どうだったかなあ……」

居たとしてもそんなもんじろじろ見られるかっての。


「正直に言ってほしいんだけど、後ろ…掘られた?」

「あーあ、言っちゃった!」

「それって…」

「ああっ、だから痩せたんだ!アキちゃん!」

「うお、まじか。我らがアッキーのバックバージンがあっ」

おい、お前ら、いい加減ふざけんなよ。

「まあ、しょうがないよねえ…(玉無しだし…)」

あ?今、小声で何つった?(玉無し?)


「あ、お兄さん!こっち生一丁ね!「二丁!」「三丁!」」

「なあ、お前ら、いくら温厚な俺でもそろそろキレんぞ?」

つうか、冗談きついよな?


けど、冗談なんかじゃなかった。


「にっぶ」

くすりと笑う。

「駄目だ、コイツ、全然わかってねえよ」

ニヤニヤニヤニヤ…。

ああ、一体何がどうなって…。


「なあ、そろそろ誰か本当の事教えてやれば?自分の立場ってやつをさ」

「アキちゃん、俺らもう昔のまんまじゃないんだよ?それ、自覚しようよ?」

「…………」


こいつらが何を言ってるのか俺には全然さっぱり分からない。いや、分かっちゃいるけど、頭がそれを理解する事を拒んでた。だって信じられるかよ。


お前ら、俺のダチじゃなかったのかよ。


「悪ぃ、俺、帰るわ」


そう言うのが精一杯で、結局、俺は自分の荷物、スポーツバックをひったくるようにして手に取ると、逃げるようにしてその場を後にした。


居酒屋を出る時、後ろでどっと沸く声がして、

「うける~」

「あいつのあの顔、見た?」


「あいつら、マジでぶっ殺してやる!」

俺は怨嗟の声を吐き散らかしながら足を速めた。


畜生!あいつら、覚えとけよ!


出所祝いしてくれるっつうからわざわざ出向いてきてやれば。あいつらの言葉にまんまと引っ掛かった俺も俺だけど。あんな糞共に簡単に騙された自分が情けなくて、腹が立って仕方なかった。


「ああ、くそっ!胸くそ悪いっ!!」


あんな奴らに会うんじゃなかった。


(けど、これからどうしよう…)


「つうか、大事な事訊いてねえし」


こんな事なら女の事もっと早く訊いときゃ良かった。

金無いし、行くあても無いし。


情けねえ。


親はとうとう俺を見限ったらしく服役中一度も面会に来なかった。

出した手紙も宛先不明で返ってきたから、どうせ実家に行っても引っ越していないだろう。

電話も通じなかったし、高い電車賃払って行ったところで無駄足になるのがオチだ。

ちなみに女とガキには接見禁止令が出てる。女の実家の方もそうだ。


(どうすっか…)


だから本当の事を言うと、今日はあいつらの内の誰かの家に泊めてもらって、ついでに金も借りる心積もりでいたんだ。

完全に当てが外れたけどな。

けど、


「ねえ、彼女ひま?」


捨てる神あれば拾う神あり。その後、俺はまんまと水商売風の女をゲットして、ふたりでラブホテルへとしけこんだ。





お読みいただきましてありがとうございます。

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