②科学的去勢手術とは
避妊を目的とした男性用去勢手術は所謂パイプカット(精管結紮手術)と呼ばれる方法で、手術はメスを用いず陰嚢に小穴を開け、その中にある精管のみを外に引っ張り出して切除する。手術時間も約三十分程と短く、ごく簡単なもの。
術後も性行為等に支障は無く、勃起も射精も可能。また復元手術により一度切った精管を繋ぎ合わせ、機能回復させる事も出来るが、その場合は裁判所への申請と認可が必要。勿論自費である。
その他にも、後で後継者問題等で揉めないよう精子の凍結保存も行っている。手術費用、手数料、月々の管理費用は別途必要。
「なんだ…」
結局、俺には薬事療法は効かず、人格矯正プログラムも一定以上の効果が認められなかった為、外科的処置が必要と判断された。
その手術前に医者から詳しい説明を受けた俺の感想はと言うと、『何だ案外人道的じゃん』だった。
正直もっと酷い事されるかと思って冷や冷やしてたんだけど、心配して損した。
じゃあ何か、やってもガキは出来なくて、生で中出しし放題って事か?
「…そういう事になりますね」
何だそりゃ、何のご褒美だ?
それの一体どこが罰ってか?
「危険性があるとか?」
「いいえ、簡単な手術ですし、所要時間も30分程ですので、特には。勿論、何事にも100%完璧という事は有り得ませんから、絶対とは言い切れませんが。もし本手術が原因で体に何らかの不都合が生じた場合は完治するまでの間、費用も含めて此方で誠心誠意、治療に当たらせていただきますので、その辺はご安心ください」
へえ。
「無料で?」
「…正確には手術費、治療費用は国民の税金で賄われております」
それって結局、無料って事だろう?
「…患者さんのご負担分はありません」
「ふうん」
けど、なんかいくら何でも話が旨すぎねえ?
とは思ってみたものの、結局それをしなけりゃ出られないと言われれば是非も無い。
まあ、一生子どもが出来ないって言われても一応ガキはもう一匹いるし。一人いれば十分だ。
そう言えば、あいつ擁護施設行ったとか誰かが言ってたけど、今いくつだ?
ええと、あの時が確か2、3才だったから…今は7つか8つか。早ええな。
あと何年かしたら俺のこと養ってくんねえかな。超希望。
結局、俺は免責同意書にサインをして、その手術を受けた。
それが5年の刑期満了の約2か月くらい前の話で、手術後は異常が無いか検査したり色々、要経過観察。それともう一方で俺は社会復帰する為の準備期間に入った。
準備は大まかに分けて二つ。
一つは浦島太郎状態にならない為の、主に新聞読んだりっていう情報収集。それともう一つは出所後、何をするか。
そういう専用のシートっていうのがあって、連絡する人、しない人、その連絡先。先ず誰に電話して、何処に住んで、働く宛てはあるのか等々細かい事を記入していきながらシミュレーション、頭の中をシャバのそれへと切り替えていく、らしい。
そうして、あれよあれよと言う間に俺は出所日を迎えた。
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