三、助っ人(1)
十二月十日の朝を迎えた。六時半、目覚ましに起こされる。冬の朝とは思えない。何となくなま暖かい。雨でも降るのか。散歩中に容子が声をかけてきた。
「ジュンさん、事件のことにこれ以上あんまり首を突っ込んで欲しくないんよね。なんか心配でしょうがないんよ。」
「・・・ しかしなぁ。」
「何もジュンさんがやることと違うと思うわ。わたし。」
「放っといたら、お宮入りになるで、この事件。」
「せやけど、何もジュンさんがせんでもなぁ。」
「心配せんでええて。藤村刑事もついてくれてるがな。」
「まぁ・・・、ジュンさん見てると、最近けっこう生き生きしてるんでな、言おうかどうか迷っとたんやけど。いつも、ジュンさん走り過ぎるやろ?」
「新聞記者にアドバイスしとるだけやから心配ないて。」
「・・・ 」
「分った、充分に気ーつけるわ。」
いつも明るく屈託のない容子にしては、珍しかった。容子の明るい性分にこれまでも幾度となく助けて貰って来た。純一朗は無理やり話題をかえた。
「ところで年末が待ち遠しいな、今年の神戸ルミナリエはどんなやろ。今まで、話だけやったからな。」
「楽しみやね。泊まるとこどんなとこやろ。」
「舞子って須磨より先やったかな、海沿いで寒いんと違うかな。」
「寒い言うても、知れてるわ。」
「お姉さんも、付き合ってくれるんかな?」
「そら、付き合ってくれるわ。」
十一月の中旬に、何かの話の成り行きで、年末までに一度神戸に帰って見たいということで、予定を立ててホテルの予約も済ませていた。神戸ルミナリエを、出来ればもう一度見てみたいと容子が一言洩らしたからだった。純一朗も一度は見たかった。
天気が良ければ、この時間すでに、ユリカモメが餌を求めて騒ぎ始めているのだが、今日は天気の所為か未だおとなしい。散歩後、朝食を済ませ掃除をしていたところ、電話が鳴った。早川記者からである。声が弾んでいる。
「オヤジさん、おはようございます。早速ですが、殺された加藤儀一の件です。その後の捜査情報が入りましたので、一応連絡して置きます。」
「あ、お願いします。」
「何か鈍器のようなもので後頭部を一撃されて殺されたことは、すでに報道済みでしたよね。その鈍器が特定されたようです。」
「凶器が見付かったんですか?」
「いや、検死でなかなか特定されていなかったんですけど、それがやっと特定されたということです。」
「なるほど。」
「使用凶器は鉄アレイで、それで後頭部を一発。プロの仕業と見られています。犯人割り出しが、最も難しいケースですね。」
「プロですか。そりゃあ、そうでしょうね。」
「金だけで何でもやる連中は、証拠を残しませんからね。」
「うーん・・・ 」
「おそらく失踪している岩田正道がプロを雇っての犯行と見て間違いなさそうです。岩田は、殺人容疑でも指名手配されました。」
「そうですか・・・ 」
「多分、コロシの手配をした後に失踪したんでしょうね。」
「なるほど、分りました。ところで、今日の打合せもあるでしょうから、これからそちらに伺っても宜しいですか?」
「そうしていただけるとありがたいですね、実は、一時からと言った手前、遠慮してたんです。じゃあ、この続きは社の方に来られてからということで。」
「分りました。」
加藤殺害の指示が岩田からで、それもプロを雇っての仕業となると、相当、金を積まないと・・・ 岩田は少なくとも、それだけの金を持っていたことになる。脱税のための仕度金を含め、報酬額はいったい如何ほどだったのか? 岩田が捕まらない限り何もかも不明のまま、ということか。やっぱり、岩田正道が、中心人物なのか。
仕度を済ませ、『毎朝スクープ』に向かった。純一朗は社に着くなり、早川記者から別室に案内された。
「オヤジさん、内山の証言の中に、岩田が日の出興産に問題人物が一人いると言っていた、というのがありましたよね。」
「ええ、ありましたね。」
「その人物というのは、多分、沢田という課長代理のことだと思うと内山が供述したそうですよ。」
「え、そうですか。」
「内山は、長崎での取調べで、誰のことか分らないと言っていたんですが、その時は、沢田さんが、亡くなっていることを知らなかったらしいんです。」
「なるほど。」
「熊本での取調べの中で死んだことを知って、やっぱりそうか、と洩らしたというんです。内山本人は、殺されたと思っているようですよ。」
「彼は、長崎から熊本に移ってるということですか。」
「そうです。逆に熊本に逮捕された四人は、今長崎で取調べを受けています。多分間もなく五人とも佐賀県警の方に移送されるでしょう。」
「内山の証言で、沢田さんの再捜査するんですかね?」
「するんじゃないですかね? 熊本が終わったら佐賀へ移送する前に福岡県警が、事情聴取することになっているようですから。」
「脱税の方は、各県で立件するということなんでしょうね。佐賀まで移送されるということは。」
「そういう事です。」
「ところで内山が、沢田さんが殺されたと思ったのは、どんな根拠なんでしょう。」
「それは、まだ分っていません。」
「そうですか・・・ 」
「その根拠次第で、福岡県警は動かざるを得なくなると思うんですが。」
純一朗は、早川記者から内山に関する新しい情報を貰い、いよいよ新たな局面を迎えたように思った。報告を聞いた後、続いて菱和商事に向かう準備に入った。
菱和商事福岡支店は、博多駅筑紫口から歩いて五分、県の合同庁舎すぐ近くのビルに、グループ会社と共に入っていた。自社ビルなのだろうか? かなり古くなっているが大きなビルである。約束の時間、三時ぴったりに受付の呼び鈴を押した。中から事務服を着た事務員が出て来て、受け付け横の応接室に通してくれた。事務所内の様子は分らない。
暫くして、いかにも営業マンらしい、四十前後の日に焼けた男が、小脇に資料らしきものを抱えて入ってきた。この男には、見覚えがある。沢田さんの葬儀の時、何かしら目立った男だ。
「お待たせしました。星野と言います。」
「お忙しいところ、申し訳ありません。」
彼は、純一朗だけに名刺を差し出した。すでに早川記者とは、これまでの取材で何度か面識があるのだろう。名刺には、燃料課長、星野昭夫とあった。
早速、早川記者が、口火を切った。早川記者はユックリした口調でしゃべる。相手にしゃべらせるテクニックなのかもしれない。それが身についてしまったのだろう。名前とは逆だなと純一朗は思っていた。
「たびたびで恐縮なんですが、今日は、今回の商談をどこのどなたから受けられたかをお聞きしたいと思いまして。」
「このお話をいただいたのは、去年の十二月初旬でしたか、日の出興産の沢田課長代理からです。」
「うーん。実は、日の出興産さんのお話では、逆に、菱和商事さんからご相談を受けたとおっしゃっているんですよ。」
「そうらしいですね。しかし、そんなことはありません。警察の調べでもお話して、すでに納得して貰ってますが、ホント迷惑しているんですよ。」
「そうでしたか。この件については、捜査当局から情報が出てないもんですから。申し訳ありません。」
「当初、新聞に我社が関与しているような疑いのある記事が出て、社内でも大問題になったんですよ。」
「報道筋にもはっきりさせる意味で、もう一度その辺の事情というか、経緯をお聞かせ願えませんか。」
「お話しますが、出来たら、我社は関与してなかったという記事をお願いしますよ。」
「その点は、社に持ち帰って検討させて貰います。」
「実はですね。去年の十二月の中ごろに、沢田さんが来られて、今日は折り入ってお願いしたいことがある。我社にとっても良い話だと思うので相談に乗ってくれと言われましてね。」
星野課長と沢田さんは同い年でもあり、気が合って、ザックバランな友達付き合いをしていた関係で、ゴルフ、飲み会も共にしていたとのことだ。神経質そうに見える星野課長は続けた。
「で、その相談を受けたばっかりに今回の事件に繋がってしまったんですよ。これには参りました。」
星野課長が沢田課長代理から聞いた話の概要は次のようなものであった。
「四国の地場大手の田島商事という会社では二年前に、事業拡大五カ年計画が作成され、その具体策が示された。計画の柱となったのが、『しっかりした運送基盤を作り上げることで、運送事業の拡大を図り、運送部門の独立を目指す』であり、さらにその具体策として、『関西から九州に至る西日本全体の運送ルートを確保することで、シェアアップを図ること。特に、弱い九州地区を強化することで、全社のシェアアップを実現する。』が掲げられた。
計画は着々と進められて来たという。いよいよ、九州地区強化の方策として、佐賀、熊本、長崎、それぞれの県に一大トラックターミナルを建設し、ターミナル内には、トラック専用の軽油スタンドを設けることとなり、建設用地もほぼ決まったようだ。
軽油スタンドについては、人手の問題、経由引取税の問題等もあり自社では運営せず、地元で石油販売会社を育成する方がランニングコストを抑えられるので望ましいと判断。選ばれたのが、西島石油、岡野商事、大久保石油の三社であった。まず三社への軽油の安定供給先を確保し、かつ三社は販売実績を作る必要がある。
安定供給先確保については、近い将来特約店になることが前提であれば日の出興産の方で安定供給が可能なので、将来の問題は無い。しかし特約店になるまでの三社に対する供給が問題である。何故なら現状ではまだ日の出興産の特約店ではないため、業者間の転売禁止というルールに引っ掛かり日の出興産では供給が果たせない。そこで、三社に対する供給は当面、田島商事が行うこととしたいが、今度は、田島商事には元売資格が無い。それが問題となる。色々検討した結果、ここは一つ、元売資格を持っている菱和商事さんのご協力を仰いで見よう。という事で、今日はお願いに来た。」
以上が、沢田課長代理の話の内容であった。そして、
「まあ、この話を聞いて私は直感的に良い話だなと思いました。」
「と言いますと? 」
「軽油も日の出興産から出る訳だし、受け渡し(デリバリー)も日の出興産の方で取りまとめてくれるし、届け先も田島商事へ船で持ち込めば、いちいちタンクローリーの手配をする面倒もありませんからね。ただ、与信設定が無理な三社へ販売することが、簡単には行かない点が問題でした。沢田さんはその点を何とかクリアーしてくれと言われました。」
「今までのお話で、チョット分り辛いのがですね、先程田島商事では元売資格が無いのでだめだと言われましたね。何でだめなんでしょうか。」
「それはですね。田島商事は、元売ではありません。従って、未課税の軽油を三社に販売する訳には行かないでしょう。一方、三社の方は、未課税の軽油を仕入れ、販売実績に基づいて申告義務を果し、自らの手で課税軽油にしなければ、県に対しても実績を証明出来ません。」
「三社は、仕入れる際に課税済みの軽油ではいけないものなんですか? 」
「いけないという訳ではありませんが、供給面でもう一つ不安定ですし、特に供給不足の時は仕入れ値がかなり高くなりますからね。」
「そういうもんなんですか。」
「納税義務者としての実績がつけば何処からでも、未課税軽油を仕入れることが出来るようになります。何処からでも仕入れが出来るということは、元売へ価格面での牽制になりますからね。」
「でも、軽油スタンドはまだ建設していませんよね。スタンドが出来てからにすれば、日の出興産が直接納入出来る訳でしょう。」
「日の出興産の方が待てない状況、つまり計画が落ち込んでいるという話でしたよ。」
「なるほど・・・」
「で、早速当社の方で、三社に売り上げるための手法を検討し、もし前受金処理が可能であれば取引を受けても良いのではないか、となり、沢田さんにその旨を伝えたところ、それでも結構という返事を貰いました。」
「前受金処理と言いますと?」
「取引前に、現金を預かり、預かっている範囲内で取引を実行するというものです。」
「であれば、安全ですよね。」
「一番確実な方法です。で、早速、稟議を上げて社内的にも了解を取り付けました。これが、稟議書のコピーです。」
稟議書には、話の内容がすべて記入され、燃料本部を通過し管理部の確認も取り付けてあった。星野課長の説明は、納得出来る内容であり、つじつまも合っている。しかも、稟議書の内容まで示した。
「いや、詳しくご説明いただいて、ありがとうございます。我々もこれで、スッキリしました。お忙しいところをホントにどうも申し訳ありません。又分らないことがありましたら是非教えてください。」
「ええ、ご協力しますよ。」
「お願いします。ではこれで。」
純一朗と早川記者は、菱和商事を出ると互いに顔を見合わせた。早川記者は多少困惑気味の顔で、純一朗に話した。
「おかしいですね、双方の言い分、全く食い違ってますね。」
純一朗は星野課長の話を整理しながら答えた。
「どちらの話も、一応筋道は通ってますけどね。」
「しかし、どちらかが、作り話ということになるんでしょうが、菱和商事は、稟議書まで見せてくれましたよね。」
「そうですね。日の出興産がウソをついている、と見るべきでしょうね。」
日の出興産、菱和商事、双方の説明を聞いて二人は頭を抱え込んだ。デスクに戻って、もう一度、整理してみた。
「オヤジさん、どう思われます?」
「日の出興産の大西支店長の説明が理路整然としていたことと、時々小林課長に確認していた点が気になるんですよ。」
「もう一度小林課長に取材しましょうか。」
「そうですね。ベトナムに輸出というのも多少気になります。軽油の需要がそんなにあるのか? という疑問は生じなかったのでしょうか。」
「その当たりも確認して見ましょう。」
話し合った結果恐らく、日の出興産に何らかの仕掛けがあるに違いないということで、念のために、今度は、小林課長に事情を説明した上で、アポを取ることにした。
日の出興産の支店長の説明を聞いた時、自分の読みは、間違いだったのかと、肩を落とした純一朗であったが、菱和商事の話を聞き幸か不幸か自分の読みに、やはり狂いはないかも知れないと、再び自信を取り戻すことが出来た。
小林課長のアポイントは、十二月十二日午前十時に取れた。二人は、日の出興産のウソを見抜こうと、緊張気味で同社を訪問した。小林課長の顔が、少し強張っているように思えた。早川が例によって、ゆっくりした口調で切り出した。
「小林さん、何度もお邪魔して申し訳ありません。実は、電話でもお話した通り菱和商事さんでも、この前と同じ質問をさせて貰ったんですよ。すると、先日の支店長さんからのご説明とは、全く違う説明があったもんですから、困ってしまいましてね。」
「そうでしょうね。実は、私は、警察の調べですでに菱和商事さんの説明内容を知っていたんですが、支店長には報告していませんでしたので、あの席ではお話出来ませんで、申し訳ないことをしました。」
「と言いますと?」
「菱和商事さんの取引の経緯を聞いて、私もビックリしたんですが、当事、沢田君からは、支店長からお二人に説明した通りの話が、私に上がってきました。」
「沢田さんから課長にですか。」
「はい。丁度私たちは、計画の未達成分を残り三ヶ月でどうこなそうかと苦慮していたこともあって、私としては、許可したいが社内的には難しいかもしれない。一度支店長に相談をして意見を聞いて見よう、と彼に伝えました。」
「その時彼は何と?」
「先方から返事は急ぐと言われている、と言っていました。」
「じゃ、直ぐに支店長さんに相談された訳ですね。」
「支店長は出張中だったんですが、帰って来られて直ぐに相談しました。」
「相談の内容は? お差し支えなければ。」
「沢田君からの話をそのまま伝えましたところ支店長から、厳密には業社間の転売になるが、海外向けなのでこの際、支店長決済ということで、許可する。と言って貰いました。社内ルールを歪めるような経緯があったものですから、尚のこと、支店長もこの話を良く覚えていたんだと思います。」
「支店長さんと相談された時、ベトナムへ軽油を大量に輸出するという話自体に疑問を感じられませんでしたか? お二人とも。」
「いや、そんなことがあるだろうかと、二人で疑問に思いはしましたが、何せ菱和商事さんからのお話ですので、それと福岡支店の事情もありましたから。」
「すると、課長は、日の出興産の方から菱和商事へ話を持ち込んだことを全く知らず、菱和商事からの依頼とばかり思っていたんですか?」
「今となると、お恥ずかしい事ですが、その通りです。」
「すると、この件は、沢田課長代理が独断で、社外の誰かと手を組んで仕組んだということですかね?」
「恐らく・・・。警察の話では、エコノミープロデュース社の岩田という社長と組んだのだろうとのことでした。」
「そうでしたか」
「はい。」
「熊本県警は、ここまでの話を既に掴んでいるということですね。」
「勿論、捜査済みと思います。」
「警察での調べを受けられた時、菱和商事の説明と食い違っていた事を、何故支店長さんに、報告されなかったのでしょう?」
「警察の説明では、この件は会社が関わった訳ではなく、恐らく、沢田君の個人プレイというか、岩田社長と組んで引き起こした事件だろうということでしたので、会社が関わっていないことがはっきりしている以上、社内的にも問題を大きくしないためにも、支店長には報告しない方が良いだろうと判断しました。」
「支店長に報告すると、問題が大きくなるということですか?」
「そう言う事ではありませんが、支店長だけではなく支店次長や総務部長の耳にも入ることになりますから、そうすると自然にですね。業転禁止の社内ルールを無視した訳ですから。」
「分りました。どうもありがとうございました。」
日の出興産を後に、急いでデスクに戻った早川記者は、スタッフ全員を集めた。そして、ここ数日間の、取材報告をまとめて行った。純一朗は、帰ろうとしたが、呼び止められていた。スタッフとの打合せをテキパキこなし、純一朗は別室に案内された。
「オヤジさん、どうやら、脱税事件の取材は区切りがついたように思います。今回の脱税事件が、沢田、岩田ラインで計画され実行したものという記事は、今の状態では無理だと考えます。」
「そうですね。第一この事件、沢田、岩田ラインだけではとても不可能だと思いますよ。まだ真相が掴めていないように思いますね。」
「しかし、これ以上追いかけても、このままじゃあ真相には近付けそうにないように思います。」
「他社でも、関連記事が出てませんよね。熊本県警は、捜査内容を、殆ど発表してないという事でしょうか。」
「そうですね。多分、熊本の後に、佐賀県、長崎県の捜査が続きますからね。熊本の捜査内容が、他県の捜査の判断を狂わせてはならないという配慮もあるのでしょう。各県の地検が今回の脱税を起訴すれば、起訴内容を発表するんじゃないでしょうか。それよりも、熊本県警は真相が掴めていない状態で発表のしようがないんじゃないですかね。」
「なるほど、そうでしょうね。」
「ところでオヤジさん、これからは、切り替えて殺人事件を追いかけたいと思います。岩田は失踪、沢田さんは既に死亡。つまり、事件の要が二人ともいないんですよね。ということは、先程からのお話の通り、これ以上脱税を追っても意味がありません。真相は闇の中です。加藤殺害事件と、沢田さん死亡の真相を調べれば、あるいは、脱税の真相もはっきりして来るように思います。これからも、ご協力いただけませんか?」
「そうですね。死人に口なし状態で終わったんでは、死んだ人も浮かばれませんよね。殺人事件がはっきりすれば、脱税事件の真相もはっきりすると断言出来ますね。私に出来ることなんて知れてると思いますが、単なる助っ人でよければ、喜んで。どうせ暇で時間はたっぷりありますしね。」
「助かります。よろしくお願いします。」
早川は、純一朗の穏やかな人柄と、読みの鋭さに心から信頼を寄せるようになっていた。日々記者仲間で、巧を争うように先を急ぎ取材に明け暮れている早川にとって、日頃得られぬ安らぎを心底感じながら仕事が出来る。オヤジさんが側にいてくれたら、殺人事件もきっと解決出来ると、妙に勇気が湧いてくる。純一朗が協力を了解してくれた時、メガネを鼻先にずり落としそうにしながら心から喜んだ。純一朗は早川記者と別れ、博多大丸に立ち寄った。久しぶりに好きなおはぎでも、買って帰ろう。好きなものでも食べて気分転換をしたかった。