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今回の脱税事件での逮捕者は、西島秀雄、岡野文三、大久保芳彦、太田高之、内山重敏の五人である。純一朗は、こんな雑魚ばかりで何の解決になるのか? と当局の不甲斐なさに腹立たしさを覚えた。先の三人は、石油のことも、軽油税のことも全くチンプンカンプンの素人で、ただ、金に目がくらみ、無知がゆえに利用されただけの男たちだ。後の二人は、首謀者の一人と目される、岩田正道にこき使われていただけの男たちで、肝心のところを知らされていない。一方、この事件絡みで殺されたと目されるのが、沢田勉、加藤儀一の二人。犯人の、糸口さえ見出せずにいる。
純一朗は、早川が当初考えていた通り田島商事や菱和商事がこの件の片棒を担いでいることに違いは無いと思うが、なんと言っても、日の出興産がこの脱税事件の主犯格として一枚加わっていると見るのが妥当だという判断をしていた。ただこれほどの歴史のある大手石油メーカーが、なんのためにと考えると、はっきりした答えを見付けることが出来ない。純一朗は、何か見落としたままになっているのかも知れない、チェックのためにもう一度原点に戻り、事件を振り返って見る必要があると思った。
家に帰った純一朗は、静かに事件を振り返って見ることにした。先ず、販売ルート。軽油そのものの流れは完全に掴めている。販売した商社も特定され、山東交易がトータルで九千キロリットル販売しているが、これは菱和商事の依頼で引受けた訳で、大半の三万四千五百キロリットルは菱和商事が三つの石油販売会社に販売しており、販売の中心的存在であることで間違いはない。
次に、金の流れ。菱和商事と山東交易に、現金が前払い条件で、西島石油、岡野商事、大久保石油、それぞれの名義でデリバリー前にきちんと振り込まれていた。田島商事はそれぞれ販売会社の指定口座に商品代金を条件通り振り込んでいる。一見正しいし、問題はないように見える。しかし、純一朗は考える。金の流れの中で、最も問題なのは、商社に支払われた三つの石油販売会社名義分の大金を、一体誰が準備したのか、という点だ。売却した商品代金が田島商事から回収されるまで、条件通り計算すると四十日間必要となる。少なくとも、二万キロリットル分の現金を三つの石油販売会社は前払いのために用意しなくてはならない。十四億円以上必要であろう。簡単なことではない。そこで考えられるのは、田島商事の演技とも言える協力だ。
つまり、一つの例として、田島商事自身が現金を用意し、西島石油や岡野商事の名義で、菱和商事に振り込む。受け渡し(デリバリー)の完了後直ちに商品を地元で販売し現金に換える。換えた現金を又西島石油や岡野商事の名義で菱和商事に送り込む。小刻みな回転をさせる方法だ。この方法であれば、用意すべき現金は十分の一位で済むであろう。しかし、十分の一であっても一億四千万円以上になる。田島商事にいくら金の力があるとしても、これを用意する程の力があるとは考えにくいし、またこの方法を取れば、金の流れから足が付く可能性が出て来る。第三者の応援がどうしても必要になるはずだ。
金の流れを整理する時、もう一点注目しておかねばならない点がある。それは、岩田が当初からの活動資金をどうやって工面したかである。三つの販売会社にそれぞれ二百万円渡しているし、太田、内山に短期間とはいえ破格の給料を出している。一千万円以上必要としたであろう。決してはした金ではない。金の流れとして確認出来るだけでもこれだけの問題点がある。答えは今のところ闇に消えたままである。
最後に事件に関与した人の流れ、人間関係だ。この際、逮捕された雑魚はどうでも良い。問題となるのは、指名手配を受けている岩田正道以外で、日の出興産の中心人物及びブレーンは誰か? 菱和商事の中心人物は誰か? それに、田島商事の社長田島浩司。これらの人間を結びつける謎の人物の存在が他にあるのか?
ここまで整理して見た純一朗は、『日の出興産百年史』で見た、磯部宗一の存在がどうしても気に掛かる。大物代議士と日の出興産は昔から何らかの繋がりがある。どんな関係かが気になり、同時に欠かせない存在に違いないと思っていた。そして、事件を整理している内に、それらとは別に、まだ他にも調べるべき相手がいることを忘れていたのに気が付いた。船会社である。
事件の整理を終えた純一朗は、教えて貰ったばかりの早川のケータイに電話した。
「寺島です。今日はお疲れ様でした。早速なんですが、船会社を当たってみて欲しいんですが。特に、持ち届け条件で手配された船の船会社を。そして、今回の仕事は日の出興産の誰が持ち込んで来たのか、受け渡し(デリバリー)の担当者は誰だったのかを。出来れば、日の出興産を訪問する前までにお願いしたいんですが。」
「分りました。船会社ですね、早速調べて置きましょう。」
珍しく、純一朗が慌しい電話をして来たので、早川はびっくりしながらも、重要な内容であることを察した。
純一朗は、日の出興産が当初取材を拒否して来たのは、不用意に答えてはまずいと判断したからで、核心部であると自ら認めたのも同然だと思っている。核心部であるなら、日の出興産から各種指示が各方面になされたはずである。船会社に対して、田島商事まで軽油を運ぶように誰が指示したかだけでも分れば、そこから突破口が開かれる。
また、菱和商事にこの取引を持ちかけた人間も必ず存在するわけで、それを確認するために、菱和商事にももっと激しく揺さぶりをかけねばならない。さらには、軽油引取税納付義務者資格の認可の条件あるいは、その実態を知って置く必要もあろう。ということは県への取材も忘れてはならない。この資格、そう簡単には認可されないはずだ。
純一朗は、今までの取材活動には、方向性が定まっていなかった印象を強く持つ。これからは、方向性をしっかりと決めて、ある程度犯人像を想定しつつ、取材をして行けば必ず黒幕にも到達出来ると信じた。『毎朝スクープ』にこの点を理解して貰い、今後は取材の方向性をもっとはっきりと定めて、取材活動を進めるよう提案することにした。
十二月九日を迎えた。日の出興産に取材に行く月曜日だ。約束の時間は、午後一時だがその前に、朝から若いスタッフを交え、早川記者とフリー・ルポライターとしての純一朗は、慎重に打合せをすることにした。純一朗が到着すると早川は、相変わらずメモの広げるべきところに左手の親指を挟み、右手にボールペンを持ったまま報告を始めた。
「オヤジさん、船会社の宇野タンカーでの取材ですが、この仕事がどういうルートで入って来たかについては未だ分りませんが、調べると言ってくれてますので、近々分ると思います。」
「そうですか」
「日の出興産からの配船手配は全て、沢田課長代理からで、役職者が配船手配をするのは珍しい事だったと言っています。どの会社も担当者が連絡をして来るのが普通だそうです。」
「私の現役時代も、普通はそうでしたね。」
純一朗は、相槌を打ちながら、早川の報告を慎重に聞いた。目が一点を見つめたままである。
「宇野タンカーが西日本石油お抱えの船会社なので気を遣われて、わざわざ役職者の方が手配されたのか? と付け加えてました。」
「いや、そんなことは無いと思いますよ。」
「それと、この仕事が入ったために、本来の配船が大変で、嬉しい悲鳴をあげていたそうです。持ち届けに使用された船は、殆ど、宇野タンカー所属のタンカーでした。」
「日の出興産の子会社、大崎海運の船は、殆ど無かったのですか? 」
「ありましたけど大崎海運のタンカーは四分の一位ですから量的には知れてます。で、大崎海運へは、いつもと変わりなく業務課の担当者から配船連絡があったそうです。それと当時、自社の仕事ではなく宇野タンカーの仕事をかなり応援したそうです。」
「そうですか、日の出興産は子会社の大崎海運に仕事をこなす余力がまだまだあったのに、よその会社に仕事を廻したことになりますね。よく分りました。大いに参考にして取材に当たりましょう。船会社関係の情報は以上でしょうか。」
「今のところ以上ですね。」
純一朗が依頼した船会社に関する調査の報告は終わった。そこで純一朗は、自らの考えを提案することにした。
「じゃあ、本題に入る前に、私の考えをお話しさせていただきたいのですが宜しいですか?」
「どうぞどうぞ。」
「これからはですね、出来るだけ取材の的を外さないようにするために、事件の全体像をある程度想定した上で、つまり首謀者が誰であるかを、勿論仮設で構わないので、絞り込んで取材に当たって見てはどうかなと思っているんですが。いかがでしょう?」
「なるほど、良いですね。」
「前から言ってますように、今回の脱税、背後に大きな黒幕の存在があるように思えてならないんですよ。」
「私たちもその点は、注目していますが、今までの取材では、それらしき匂いすら出てないんですよ。」
「では、あくまで仮説に過ぎませんが、私の見方をお話します。」
「大きな黒幕についてですか?」
「そうです。私は、この事件の背後に政治家が存在しているように思えてならないんです。」
「え! 政治家ですか?」
「そうです。」
純一朗は、大物代議士、磯部宗一と日の出興産がどのような関係かは分らないまでも、どこかで繋がっていること。つまり、黒幕が磯部宗一である可能性が大なること。もしそうであれば、金を動かすにしても人を動かすにしても、操作し易くなることは明白であろうし、場合に拠れば、役所にも働きかけ易くなるのではないかということ。また、脱税事件に絡む殺人事件も起こり得るのではないかということ、等を説明した。
「そうですか、磯部宗一ですか、だとするとこれは大事件に発展しますね。」
「いや、確証は全くありません。ただ、日の出興産の百年史に載っているのを見て、何かピンと来るものがあったもんですから。あくまで、私の個人的な見方だし、勘の話だとう言うことは、充分に承知して置いてください。」
「うーん、そう考えると見えて来る部分が色々ありますね。分りました。その点はあくまで可能性としての話であることを、念頭に入れて取材に当たりましょう。皆も分ったね、あくまで仮説だからね。それにしてもオヤジさんの推理はすごいですね。」
早川は、純一朗の『物事を判断する洞察力』に感心した。純一朗は続けた。
「それと、福岡県で構いませんから、軽油引取税納付義務者の資格取得条件についても調べておいて欲しいんですが。」
「取得条件ですね。」
「ええ。私の記憶では、少なくともガソリンスタンドを所有していることが条件になっているはずなんですよね。なのに、今回脱税のあった各県では、ガソリンスタンドも持たない会社からの資格申請をいとも簡単に受理している点も不思議だと思うんです。このあたりに、政治的な圧力があったんじゃないかと疑っている訳です。」
早川は、やっと『役所にも働きかけ易くなるのでは』という意味が理解出来た。そして全員が頷いた。早川記者はスタッフにこれからの取材分担をテキパキと指示し、ミーティングを終えた。
昼食後二人は、日の出興産福岡支店に向かった。天神にあるこのオフィスビルに入るのも何年振りであろうか。懐かしい匂いがする。
指定された一時に受付で取材に来たことを伝えると、支店長の応接室に通された。支店長室は、以前とは違うフロアに移っていた。暫くすると、小柄ながら恰幅のいい、五十五、六歳であろうか、ゴルフ焼けした紳士が現れた。後には、背丈のあるスラリとした四十半ばの会社のユニフォームを身にまとった、いかにもハンサムな男を伴っていた。
「支店長の、大西です。こちらは、業務課長の小林です。本日は、ご苦労様です。さ、どうぞ。」
「お忙しい中を、取材のためにお時間をいただきまして恐縮です。」
早川記者は、名刺を差し出した。順に名刺交換を終え席に着いた。直ぐに、早川記者は話を切り出した。
「早速ですが、今回の脱税事件のことは、ご存知ですよね。」
「ええ、勿論知っています。」
「その件に関することを色々と、お聞きしたいのですが。あ、あるいは不躾な質問をしてしまうかも知れませんが、その点はお許しください。」
「・・・ 」
「調べに拠ると、大手商社の菱和商事、山東交易の二社が販売した軽油が問題になっている訳ですが、その大半が、御社から出荷されているんですよね。ご存知でしょうか。」
「ええ、知っております。」
「これについて、どう思われますか。出来れば、出荷することになった経緯を詳しくお話いただきたいのですが。」
早川はすでに、メモ帳とボールペンを用意しており、ペンを握った手の人差し指でメガネを押し上げた。
「それは、もともと菱和商事さんからのご要望だったと聞いております。何でも、新年度早々に、軽油をベトナムに製品輸出することが決まっており、かなりの量の軽油を集荷する必要があるという話でした。」
「軽油を海外へですか。」
「ええ、二十万トン輸出するため、全国規模で集荷に当たらないと難しい。そこで福岡支店でも出来る限り軽油を多く集めたい、という説明だったと思います。小林君、そうだったよね。」
「はい、その通りです。」
「海外への輸出の話であれば、石油メーカーが直接受ける内容なのでは?なぜ菱和商事さんが?」
「今回の話はプラント輸出絡みであることと、ベトナムには油槽基地が少なく、日本の基地を利用したい・・・といったことが関係していたようです。」
「菱和商事さんの集荷をほとんど御社一社で受けられたことについては?」
「いや、集荷されたその大半がうちからだったとは、後で分ったことです。」
「なるほど、しかしそれだけ大きな話であれば、普通は、本社レベルの話になるのではないんですか?」
「これだけの規模の話ですから、当然本社同士でも検討されているものと思いました。しかし我社の場合、もし、福岡での話を本社に上げれば、本社で一括して検討するので福岡ではタッチする必要なし、となるでしょう。」
「それではダメなんですか?」
「たまたま、福岡支店の販売計画達成状況が悪かったので、計画達成のためにも、福岡独自でこの話を受けたかったんです。」
「各支店、独立採算制なんですか?」
「という訳ではないんですが、各支店で販売計画を持たされています。しかもエンドユーザー直結の取引が原則となっております。その意味でも、本社へ持っていけば、おそらくノーという事になったでしょう。そのような訳で支店独自で了解した次第です。こんな事件になるとは、思っても見ませんでした。」
「お宅での出荷は、持ち届け条件が大半でしたよね。という事は、四国の田島商事に運んだことは、お宅の配船ですから、当然分っていた訳でしょう。菱和商事さんの輸出の話からするとおかしいとは、思われませんでしたか?」
「いやそれは、菱和商事さんには、白物のタンクがないので、田島商事のタンクを借りる話を当初から聞いておりました。」
「白物のタンクといいますと?」
「ガソリン、灯油、軽油を白物といいます。」
「なるほど、菱和商事さんには、軽油を入れる器がないということですね。」
「その通りです。」
「何故、倉渡し条件で出荷されなかったんですか? 業者間の転売になる訳ですから、通常は倉渡し条件で出荷されると聞いておりますが。」
「先ほどお話した通りで、我社では、どの支店であれ、エンドユーザー直結の取引があくまで基本ですから原則として業転取引をよほどでない限り禁止しております。」
「業転取引というと、業者間の転売取引のことですか?」
「その通りです。」
「なるほど・・・ それでは、持ち届けに使用した船についてですが。どうして、大崎海運さんの、というか自社の船を使用せず、宇野タンカーさんの船を利用されたんです?」
「それも理由は同じです。業転のカモフラージュです。うちの大崎海運を使用すれば、業転である事が直ぐに分ってしまいます。ここだけの話ですが。」
船会社についての疑問も、業転禁止をカモフラージュするための策であったことが分った。早川記者は横に座っている純一朗を見て、何か質問があればというような顔をした。支店長は、理路整然と説明した。早川は他に質問することがなくなったようだ。そこで、純一朗が代わって支店長に質問をした。
「不躾ですが、御社と、磯部代議士とのご関係は?」
支店長は『え?』というような顔をしたが、落ち着いて答えた。
「先生とのお付き合いは、もう三十年以上になると思いますよ。我社は後援会の幹事役を勤めさせていただいております。先生には、昔、大変お世話になりました。」
「お世話にたったと言われますと? お差し支えなければ。」
「私どもが、昭和四十五年、堺精油所を建設した折、堺ご出身の先生にご尽力をいただいたお陰で、何のトラブルも無くスムーズに建設計画が実行出来たと聞いております。」
「古いお付き合いなんですね。今でも関係は維持されているんでしょうか?」
「多分そうだと思います。」
「そうですか、分りました。お忙しいところ長時間ありがとうございました。」
早川記者との日の出興産での取材は終わった。純一朗が、代議士の話を出したとき、支店長の横で、小林課長が『ギクッ!』としたように思った。
『毎朝スクープ』のデスクに戻った二人は、取材内容を整理した。支店長の社内的にはともかく、対外的にはやましい事は何も無いという態度が印象的であった。純一朗の読みは、的が外れたようである。純一朗の多少気落ちしたような様子を見て、早川記者が口を開いた。
「明日、菱和商事に裏を取りに行きましょう。次の作戦はそれからです。」
純一朗は、早川に記者魂を見たような気がした。そして、日の出興産が『ホンボシ』と睨んでいただけに、筋道の通った説明を聞いて、がっくりしたのは無理もなかったのだが、反面、余りにも理路整然とし過ぎている点が妙に気になった。
早川記者の依頼で、翌日も取材に同道することにした純一朗は、日の出興産の支店長が、演技しているようにはとても思えなかったことから、日の出興産ではなく、菱和商事、田島商事の線を『ホンボシ』とした場合、事件の組み立てがどうなるのかを、もう一度ゆっくりと、整理をし直して見ることにした。
家に帰ってみると、容子は、久しぶりに洋裁を始めていた。容子は神戸のドレメを卒業し、以来手に職をつけ、オーダーの婦人服を作り続けて来た。しかし、神戸を離れ、福岡に来てからは、どちらかと言えば、専業主婦になっていた。というのも、神戸を離れたことで、なじみの客との縁が希薄になってしまったことと、最近は、レディーメイドでも良い洋服が安く手に入るご時世だ。オーダー服を作る人がめっきり減ってしまった。わずかに神戸時代から続いている顧客からの注文だけを受けており、福岡では一人も客を取ろうとして来なかったからだ。新しい土地で新規の客を得ようと思えば、どうしても知人の伝を頼らざるを得ない。すると、正規の報酬を得にくくなってしまう。結局何しているか分らなくなってしまう。そんな訳で現在は、容子でないとダメと言ってくれる古い馴染み客からの注文に絞って仕事を受けている。
神戸時代の仕事仲間や友達と電話で話しこんでいる時、容子の声が何時も弾んでいる。洋裁を始めた容子の姿を見て純一朗は、自分が、浪人生活を始めてしまったことで、容子に負担を懸け始めたのだろうと、また考え込んでしまう。
人間幾つになってもなかなか達観出来そうもない。恋女房に苦労はかけたくない。働けるうちは働かなくてはと思うが、仕事は無い。どうどう巡りを繰り返す。つい最近、テレビで『日本のスーパー百歳』に北海道の、今年丁度百歳を迎えた元気なおじいちゃんが紹介されたが、そのスーパーマンは、『人間、幾つになっても体を使って、働くことが一番。働くということは、はたを楽にするということだからネ。』と言って笑っておられた。頭が下がる。純一朗より四十も年上であっても、生きることの喜びが体中から溢れ出ていた。
夕食を済ませた純一朗は、パソコンの前に座ったが、日の出興産、菱和商事、田島商事、磯部代議士、これらが頭から離れない。菱和商事と田島商事が組むような接点は見当たらない。また、エコノミープロデュースの岩田正道は、政治ゴロ的な印象が強い。総合商社が、政治ゴロと付き合うことは純一朗の経験からも考えられない。もし可能性があるとすれば、岩田と田島商事とが何らかの関係があるということになるが、いくら、田島商事だけに接近しても今回の脱税劇は演じきれない。
日の出興産を抜きにして、この菱和商事、田島商事、岩田正道という三点セットだけで考えても無理がある。考えれば考えるほど泥沼に足を取られるようだ。明日の菱和商事訪問は午後三時だが、一時からミーティングを予定している。ミーティングまでにもう一度、岩田正道の役割についてまとめて見ることにした。




