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Blue Blood Battle  作者: ヤヅ
8/9

3部-2/3

「待って。」

少女は、駆けだそうとする少年を呼び止めた。

振り返った少年を少女は見つめた。

もう、ぼろぼろだ。傷だらけで出血と返り血がひどい。

ヒトから逸脱したその姿も、少年にとっては元の姿に戻っているだけなのだろうが、少女から見れば痛ましい。

「もういい・・・もういいの。」

少女から、諦めの言葉が漏れた。

「・・・・なにが、もういい、んですか?」

こわばった声で、少年が尋ねる。

「もう・・・私を、守らなくて・・・いいから・・。

 自由に、逃げて。」

「僕は、今ほど、自由でいる時はありません。

 僕の望みのままに、僕の願いのままに。

 貴女を守って、貴女の願いを叶えて、死ぬのです。」

少女はふるえ、うつむいた。

「生命にとって、一番の贅沢は、その死に様を選べることだ。」

言い募る少年に、少女は告げた。

「嘘でしょう。」

少年は、怯えて目を見開いた。

「自己暗示だわ。

 貴方は、自分の死に、無理矢理納得したくて、私を希望だと、思いこませているだけだわ。」


「――――逃げ場なんて、ないんですよ?

 青い血だと周囲に知られたその時から、逃げ続け。ヒトの世で保護されても、無駄だった。」

ぎいぎい。頭の中で鳴り響く。


「牢獄の中は全てが黒く見えた。」

生け贄のための塔と鎖と、球状の鳥かご。


「絶望の色だ。」

鳥の目はとても良くって。

下界の様子がよく見えて。


「僕を、真黒く染めあげて。」

鳥かごの外は、青かった。


「世界ばかりが、幸福だ。」


「僕の目には、全てが青く見える。それは、僕以外の全てが、幸福の色に染まっているかのようで。

 黒い黒い絶望の中、理由と理想を考えあげた。

 この命に、せめてもの意志があるのだと。証明したい。そうして意義を作り上げた。いいでしょう?

 思い出の中にあった、たった一筋の光明が、貴女だった。

 貴女を助ける。貴女のために死ぬ。

 それが僕の幸福だと、この青い血は僕自身のために使ったのだと、そう思わせてくださいよ。」

 少年の顔がゆがみ、その形相を影が覆う。

「自作自演の幸福ですら、奪うのか。

 僕の血だっ。 僕の青だ…。

 僕のための、命だっ!!!」

少女は静かに、少年の叫びを聞いた。

こんな大声を出せば、もうすぐ、また追っ手がくるだろう。

遠くから迫る喧噪を聞きながら、少女は言った。


「あなたが絶望の黒にいたというのなら、私は、白い虚無の(もや)にいた。

 何が希望か、理想の未来とは何か、自分が求める安寧とは何か。

 考えても、全て靄に消えてしまうから、考えることも捨てていた。

 この身の上さえ、もう、どうでもよかった。」

だから誘いに乗って、のこのこついて来たのだった。

「この祭典に来て、様々な願いと遭って、思ったの。

 生命において、もっとも悲しいことは、身の丈に合わない欲望を背負うことだと。

 己の持てる幸せがわからずに、こんな所まで来て。みんな果ててしまったんだわ。」

胸中を吐露し、生気をなくしてたたずむ少年の目を、少女はしかと見つめた。

「幾多の死骸に遭って、死を待つばかりの貴方に会って、思ったわ。

 生命における最上の贅沢は、生きることよ。」

うろのようになった少年の目に、少女が映った。

「一緒に、逃げましょう。

 間際まで、あがいて、生きましょう。

 それが貴方の、一番の願いだと思うの。」

「……………貴女と、一緒に?」

「ええ。」

揺らがぬ瞳で、少女は告げる。

「一緒に、生きましょう。」


少年は呆然としたまま、その場に膝をついた。

「…………なぜ。貴女が。僕と。

 ……一緒に、死ぬことになるんだよ……?」

「…考えてたの。

 貴方の眼に、全てが青く見えるなら、私の血だって、貴方にとっては青いじゃない。

 なら、私が、貴方の願いを叶えられるかしらって。

 生きるも死ぬも、独りぼっちでは、絶望しかないわ。」

少女は手のひらを鏡にあてた。白い手の甲には、青い血脈が走る。

「私には、何の力もないけれど。

 この血を――命をもって、貴方を独りにしないことならできる。

 私が貴方に希望を与えたのだと言うのなら、貴方は私を、虚無の靄から連れ出してくれた。」

背後から、いよいよ喧噪が大きく迫る。



――――黒の絶望から、白の虚無から、抜け出そう。身が焦がれる程の光に当たりに行こう。


    

――――この世界に色をつけよう。



鏡越しに、少女と少年は手を合わせ、決意の言葉を交わした。

それがどちらの言葉だったのかわからないほど、その(ちぎ)りは一瞬だった。

刹那、二人は鏡に背を向けて走り出す。

追いついた喧噪が二人を包んだ。


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