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Blue Blood Battle  作者: ヤヅ
7/9

3部-1/3

blue blood〈ブルー ブラッド〉:

・直訳―青い血。

・慣用句―「お嬢様」「箱入り娘」。

      日に当たらない生活をするお嬢様は、肌が白くて、透けて見える静脈がはっきりと青いことから。

挿し絵に描かれた、小鬼のような。

そんな者が、少年のように空にいて、橙色の迎撃を受けて落ちていく。

その姿が森に消えるより早く、少女の視界は激しく回り、少年とともに飛んでいく。

ぼたぼたと青い血が垂れてくる。少年の後ろ髪がひどく伸びてきて、くすぐったい。

何か達の攻撃を一時的にまいた所で、少年は早口に言った。

「此方の世界の者が参戦したようです。」

少女は目を見開く。そんなことがあるのか、声にならない疑問をくんで、少年は答える。

「あまり前例にないことですが。」

前例は少ないが、あることはある。

おとぎの世の奥に行くほど、ヒト以外の者が、祭典に介入してくるのだと。

「ですが、ここまであからさまに手を出してきた事例はなかったはずです。

 当局が、異例の許可を出したのでしょう。

 一つに、僕は青い血を持つ鳥の中でも、その力が強い。ヒト相手では、歯が立たない、祭典が長引くと判断された。

 一つに、あなたの存在、イレギュラーな存在を僕自身が作り出したから、ならばこちらも、という、当局の詭弁(きべん)

 そしてっ、何より、欲望なんて、ヒトだけのものじゃあないって、ことですよっ!!!」

言いながら、少年は急激に旋回を切り、背面から落ちるように高度を下げる。もはや治癒の追いつかなくなった傷から溢れる血で、空に線を幾つも描けば、黄色に光り、何か達を切り刻んで焼いた。

再び高度をあげようとした少年が、何か達の攻撃を受けた。そのまま、姿勢を整えられずに、森のはずれに着地した。

同時に、少年が叫ぶ。

「っ目をつぶって!!」

回ってぼやける少女の目に、夜とは思えない、淡い光がそそいできた。少年の叫びは聞こえたが、少女は思わず、辺りを見回してしまった。

そこは、無数の鏡に囲われた場所だった。月と星の光を幾重にも反射して、ほのかに輝いている。

いよいよ不可解な光景に、少女は見入った。

少年がもう一度、目を閉じて、と叫ぶが、その声はいっきに遠ざかっていった。

少女の姿が、少年の元から消え失せた。


「鏡の国に入ったかッッ!!」

くやしさに歯がみしながら、少年が毒づく。

ヒトは視力から得る情報が知覚の大半を占める。おとぎの者であってもまどわせる鏡の国。

ヒトが入り込み、鏡を見てしまえば、引き込まれ取り込まれ、乱反射の濁流にのまれてしまう。

早く少女を見つけださないと!!!

少年は、様々な種類の鏡が散乱する森を駆け抜ける。


――――僕の願い。僕が唯一見い出した、希望を叶えるために。

「貴女が、僕の幸福なんだ。」

ぎいぎい。頭の中で音がする。


少女はふらふらと立ち上がった。

早瀬に飲まれたような感覚から覚醒すれば、少年はいなくて。

慌てて辺りを見回して、また鏡と目を合わせてしまって、また飲まれて流されて。すっかり頭はやつれたが、鏡を見ると危険だということはよくわかった。

少女がようやく解放されたのは、鏡がまばらな場所だった。密度が低ければ、反射の流れもそぞろらしい。

そろそろと進んでいくと、鏡から音が聞こえてきた。

目の端で確認すると、その鏡に写っている景色は、この場にある木々ではなかった。別の場所にある鏡から幾重にも反射を受けて、どこか離れた場所の風景を写している。

ヒトの世の鏡ならば、こんな克明に映像を伝えないだろうに。しかも、なぜか音声付きだ。

さすがはおとぎの鏡だと、少女は反射に飲まれぬように注意しながら、その映像を見た。

ヒトもいるし、おとぎの者もいる。皆、殺し合い、逃げまどい、しかし、一様に、青い鳥を追っている。

少年の身が危ない。当然のことを今更実感して、他の鏡も見てみる。

ぽつんと立った、大きな鏡から、少女を呼ぶ声がした。


少年は追っ手を倒し、進む。

少女を捜しているというのに、出てくるのは他の奴らばかりだ。

傷は増え、青い血は流れ、少年の姿は負傷の度に、ヒトから遠ざかっていく。

脚は骨格を変え、皮膚はウロコ状になってきた。

腕のガラス質の隙間からは羽毛が生える。

白目が少なくなった目は大きく左右に開き、口端はさらに裂けた。


少年は捜す。少女を、少女を。

ぎいぎい、と、頭の中で、鳴りやまないのだ。

風に揺られる、鳥かごのきしむ音。



「!!!!」

少年は見つけた。他の鏡の群とは離れた場所にある。大きな鏡。

その中に、へたりこんでうなだれる、少女の姿があった。

追っ手をまいて、鏡へ駆け寄る。少年の姿を見た少女は、悲痛に顔をゆがめた。

「待っていて下さい!今、そちらに参ります。」

鏡の反射を追っていけば、少女の元までたどり着くはずだ。

それまでその場を動かないで。

どうか誰も、少女を奪わないで。


僕の願いを、奪わないで。



とてもとても高い高い塔に吊された、球状の鉄のオリ。

とてもとても高い所にいるのだから、日の光に近いはずなのに、かごの中はどうにも暗い。

塔の影、かごの影、かごを吊す鎖の影、うつむく自分の影。かごの中は黒かった。

そんな鳥かごが、幾つか吊るされている。中に誰かいようがいまいが、暗く、黒い。

幼い者も老いた者も、真っ黒だ。

高い高い鳥かごから見下ろす下界の方が、なぜだろう、とても明るい。

ここはとても黒いのに。

世界は、青い。


世界ばかりが、青い。



「待って。」

少女は、駆けだそうとする少年を呼び止めた。


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