2部-1/3
祭典、開始。
※戦闘シーンが多いです。
開始の合図が叫ばれ、少年は飛び立つ。
闘技場の壁を越えて少女の元へ降り立ち,腰に掴まらせ、森の中へ飛んだ。
木々の遮光が少なく、短い草の生えた場所で、少女は降ろされた。
何を訊けばいいのか、わからない。足を着けたはずの地面が浮いて思える。口を開けたまま、浅く呼吸をする少女に、少年は歩みを勧める。
少年の指はそれぞれ、鋭利なガラス板のように変わり、腕全体にガラス質が絡みついている。腕から伸びた幾枚ものガラス板は、やはり鋭利で、広げた様は、羽のようだ。
「貴方が、ブルー、バード・・・・?」
わかりきった答えが、やっと口から出た。
少年は、嬉しそうに笑い、
「やっとお声を発せられた。良かった。」
独り言のように喜びながら、辺りを見回す。
少女は変貌した少年を見つめる。髪は深い水の色だ。眼は空の色に染まり、少し吊り目になったような。
「ここなら、まだ、落ち着いています。どうぞ、腰を下ろして下さいませ。」
気づけば、少女の後ろに、切り株が現れていた。少年も、自分の元に現れたそれに座る。
「道中、貴女様に申し上げましたが、」
「貴女様、は、やめて。」
極度の疲弊が、自制を削いだようで、一つの不満が口から漏れた。
「・・・・・それでは、貴女、が・・・・。そう、貴女に言いましたよね。貴女は、此方の世界と通じたことがあると。
僕は、その恩を返したい。」
少女にはまだ、わからない。
「貴女は幼少の頃、ヒナ毛の小鳥を拾って世話をして、迎えにきた親鳥に返した、記憶はありますか?」
―――あ、ああ。あった。確かに、そんなことは、あった。
「あれ、が?」
少年は、目をすがめて笑った。何故かその表情に、とてつもなく嫌な予感がした。
「拾われた小鳥は、僕でした。
ほころびを通じて見る事象は、此の地と彼の地では、異なって見えるのですよ。
貴女が彼の地――ヒトの世で見た、傷んだヒナ鳥は。
此の地――おとぎの世では、当局に追い回され、ひっそりと倒れ伏していた、僕でした。
貴女が拾って、保護していた、あの十日間程が、僕にとって、最も穏やかな時でした。」
少女は話が見えてきて、血の気が引いた。冷えた指先を握りしめる。
「あ、ああああ。
あの、時、貴方を、迎えにきたの、ってっ、」
「――――[生け贄]を管理する、当局の者達ですが。」
少女を宥めるように、すぐさま少年は言い募る。
「両の世界をまたいだところで、僕に逃げ場なんて無い。貴女が引き渡さずとも、当局は、僕を連れ戻していた。
貴女に害が及ばぬ内に、事が済んで、良かった。」
微笑みながら立ち上がり、少年は問う。
「生命にとって、一番の贅沢って、なんだと思いますか。」
少年を極卒へ渡してしまった事実から、立ち直っていない少女に答える気力はない。
「生命は、必ず死ぬ。産まれと死が揃ってこそ、[命]でありますから。
だから、絶対に避けられない死を、どうむかえるか。
死に様を選べると言うことが、生命にとって最たる贅沢であると、僕は思うのです。」
少年は両腕を広げて、木々を仰いだ。光を受ける空色のガラスがきれいだった。
「あのとき、決めたんです。
僕は、貴女の願いを叶えて死ぬ。それを僕の、希望としたのです。
当局は、生け贄をヒト側に渡せればいいのだから、それで僕がおとなしく祭典に出るならと、貴女の贔屓を許可しました。」
すぃっと、少年が少女に近づく。
「さあ、どうぞ。」
蒼白となった少女の前で、かしずいた。
「貴女の願いを、おっしゃって下さい。」
時が止まったかのような間ののちに、少女は顔をひきつらせ、首を横に振った。
「・・・・・・・・・・・・・・無い、」
少年の微笑みも、静止した。
「・・・・・・・・・無い、無いわ。私には、貴方の血を使ってまで、叶えたい事なんて、願いなんて・・・・・・・・
わからないわ。」
少年はゆっくりまばたきをした。それで、止まった時をリセットしたかのように、また立ち上がり、優しく言う。
「急に、大それた願いを、と言われても、出てこないものですよね。
まだ猶予はございます。どうぞゆっくり、選んで下さい。」
ガラスの腕で、再び少女に歩みを勧めた。




