1部-1/3
[Blue Blood Battle]
幸せとは何か。 無数に広がる色彩と同じほど、その形は様々ある。
ヒトは、光を浴びて生きていかねばならない。
光に当たり、みずからをプリズムにして光線を選り分け、みずからの色を探し出さなくてはならない。
みずからにとって、なにが幸せなのか。それを知らずにいることが、なによりの不幸だろうから。
何を求めるべきかわからず、成すべきことを見い出せず、身の丈に合わぬ欲望をおう。
その身が焼かれるように感じても、刺すように目が眩んでも。
闇や陰に伏すがままでは、霧中の夢想を眺めるだけでは、自分の色が見えないから。
日に当たり、目を開けて。
青い鳥はそこにいる。
少女は目覚めた。暗い部屋に小さな窓。
窓枠にそって吊された布は、透けるほど薄くやつれ、朝日を通す。半端な丈で、窓べりまで届いていない。
その、おぼろげな布と窓べりの間から、小鳥が見えた。外側の窓枠に置かれた餌を食らっている。
褐色の濃淡をまとった野鳥が二羽。ぎしりと、木製のベッドがきしむ音で、飛び去った。
ゆったりと寝床から下りて、歩みながら、忌々しく、撒かれた餌を見る。
―――彼、だろう。
彼は、たびたびこのような演出をする。
すがすがしい朝を演じているのか。ならばひとまず、カーテンと呼べる程度の布が欲しい。
とぼとぼと、少女は身支度を整える。
外の水場で口と顔周りを清め、振り向けば、ありあわせの木材でやっと建てたような教会が目に映る。
水場の横の敷地には、やせた畑。畑の向こうの角を曲がれば、少女の部屋の前で、名も知らない木が生えている。
「おは、よう。」
顔をひきつらせるように動かしながら、たどたどしく彼は挨拶をし、無言のままの少女に、今日の朝餉を紹介する。
彼が常人であったなら、にこやかに微笑み、ほがらかに語っているのだろう。
彼は牧師である。生まれついて歪んだ身体を持つ異形の者で、赤子のままに捨てられていた。それを街の教会が拾い、育てた。
最も歪んだ部位は顔であり、四肢の機能は健全の範囲内で、労働が可能だった。
聖職者とて聖人ではなく、彼を拾った教会の者達も、その醜さを恐れてうとんだ。彼が成人するや、後継のいない荒れた教会の管理を命じて、地方の村へ追いやった。
その荒れた教会の前に、少女は四つ程の歳で捨てられた。
村の者はおとなしく、異形の司牧を遠巻きにしながらも、収穫物の一部など、最低限の供物を、まばらに納めてくれている。
―――乞食のようだ。
少女は思う。布施というより「おめぐみ」に近い供物は、信心ではなく憐れみの感情からくるものだった。
村人からの施しと、畑からの作物。限られた食材に必死の創意工夫をこらし、彼は毎日毎食、少女のために、彩りある食事を作っている。
だが、少女から賞賛の言葉が出たことはない。挨拶すら、数年前から、「おやすみなさい。」一言になった。
へんぴな村の者達からすらも、同情の目を向けられる出自と暮らし。その憐憫の目によって生かされている実状。
彼の食事はおいしいのかもしれないが、少女には味わいすらも、ぼんやりと思考に溶けていくようで、おぼつかなかった。
日がな一日、少女にできることは決まっている。聖書を唱えるか、すでに読みきった本を手に取るか。畑を手伝うか、掃除などしてみるか。
自室の椅子に座って、あるいは名も知らぬ木の前に立ち尽くして、ぼぅっと思考をくゆらせるか。
少女はあまり、村を歩かない。へんぴとはいえ、村は枯れてはいない。
笑いながら食べ散らかし、苦笑する母親に顔を拭かれる子どもがいる。
若い男が花売りの前で、誰かに捧げる花を選び抜いている。
老夫妻が支えあいながら、がちりと組まれた石の家に帰っていく。
そういった風景の横で、靴もなく働く子どもや、ムシロ一枚しか持たぬ本物の乞食もいるのだから、少女は、自身は恵まれていると知っている。
だが、漠然とした欲求は消えない。ゆえに、思考をくゆらせる。
―――幸せになりたい。
と。




