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上京した私が住む事になったのが、何故か埼玉県の某市であった。
はっきり言って、職場からめっちゃ離れていた。
埼京線(だった?)で一時間半くらい。
そこから例の山手線に乗り換えるから、職場まで2時間は掛かる。
不動産屋が言うには「このくらいの距離なら東京じゃ近い方ですよ。てか、今、この物件にも何人か予約が入ってて、すぐに契約してもらわないと流れちゃうんですよね~」
などと、半分脅しを掛けられた私は、「まあ、そんなもんなのか」とあっさり契約してしまった。
今思えば、その時の私は完全にカモであった。
だが「東京で働いている人の殆どは、千葉か埼玉から満員電車に乗って通勤している」という都市伝説を信じていた私は、その不動産屋が怪しいとは全く思わなかったのだ。
それから私が思い描いた通り、満員電車で通う日々が始まった。
電車に慣れていない私は立っているだけでもうフラフラだった。
電車の中は吊り革の奪い合いで、人より背が高い私でも触れる事すら適わなかった。
こんなところでも田舎者の要領の悪さが露見するのだ。
電車の中には人波に揉まれながら片手で文庫本を読んでいたり、立ったまま本気で寝ている人もいて、都会で暮らす人の根性に脱帽した。
私も慣れたら本くらい読めるようになるのかもしれないが、その時は立ってるだけで目眩と吐き気に襲われ、「この生活いつまで続けるんだろう・・・」と電車が到着するまで、そればかり考えていた。
出勤初日なのに「明日はもう無理!」と思ってたんだから、やる気の無さはハンパない。
ようやく埼玉県から東京に到着したと思ったら、次は乗り換え。
関西在住歴は長かったので、大阪の地下鉄では迷った事はなかったのだが、東京は路線が複雑過ぎて路線地図を見てもさっぱり分からない。
駅が多過ぎて、名前が全く覚えられないのだ。
土地勘がないとは本当に不便なもので、大阪だったら地名を聞いただけで自分がどっち方面に向かっているかくらいは見当がついたのだが、東京では地名を聞いても自分が現在どこにいるのかさえ把握できなかった。
第一、駅が多過ぎて、地図の中の目的地を探すのに膨大な時間を要する(笑)
あの路面地図を全部覚えている東京の人は、どんだけ頭がいいんだろう。
名古屋の地下鉄さえ、うろ覚えの私は、とてもこの街で暮らせるとは思えなかった。
駅の構内はものすごい人で、自動改札に慣れていなかった私は、反対側から来る人に先を越されてなかなか出ることができなかった。
もたもたしている私を抜かして、後ろから来た人が次々と改札を抜けていく。
こんなんで、どうやってここで生きて行くんだろう・・・。
一抹どころか不安で蒼白になりながら、私はどうにか改札を出て、会社に辿り着いた。
会社に到着して 談志師匠風の社長に挨拶した後、営業部の先輩になる女性が私の指導員として、色々な事を教えてくれた。
彼女は、やはり早口で、さっぱりした男気のある女性だった。
ちょっとずんぐりした体型だったが、司馬遼太郎の小説に出てくる気風の良い江戸女を連想させた。
今思えば、案外、年下だったのかもしれない。
「この人なら、きっと「ちょいと、おまいさん」とか今でも言ってるに違いない」
私は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
東京を、色んな意味で勘違いしていた若き日の私だった。




