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4章 その手に杭を、その名に『銀』の短刀を

4章 その手に杭を、その名に『銀』の短刀を


丑三つ時、、トイレで目が覚め、階段を降りる為に靴を履こうとした時、春はその事に気が付いた。銀とうららの靴がない。

春は確認の為に二人の部屋を開ける。だが、やはり二人はいない。

銀の新聞配達の時間にもまだ早い、それにうららは常に寝ているようなものだ、それがいない。春でもどういう事か察する事が出来る。

春は銀の厚めの上着を手に取り、靴を履く

「どこへ行くつもりじゃ、トイレに行くのにその恰好は必要なかろう。」

「ビンちゃん、兄ちゃんとうららさんはどこ?」

「答えの決まっている質問は無意味じゃな。」

春は今にも走り出す勢いで、扉を開けようするが扉が開かない。

「ビンちゃん、開けなさい。」

「ダメじゃ、お主は行かせぬ。まぁ、トイレにはいかせてやろう。だいたいお主が行って何をするつもりじゃ」

「あの人に会いに行ったんでしょ。駄目よ、あの人は危険よ。」

「で、」

「だから私が二人を止める、近寄っちゃダメだって」

「もう遅い。いまさら追いかけたところで間に合いはせぬ。」

「だったらいいでしょ、開けてよ。」

「この家にいる限り、お主は私の力で守れる、じゃが、敵がお主の命を狙った場合、または窮地に陥り、お主を取引材料にしようとした場合。この家におらねば私の力では守れぬ。」

「守ってもらう必要なんかない、もう一度だけ言うわ、ここを開けなさい。」

「、、、、言った所でお主に何が出来る。その震える手、怖いのじゃろう、いくら心を奮い立たせたところでそれがお主の真の声じゃ。なまじ魂が見える故、敵の本質には気づいておるのじゃろう、」

「今のあの人に、どんな凄い言葉を言っても、言葉じゃ届かないと思う。でも黙って知らないふりなんかできない。足手まといでも、私も一緒に、、」

ビンは冷たい目で春を見て春に近寄る。

「お主は何も知らない、何も見ていない。だからお主は銀がどんなつらい思いをしてきても笑って迎えてあげる。そう決めたのではなかったのか。

おぬしは何も知らぬふりをしていつものように二人に接してやればいい、

いつだって笑って、いつものように何も知らないふりをして起こればいい。

それがおぬしの決めた修羅の道ぞ。

どんな時でも帰れる場所になる。

心配をかけないために銀がお主に何も言わぬようにお主もまた、銀にはどんなつらい思いも悟らせない。

身近にいるのにお互いを理解しあえるのに、それでも痛みは分かち合わない。どんなに辛い事でも自分一人で抱え込む。それがお主らの選んだ道じゃろ。

あの小娘は、お主ら二人を守るためにあと数日大人しくしておればよいのに敵に対峙する事を決めた、銀は小娘を助ける為に、お主を傷つけた相手ぶんなぐるために追いかけていった。

お主は、あやつらの決意を無下にするつもりか

なぜこの時間にそうしたと思う、お主に気取られぬためじゃ。

なぜ今日出て行ったと思う、万が一にも、顔の知られたお主に危害が及ぶのを避けるためじゃ。

何故お主に黙っていったと思う。お主の前では理想のままの自分でいたいからじゃ

今いけばお主はあやつらの決意を鈍らせ、その決意を淀ませるそれはひいてはあやつらの牙を曇らせ、お主に見えられたことで、あやつらの心に影を落とす。

『目を閉じて、耳を塞いで、いいか、僕が肩を3回叩くまで、絶対、約束だよ』銀がお主の前で暴力を振るう時の言葉じゃな。

その意味、分かるな

今回は喧嘩ではない、その意味も理解できるな。」

春は返事をしない。

「いい子じゃ、春は自分の感情をも相手のために殺せる強い覚悟を持っておる。

それはお主にしかできぬ事じゃ。

よいか明日、いつものように何も知らない顔で朝ごはんを作ってやれ、それあるから、あやつらはいつだって強くいられる。

なに、心配するな、お主を泣かせるような事あやつらが出来るわけなかろうて」

春はおとなしくトイレに行き戻ってくると、台所へ向かう

「春お主、何をしておる」

「ビンちゃんも言ってたじゃない、私は黙って馬鹿みたいにご飯を作っていればいいって。」

「い、いや、何もそんな棘のある言い方はしていない。」

先ほどの無言、、、納得した無言ではなく、怒っているビンは春の手元を見てそう確信した。

「だからね、最高においしいご飯、作ってあげようって思って。」

春が今取り出したのは冷凍なすびと、干し椎茸、、冷凍なすびをわざわざ自然解凍をし、細胞組織を十分に破壊し、触感を悪くし、干しシイタケを十分に水に浸し、生シイタケの触感に近づける努力をしている。

間違いない、あれは私を殺す気だ、、、

「ビンちゃん、、、言っておくけど、明日の朝ごはん残したら許さないからね、、大丈夫、十分に食感を楽しめるようにしてあげるから、もちろんマヨネーズもケチャップもなしだからね。」

「お、落ち着け春、、まだ話し合いの余地はある、そ、そうだ。こうしよう。」

「話し合い?何それ?私~、馬鹿だから~わからないわ。」

そう言って満面の笑みを浮かべる。その笑顔に一片の曇りもなく、語尾を伸ばすのにも一片の迷いもない。

「よし、下準備はこれくらいで、さぁ、ビンちゃんまた一緒に寝ようか、、、」

その日ビンは春の腕の中で震え続ける事しかできなかった、、、、


一方その頃、うららはジンの説得に失敗していた。

この町の海岸沿いの埋立地。住宅地として、新興の高級マンションが立ち並ぶためにつくられたはずだった夢の街の跡。

街は作られず、埋められた土地と、作りかけの整地と重機ならならぶ中、先行して公共事業の完成した大規模な臨海公園。そこに二人はいた。

うららの言葉は、ジンに届かなかった。

ジンの怒りの始まりは小さな不平等、何処にでもある不平等、不正、差別。

努力しても認められない、平等をうたう試練で結果が最初から決まっている。

与えられたもの、守られたもの、弱い意志で流されるままに生きる者、不満を言いながらも変わらぬものが作る世界。守るための世界、変わらぬ、何一つ。

そしてその曇った眼で日常に不満を言いながら恩恵をむさぼる。

世界の負の部分に目を瞑り、その恩恵だけは受ける。

自分達には関係ない、自分一人で何が出来る、かわいそうだと思うだけの加害者

だからジンは内部から変える為にあそこにいた。世界を本気で変えようとした。

でもその前にジンの心は怒りと憎悪に飲まれた。

彼らは少しも自分達の事など気にしてなどいない。変わる気などない、変える気などない。

過去から受け継ぎ、過去を引き継ぎ、過去に囚われる。

『自らは何もされていない、ただ聞かされた過去の話、それで、俺たちは蔑まれ、罪を着せられた。

お前たちは言葉で俺たちを傷つける。俺たちは何もしていない。なのにお前たちは、それを引き合いにだし、俺たちに先祖の過去という名の罪を着せる。』

自分がこの世界を中から変えようとした。でもそれが出来ないと知った時、彼はこの世界を壊すことを決めた、不可能な事だとしてもそれは、他の人間にとって不可能だっただけのこと。

だから彼はジャハンナムに希望を見出した。

魂を差し出した。それでも変えようとした。

だが、彼は高潔な目的よりも、憎悪が、怒りが強すぎた。だから堕天し、今のありさまだ。

そこまでしてでも、その手を染めてまでも、力を欲した。

だからだ、無能の受け継いだだけの者の代表であるうららが名に似合うだけの力を手にしたことが、認められなかった。

何も努力をせずに、自分の届かぬ力を手にしていることが許されなかった。

この女が長年の友を惑わせ、友情を裏切り、命を懸けて守られたことが

我慢ならなかった。自分が天界を裏切ったことを知った上で、堕天した事を知った上で何も無かった事にして、何も知らなかったことにして、一緒に天界に戻ろうといったことが。

憐れまれた、同情をかけられた、優しくされた、気持ちが分かるといった、そして恨んでいないといった。それら全てが許せなかった。

自分は全てを覚悟し、全てを捨て、そうすべてを投げ出した。この女はそんな覚悟さえもそんなことどうでもいいじゃないかといった。

『そんなことより皆いる日常に戻ろう』といったそれは偽りの日常、目を背け、与えられるだけの檻の中の日常。それが自分の求めた理想よりも価値があるかのように語った。許せない、この女こそが、自分が倒すべきと、変えるべきと望んだ世界そのものの象徴だ。

「先輩、、、、」

首を絞められてもなお、うららはジンの説得をあきらめない。

「先輩と呼ぶな!お前にそういわれると、虫唾が走るんだよ!!」

「、、、そんなに私が嫌いですか」

「あぁ、嫌いだ!大っ嫌いだ。お前は何も知らずに、人の痛みも分からず!」

「だったらいいですよ。殺しても、だからいつものジン先輩に戻ってください。乱暴で、怖いけど、それでも優しい、誰かの為に怒れるいつものジン先輩に戻ってください。

このままじゃスミレ先輩が可愛そうです。」

「お、お前何を」

ジンの力が少し緩む

「よかった。スミレ先輩の事まで捨てられてなくて、あぁ、あと、銀君と春には手を出さないでくださいね。」

「う、うるさいもう、いい!!もう殺す。」

ジンの拳が振り上げ気られた時、ジンの頭に角ばった何かが当たる。

ジンが頭に当たった何かに目をやると、それは閻魔帳、天界の至宝を投げた馬鹿がいる

「朝刊のお届けに上がりました。初めまして、あなたがジンさん?」

息を切らしながら、このコンクリートと土で囲まれた状況では、目立つことこの上ない全身森林迷彩服の銀が近寄ってくる。

「誰だ!お前は、軍人気取りか?」

「君がさらった春の兄で、君が今泣かせたうららさんの友達です。」

「ぎ、銀君、何してるの!逃げなさい。」

銀は笑いながら近寄ってくるが初見のジンにもわかる程強い殺意をもって近づいてくる。

当然近寄ってからの不意打ちの攻撃はかわされ、思いっきり顔面にストレートを喰らい吹き飛ばされる。

「それだけの殺気で近付いてきて分からないとでも思ったのか、」

「銀君!!!!!!!!!」

「なんだあの人間の事がそんなに心配か!」

「当たり前でしょ!」

さっきまで大人しくしていたうららが暴れ出し、ジンの拘束を解こうとする。

「お前が人の心配をするとはな、」

「うららさんは最初からそういう人ですよ。ただあなたと一緒にいる時は人の心配をする余裕がなかったそれだけの事、あなたがそんな彼女に気付いてあげられなかっただけの事」

鼻から血を出しながら銀が決める

「お前本当に人間か?あれを喰らって、生きてるのか?」

「さっきの一撃躱せなくてもガードする事は出来た、なぜそうしなかったの、それはあんたの技量を見極める為、」

「人間が俺を試したとでも言いたげだな」

「そういったつもりですが、、」

銀は彼の腕をはたき落とし、うららの拘束を解く、そして銀に蹴撃を食らわすために振りぬこうとした足もあっさり掴まれ止められる。

銀は彼を無視し、うららの手を掴み、公園の入り次へ歩き出す。

「敵に対してはまずは不意をつけ、そして初手で最高の一撃を

なぜそうしなかったのか、それはこれが勝負じゃなくて喧嘩だからですよ。」

うららを公園の入り口まで導くとその手を離し、拳を握り、自分の掌を殴り、音を出す。

「来いよ、喧嘩だろ!」

「喧嘩だと、俺の理想のための信念ある闘争を喧嘩などと揶揄するつもりか!」

「お前は春を泣かせた!うららさんを傷つけた。それで理想などとふざけるな下種が!こいつは喧嘩だ!いいか無事で帰れると思うなよ」

「喧嘩?勘違いするな、これは一方的な裁きだ思い上がるな人間が、判決は死刑!神に背いた貴様に死を当たる裁きだ。」

「堕ちた者が神を語るなどと、人の一人くらい自分の意思で殺して見せろよ。高尚な夢物語の理想を掲げ、女性に暴力を振るい、神の背きながらも神に囚われた、下種さんよ。」

「ならそうしてやるよ!後悔するほど無残に殺してやる。殺して魂を引きずり出して、粉々に噛み砕いてやるよ!」

「いいぜ、来いよ、その言葉を以て、俺は容赦しない」

ジンは攻撃態勢を取り、黒い力を集約し始める。

「銀君、逃げなさい!」

「大丈夫ですよ。うららさんはそこにいてください。うららさんにできる事はしたでしょ。ここからは僕の役目です。」

「僕の役目って、、、、銀君まさか!」

「死神の力少し借りますよ。」

「やめなさい!あなたじゃ!駄目よ!」

「大丈夫、、それにうららさんに彼を殺せますか?」

「!」

「そういう事です」

銀が腰を落とし、左手で何を持つかのような構えをし、全身が光だし、力を開放する。

「その恰好、まさか」

「はい、僕は既に力を使っています。この力凄いですね。あの攻撃をものともしない。

そしてこれが僕の死神の鎌です」

顕現したのは鎌ではなく黒く大きく、禍々しい巨大なガトリングガン

「なっ」

あまりの事にうららは言葉に詰まる

それが何か分からないジンは黒い光線を放つが、銀が引き金を引くと絶え間ない爆音の前とともに放たれる弾丸により、ジンの光線は跡形もなく吹き飛ぶ。

だが、それでも銀の攻撃は手を止めることはない。

音を爆音で消し去り、視界を土煙が遮り、感覚を振動の衝撃が奪う。

ジンはとっさに防御陣を展開するが、とてもじゃないが耐えられるようなものではない。

連射、速度、攻撃力すべてが規格外

銀が魂から生成できる限界の2000発全ての弾を打ち尽くすまで約12秒、一瞬たりとも逃げる隙もなく、全弾うちつくし、砲身がカラカラと音をたて徐々に回転速度を落としていく。

「ふう、、、流石に、結構反動が、、照準難しいな」

「ふう、じゃないわよ!馬鹿で無茶だとは思っていたけど、何なのよこれは!」

「いや、、死神のイメージを、、、、現代で死神と言えばやっぱり軍人とか傭兵かなと、ビンちゃんに聞いたら、死神の力を使うためには『力におぼれぬ確固たる信念』、『決して折れない狂気にも似た強い意志』、そして『いかなるものにも恐怖を与える死のイメージ』がいるってそれで守るために戦うってイメージしてたら、この格好に、、、、僕は結構気に入ってるんですけどね。」

「やり過ぎよ。てか耳すごく痛いし、頭だってぐらぐらするし、というかそもそもなんで力を使いこさせているの?」

「この力って、僕の魂を食べようって侵食してくるでしょ。だからそれを利用して逆にこの力の根源にある意志があるじゃないですか、そこに繫がって交渉を、そしたら意外に話の分かる人で力の使い方を教えてくれたんで、、」

「この中の意思って、、、あなたまさかに死神に接触できたの!」

うららたちは必要に応じて、死神の力を使う。だが、それはあくまで道具としての力。

自分たちの本来の力で死神の力を捻じ伏せ従え、都合の良いように変化させる。

だから、本来の力を引き出すことは出来ず、あくまで自分たちの力を、魂を狩るという形に合わせるための媒介に過ぎないだが、銀は死神の力そのものに触れ、それを使いこなした。それは今となっては失われた力の使い方だ。

「なるほど、、、まさか人間の中に死神と会話ができるような奴がいるとはな。」

土煙の中ジンが問題ないといわんばかりに荒ぶる力を開放させ、人の姿を捨て全身黒い霧でおおわれた獣のような姿に変化し目をぎらつかせ現れる。

「嘘だろ、あれで無事なのかよ。まずいな、ちょっとピンチかも」

「その結界、ウリュウさんの、、、それにその姿」

うららは思わず目を背ける。その姿かつて天界の本で読んだ悪魔そのもの、決して戻れぬ堕天の終着点。

「裏切り者が、余計な真似を、」

ジンはボロボロになったウリュウの特殊結界を崩す。

「さて、どうするもう弾切れか、打つ手なしと言った所か」

「これ以上もできなくなくはないんだけど、これ以上は僕の魂を自己回復できないところまで削らないといけないからね。もう弾切れさ、」

そう言って、銀はガトリングガンを消す。

「だけど、勝負はまだこれからだよ。」

銀は化け物に姿を変えたジンに向って行く。そして、彼の直前で軸足を踏み込み、体を回転し、加速をつけると再びガトリングガンを顕現し、勢いそのままにガトリングガンで顔面を殴りつける

身体能力が数倍に跳ね上がっている銀の全力を込めた一撃。

しかも超重量の鉄の塊を最高速でぶつけたのだ。質量が数倍に増加したジンであったが容赦なく吹き飛び、放棄された資材の山にたたきつけられる。

「っやっば!」

素早く振りぬいた後ガトリングガンを消すが、それでもその威力の反動で肩の骨が外れそうになる。

「弾はなくても、これだけの質量の物を自由に出し入れできるそれは十分強力な武器だよ。」

「銀君!!!」

「離れてください!!来ますよ、ヤバいのが!」

「ヤバいって何が、、」

ジンが咆哮を上げるそれは人の物ではない、獣のそのものの声

銀に真っ直ぐに向かってくるジンは、もはや闇に覆われ彼は彼でなくなっている。

銀は、今度はガトリングガンを縦に顕現し、地面に突き立て、ジンの攻撃を防ぐ、だが、それでも威力全てを防げない

ガトリンガンが地面を削りながら、後ろにいる銀に衝撃を伝達する。

「流石にまずいな、死神さんのいうとおりだ。これは、」

銀は気を引き締め、距離を開ける。

「銀君、、、お願い、もうこれ以上先輩を苦しめないで、先輩を止めて」

浄化の力に覚醒し、春と同じように魂の本質を見えるようになったうららには憎悪と怒りに、ジンの魂が飲まれていく。そのジンの魂の悲鳴が聞こえる

「応、任せろ!」

うららの願いが銀に力をくれる。

闘争心をあおり、狂気じみた怒りを後押しする。

強い意志、強い心、これは魂の戦い。だから銀は自分の意思を放棄し、怒りに飲まれたジンには負けはしない。

「うららさん!彼の魂はどこにいますか!」

「魂の場所?」

「そうです。僕には魂は見えない!でもどこかにいるんでしょ彼の体のどこかに!」

「魂の位置は変わらないわ、胸の中心、いつだって魂はそこにあるの!」

「なるほど、ならば鳩尾にぶち込めってことですね!」

銀はジンの動きを見定め、距離を詰める。途中何度も吹き飛ばされながらも致命傷を避け、徐々にこの不規則な動きに慣れていく、

周りの音を消し、背景を消し、高ぶる怒りを殺し、呼吸を殺し、自我を殺し、そしてただジンだけを、、ジンの思考ではなく、ジンの悪意を、憎悪を見定める。

銀はそうやってジンの人外の動きを読み切り懐に入ると、両手を地面につき、全身の力を込めてジンの体を蹴り上げる。その衝撃でわずかばかり体を浮かせ、素早くその計算されたかのような隙間に再びガトリングガンを具現化する。

「銀君ダメ!!」

振り回しもせず、、地面を背にしガトリングガンの銃口の胸元に突き立てる。それはつまりもう一度弾丸を発射するという事、

既に銀は回復できる魂量を使い切ってしまっている。これ以上使えば魂は削られる。いつ度削られた魂は戻ることなく、徐々に流れ出て、時間経過とともに消えて去ってしまう。

「俺は、パイルバンカーが好きなんだ。存在しない兵器、でもこれはそれも可能なんだろ」

ガトリングガンの中心軸から巨大な杭がジンに向けて打ち出される。

「お前の魂食わせてもらう。死神さん、お願いします!」

これが銀の切り札。撃ち抜かれた巨大な杭が直接魂に突き刺さる事で、死神自ら直接魂を刈り取る。

撃ち抜かれた杭の先にジンの魂がある。

死神が力を発揮する事で繋がった魂を通して魂を見ることが出来ない銀でもジンの魂回収に成功したことを理解できた。

「やった、勝った。」

だから銀は安心した、すべて終わりだと思い、戦いの中で研ぎ澄まされた感覚が緩み、緊張の糸が切れた、つまりは、油断した。それで終わりだと思った。

ビンの最後最後まで油断するな、その教えを忘れてしまった

「銀君!早くに、、」

うららの声が聞こえ終わる前に銀の視界は闇に覆われ、音も聞こえなくなった。

魂を失い、軸を失った、堕天し、憎悪と嫉妬、そして怒りで構成されたジンの体はとけだし、銀に堕ちてきた。そして銀の魂を求め、銀を覆い、心を蝕む。

怒りだけであれば、銀は耐えることが出来る。怒りはジンと同様、銀の中にもある根源の感情だ。同化し、のまれることはない。だが憎悪や、嫉妬は違う。それは銀が持ち合わせない感情だ。銀が強く生きるために捨てた感情だ。


銀は飲まれた闇の中でずっと深い海の中を落ちていくような感覚を得ていた。

不思議な感覚。どこまで自分か分からず、何も見えないのに、落ちているという感覚がある。

この不思議な感覚は、自分が駄目になるような恐ろしいが、心地よいと感じる。

自分の中に何かが入ってこようとしている何か黒い不快な感覚。初めこそ、それを拒否していた銀だが、次第にそうしようという意思が消えていく。

「銀君!求めなさい!あなたの生きる理由を、あなたはこんなところで死んじゃダメ駄目、しっかりしなさい!ジン先輩と同じようになりたいの!!!」

声が聞こえる何も聞こえないはずなのに、それにないはずの僕の掌を握るような不思議な感覚、ちょっと冷たくで、ふわふわで壊れそうなほど華奢な手。それが力強く僕の手を握る。

「生きなさい、求めなさい。あなたが死んだらみんなが悲しむでしょう!!!」

そうだ。僕は生きなくちゃいけない、悲しい思いをさせちゃいけない。僕は、誰も悲しませたくない。僕のせいで涙を流させたくない。

銀は春やうららの事を考え、この場所から抜け出そうとするが、自分の体が分からない。どこからが自分で、どこまでが自分か、どうやっても自分自身が分からない。動く事もできない。それでも、それでもと、銀は春と、うららとビンを悲しませないために、必死にあがく、だが、あがけばあがく程、銀はどこまでが自分か分からなくなってくる。この焦燥感、この怒り、どこまでが自分のものでどこまでがどこかの誰かの者なのか、

どんどんわからなくなっていく、いや、だがそんな事はどうでもいい。

「俺は皆の為に戻らなくちゃいけないんだ!」

『誰かの為?それは都合のいい言葉だな。どうしてお前が死ぬ事が出悲しむと決めるつける。意外にお前に気を使ってそういっているだけかもな』

「誰だ。誰の声だ」

『だれでもいい、誰かが問題じゃない。何の話かが重要だ。お前はいつだってそうだ

誰かに託された、誰かに任された、誰かのためなら、いつだって誰かの為と言い訳をする。求められることに存在意義を見出そうとしている。そんなに人から必要とされたいのかよ。人に言われるがまま、人の望むがまま、そういう人形になりたいのかよ』

「それの何が悪い。僕は誰かの役に立ちたい。僕は必要とされたい。そういうふうになれるように努力してきた。僕はいつだって誰かの為に、だから俺は生きなくちゃいけないんだ」

『本当にそうか?だった見せてやろうか?お前の未来を』

すると暗闇の中に映像が映し出される。そこに映っているのは化粧をし、髪がウェーブして大人びた春の姿だ。

(もう兄ちゃんいい加減にしてよね。もう私たち大学生だよ。いくら兄弟だからって、何でもかんでも干渉しないで、)

今度は別の春、先ほどの春より化粧が濃く、春だと一瞬わからないくらいうららのような派手な格好をしている

(彼氏と旅行に行くのに講義サボったくらいで何よ。もう、兄ちゃんに色々言われたくないわ。)

(私もうでていくから、もううんざり、保護者ずらして何よ。偉そうにしているけど、成績だって私以下、友達もいなくてバイトばかり、兄ちゃんなんかいなくても○○がいれば私生きていけるから、それじゃね)

(まったくどれだけ迷惑をかければ気が済むの、もう嫌。卒業してもまともに就職もできずに、人助けだ、ボランティアだ、なんだって、無理して病気したり、怪我したり、結局最後に迷惑かかるの私なのよ、少しは私の立場も考えてよ△△さんの家への立場もあるの、□□だってもう今度は、中学生なの、私と兄さんはもう何もかも違うの。私には家庭があるの、いい年して、結婚もできず、仕事一つ長続きしない。人を助ける前に、私を助けてよ、もう迷惑をかけないで。)

(兄さんの葬式。結局誰も来なかったわ。色々人助けだなんて言っていたけど、結局そんなものなのよ兄さんの独りよがり、誰にも覚えられていない誰にも気に留められず。こうして私が最後まで面倒を見なくちゃいけない。ずっと言えなかったけど、私、兄さんのこと嫌いだった。何でもかんでも任せろだとか、自分がやるからって。正直重かった。私たちの両親が死んだ時、兄弟別々でも施設に入れていた方がどれだけ幸せだったかって考えるの、あんな無意味な暮らしで、私はしたことを我慢して、やりたいこともできずに、青洲の一番大事な時を生きることに必死で後悔している、ううん、恨んでるって言ってもいい。兄さんに嫌だって言えていれば、、、)

そうして顔にしわのできた春が悔しそうになく姿が映し出される。

『誰もお前のことなど必要としない。お前がいなければ全部うまくいく世界なんだよ。直にお前がいるばかりに、お前が必要であるかのように

世界はお前を必要となどしていない。お前は死ぬべき存在だったんだ。

あの日、あの時、あの瞬間に。なのにお前』

「えぇ、生きること望んだ。そしてこんな未来の為に僕は生きたんじゃない。」

銀は闇の中から自分の体を認識し、落ちていく感覚を拒絶し、自分の体を認識してく

「これが訪れるはずの未来だとすれば今それを知る事で僕は希望が持てたよ」

「希望だと?」

「一つは僕なんかがいなくても春は強く自分で生きていける、幸せになれる。

そしてもう一つは、僕が変わるだけでこの未来は変えられるってことさ。これが今ある未来なら、すべての不幸は僕の行動に起因する。だったらまだ変えられる。ありがとう死神さん」

そういうと闇の中からいかにも中世の王といった面持ちの男が現れる

20代と思しき男は不遜に笑い、禍々しい気を纏って髑髏の椅子に座している

「なんだ、気づいていたのか。」

「僕の魂を消すためならわざわざ声をかけてくれる必要なんてなかったでしょ。

誰かの為に、それだけでは自分で自分を認識する事は出来ない。

人は自分の写し鏡、でも、鏡は真実を映さない。

それは誰かが思う僕なんだ。だから、あのまま誰かを求め、誰かを思えば、僕は僕でない僕になっていた。そうして僕は消えていた。だからあなたは僕自身の存在を解いた。」

「まぁ、それで消える程度なら、わざわざ貴様に力を貸してやる謂れも、魂を奪い取る価値もない。この負の海で散らすのもまた一興」

「でも、さっきのあれ、僕の扱いひどすぎませんか?」

「馬鹿者が今のまま、求められるまま、何も求めなければ、十分にあり得る可能性の一つだ。

人は常に進み成長し続ける。誰かに頼る事はなくならないかもしれんが、子供が母親だけを求めるように、お前でなくてはいけない理由など世界が広がるたびに薄くなっていく。

常に誰かに求められたいのなら、お前自身が求めろ、さもなくば、やがてこの夢物語は現実のものになるとゆめゆめ忘れるな」

「忘れたくても忘れられませんよ、まさしく悪夢に出そうですよ。それじゃ行きますね。「あぁ、行って来い。だが、そう簡単に出られると思うなよ。

今あるお前はここから出られるためじゃない。お前がここであがけるようになっただけだ。

これほどの負の海はそうそうない、狂気をも超えた強い意志がなければ抜け出すことは出来んぞ。」

「はい、問題ありません。というか、予想以上にやさしい人ですね。死神さんは、力を貸してくれたり、こうして助けてくれたり。」

「ただの座興だ、気にするな。運命を失い、みずから異形を引き寄せ、我すらも認識した貴様の様を見ようというだけだ。」

「それでも力を貸してくれたことは事実です。あ、そうだ、こうして会えることはめったにないですから名前、お伺いしていいですか?」

「名前だと?死神でよい」

「僕がいやなんです。名前には思いが込められます、その人を知るうえで名前は大切な事です。個体が識別できればいい、名前ってそれだけのものじゃないんですよ。それとも僕なんかには名前教えたくありませんか、だったら無理には聞きませんが、」

「ハデスだ。冥界の神ハデスデス。」

「なんですかそのイントネーションは、というかそれって死神じゃないじゃないですか」「冥界の神、またの名を死の神、死神だろう」

「うわー、明らかに僕がイメージしていたものとは別格の人なんですけど、死神じゃなくて、死そのものの神様じゃないですか。」

「なんだビビったのか」

「いや、そんな事は、と言いたいところですが、閻魔大王に会ったときくらいビビってますよ。僕大丈夫ですか、力借りたり、こんな軽口叩いたり。」

「私は根が真面目なんだ、厳格で気難しいのが売りでな。そして私は嘘をつくやつ、媚を売る奴が心底嫌いだ。お前は俺の正体を知らずとも敬意を見せ、謝辞を述べた、言葉の表面など問題ではない。だが、俺のくれてやった力を蔑にし、力におぼれでもしてみろ、即座に貴様を冥府の底に引きづり込んでやる。」

「き、気を付けます。」

「それより早く行け、お前には聞こえんだろうが、あの天界の女さっきからうるさくてかなわん。サッサと言って、あの喚き声を止めてこい。」

「はい!」

銀は勢いよく返事すると、ハデスは消えてしまった。そして再び闇だけの世界。どちらが上で、どちらに行けばいいかもわからない。

だが、ここがとてつもなく広大で、見える範囲よりもはるかに遠くまで、何もない事は認識できる普通であれば恐怖に心が押しつぶされそうになるほどの世界だが。

銀は宇宙ってこんな感じなのか、地球に生まれてよかった何度とどうでもいいことを考えている。

それに少しも不安などなかった。どこに向かうかが問題ではない。ここを脱出するのには強い意志が必要だといった。だから大切なのは望むこと元の世界を、そして進むこと自分の意思で、それを信じて疑わない。銀に不安などあるはずもない。


そんな銀を闇の中から救い出そうとするうららは自らの負の塊に半身を突っ込みながら銀がいると思しき場所に浄化の力を使い続ける。力を使い過ぎ、下半身から浸食しようとする負の力に、何度も意識を失いそうになりながら、それでも銀の名を呼び続ける事で、何とか意識を保ち、必死に銀を助け出そうとしていた。

「冗談じゃないわ、早く出て来なさいよ!あなたが死んだら何の意味もないじゃない!あなたが死んだら私、堕天するからね。それでこれと同化して、あなたを引っ張り上げるからね、私にそんな事させたいの!」

「なるほど、確かにこの声、頭に響きますね」

何とか闇から脱出した銀がうららの腕をつかむ

「うえ、これ口の中入ってる大丈夫かな、コレ毒っぽいけど。」

「ぎ、銀、、、」

「大丈夫ですかうららさん。どうしました泣きそうな顔、」

「だ、誰の心配したと思ってんのよ!なんなのよそれ、心配してたのに人の気も知らないで!」

うららが思いっきり銀を叩く、しかも力を覚醒したこの状態での威力は高く、少なくとも狂気を超えるほどの意思を宿すために、闘争心に満ち、怒りの感情でいっぱいの銀には浄化の属性を備えたうららの一発の効果は絶大で、再び負の塊の中に沈む。

「ちょ、銀君!!どこ!どこ行ったの」

「っぷは!今のヤバかった、マジでヤバかった。またハデスさんに力借りないと死ぬところだった!一発ぶっ飛ばされたけど」

これ以上は流石にヤバいとまずは二人とも負の意味から抜け出す。

銀は放置された資材の横に座ると体をそのまま背中に預ける。

「あの、うららさんこれ、、」

銀は残った力で何とかガトリングガンを顕現し、ジンの魂を取り出す。

「うららさんの力で、助けられますか?」

「そうね、やってみる。」

(冗談じゃねぇ誰がお前の世話なんかになるかよ!)

「ジン!!」

「先輩、、、」

(てめぇのやったことに責任をとれねぇほど、後輩に救ってもらうほど落ちぶれちゃいねぇよ。てめぇのけじめも後始末も自分でつけるさ、、、何だそんな顔すんなよ、てめぇは何も間違っちゃいねぇ。やればできるじゃねぇか最初からそうしろってんだ。いいか誰かを思う気持ち忘れんなよ、)

人型になったジンの魂はうららの頭を撫でる。

(じゃな、人間、こんな奴だがよろしく頼むぞ!)

「俺はあんたの事許さないからな、あんたは自分で望んでそうなった、自分でうららさんや春を傷つけた。」

(いい面構えだ、いつか、俺が地獄の底から這い上がってきた時、そん時は喧嘩だ、喧嘩しようぜ)

ジンはそう言い残し、負の塊と共に消えていった。何処へ消えたかそれは分からない。

だが言葉の通り、何も残さず、自分自身で消え去った。

「うららさん、、、」

銀は欠ける言葉に迷う

「何よ、最後まで嫌味を言って、それでかっこつけたつもりなわけ?」

たぶんうららは泣いている、だから銀は何もしない。というより何もできない。

何故なら女の子が泣いている時にどうすれば正解か分からないからだ。

結局うららが落ち着くまで待ち落ちつたところで心配するが、遅い、空気が読めないと本気でダメ出しをされた。

「でも2回目はともかく、1回目はどうやってあの中から脱出できたの?正直銀君なら何とか私の浄化が届くまで持ちこたえてくれるかもって思ったけど、まさか自力で脱出するとは思わなかったわ。どれだけ生への執着が強い訳?」

「いや2回目の方が割とヤバかったですよ、、、、、それにあれ、自分の力ってわけじゃないです。でも生きるための理由、色々考えたんです。

両親の代わりにだとか、春の為だとか、、ヨウヘイさんの恩義に報いるとか、

義務とか責任とか、でも結局それは後付けの理由で縛られる理由が欲しいだけで、

そうする全部の根源は、僕が生きたいんです。僕は行きたい。生きて色んなことがしたい一緒にいたい。そんなこと考えていたら、ふと、春が朝ごはんの準備してる気がしたんです

あと何回。こうして一緒にいられるだろう、春の作ったご飯食べられるだろうって。

せっかく、朝ご飯作ってもらっているのにそれを食べなくて死ぬっていうのも失礼でしょ。」

「なによそれ。」

「でも、そういう事なんです。僕の欲しいもの、僕の生きる理由なんて、僕はいつかの未来の為、過去から引き継いだものもありますけど、僕はいま生きてて楽しいんです。だからですかね。」

そんな他愛のない会話をしていると銀の腕時計が時間を告げる。

「あ、配達の時間、、、セットしてあげてたんだ。」

「うそ、ホントですが、ヤバいな、自転車壊れているし、ここからじゃ流石に間に合わないよ、、、、、うららさん、申し訳ないんですけど、送ってもらえませんか」

「私をタクシー代わりに使おうと」

「そういう訳じゃありませんけど、、、そこは何とか。」

「ふう、仕方ない、それじゃ今回は特別ね。今後はないから、これはお礼、いいわね」

「お礼?まぁ良くわかりませんが、すみませんがお願いします。」

銀は急いで地面に落ちた閻魔帳を回収しペンダントをうららに返すと首根っこをうららに捕まれ輸送される。

「あのこの格好何とかなりませんか?」

「送ってあげてるんだからわがまま言わない。それにしてもお礼がこれになるなんて、銀君も惜しいことしたわね。」

「あぁ、もしかして僕の寝こみを襲ったキスの事ですか、残念ですが、僕のファーストキスはあんな事ではあげられませんよ。」

「あんた起きてたの?」

「頭は起きてたんですけど、体が全く起きられなくて、意識はあったけど、全然体動かかなくて金縛り状態っていうんですか」

「どこから?」

「どこからって、うららさんの膝枕あたりからですかね」

うららは自分のしたことを思い出し顔が赤面する

「あ、それと全く別件ですけど、お借りした死神の力、ハデスさんに聞いたら完全に魂と力が結合してるから死ぬまでは戻せないそうです。申し訳ないですけど借りたままでいいですか」

「だめよ、今すぐ回収するわ。」

うららは突然、手を離す。

「わ、わ、ちょっとうららさん駄目ですって冗談でも、前回の本当にトラウマなんですから。」

「冗談じゃないわ、今すぐ殺す。あんたなんか殺してやる」

「ちょ、ちょっと何怒ってるんですか」

「今すぐその記憶、私の過ちの黒歴史、消してやる~!!!!!!」


そして2日後

予定通り予定した時刻に天界からの特使がうららの元にやってきた。

天界でもあれから大まかな事態を把握したようで、ジンとウリュウが共謀してこの事象を引き起こした事としてすでに対策を立てていたようだ。

だが、うらら、主に銀が代弁し、事態を説明したことで、二人の主犯とされ、容疑者完全消滅という事で事態は処理された。

だが、天界から持ってきた特別中継器を介して、何とか通信が回復するだけで、通信そのものは回復せずウリュウを失ったことで結界を解く手立ても潰えてしまっていた。

天界でウリュウに並ぶ結界使いはおらず、研究成果一式処分された今となっては、事態の解決までの道のりは程遠い。

とは言え、あれ以降ジャハンナムの影はなく、こちらに天界の部隊が常駐する事となり、一応の天界の秩序は保たれ、約束を守った事と閻魔帳を守り抜いたことで銀は無罪放免となっていた。

ただうららが閻魔帳を持ち出した事だけはうららが死ぬほど説教を受ける事となったがが、素直に反省するうららを見てフジミヤも閻魔大王をも怒る気を失ってしまっていた。

「色々言いましたが、今回の任務は、閻魔帳による不正により最初からやり直しという事になります。ですが、このような事態で任務を続けることは好ましくありません。

まずはこちらに戻ってきて、また任務は別途検討いたします。とりあえずはこっちに戻ってきなさい。ジン君の事であなたも大分疲れているでしょう、まずは休息を取ってそれから今後の事を考えましょう。」

うららは上の事務所を見上げ銀と春がこちらを見ていることを確認する

「あの、私、あれからいろいろ考えたんですけど、お願いがあります。」

「お願い?」

うららの様子を伺っていた二人にうららは声をかけ、映像の前に二人を呼ぶ。

「それじゃうらら、話の続きは後で、」

「はい、」

「うららは一人大人しく、階段を上がっていく」

「あの、うららさんに何を、、」

「あの、あなたがうららさんの言ってた、嫌味ぐちぐち、小姑上司のフジミヤさんですか」

落ち込むうららを見て敵意むき出で、フジミヤに噛みつく

「春、この人は悪い人じゃないから、、落ちつて、」

「なるほど、うららが戻りたくない理由なんとなく理解できたわ。」

「あの、それでお話というのは?」

「そうね、あなたは直線的で話が早くて助かるわ。二人に折り入っての頼みがあるの」

「頼みですか」

「えぇ、先ほど、うららにこちらに戻ってくるように言ったのだけれども」

「うららさんは渡しませんよ!うららさんは私の家族です。」

春をなだめる銀だが、フジミヤは怒る事もなく閻魔大王の顔色をうかがう

閻魔大王はフジミヤの意図をくみ取り無言でうなずく

「お願いというんはね、春さん、あなた達にうららの事をお願いできないかしら」

「え?」

「ジャハンナムの事もあるから、うららには戻ってくるように言ったのだけれど、あの子は今の任務をやりきるって言って聞かないのよ。でも、いろいろ心配でしょ。

もちろん何かあればそちらにいる特務隊は戦闘が得意とする部隊でも強い軍隊がいるからと言って安全という訳でもない。それにあの子は、今は与えられた仕事を最後までやりきるなんて立派な事を、いっているけど、最後までやれるような子じゃないわ

でもあなたたちがいれば、大丈夫じゃないかって、あの子に足りなかったもの、私たちが言い続けてもダメだったものをあの子に気付かせてくれたあなたたちと一緒なら、本当に最後までやれるんじゃないかと思うの」

「それじゃ、うららさんはこっちに?」

「あなた達さえよければだけれど。返事はすぐにじゃなくてもいいわ。あの子は普段どうしようもないくらい我儘でだらしないでしょ。色々迷惑をかけると思うからよく考えて」

「あの、ありがとうございます。」

春は考える間もなく、そう答えた

「うららさ~ん、うららさんここにいてもいいって!!」

春は話の途中でうららの元へ走っていく。

「ちょ、ちょっと、まだ銀君の同意を、、」

「ま、あれだけ喜んでいる事ですし、いいんじゃないですか、まぁ食費やら維持費やら色々かかりますけど、何とかやっていけるでしょ」

「あなたはそれでいいの?特にあなたは、死神の力を手にしている。うららがいる事でまた巻き込まれる可能性だってあるのよ。まぁ、それはそれでいいんじゃないんですか、少なくともこの力がある事で何もできないなんて思いはしなくていい」

「力を使い過ぎちゃだめよ。運命の移し替えが可能になった時、戻れなくなるわよ、その時は残念だけれど、あなたの命を今度こそもらう事になるわよ。」

「大丈夫力に飲まれるなんてマネしませんよ。」

「ハデス様から連絡があったわ、まったく、ハデス様からの連絡なんて初めてだったからうちは今回の事件以上の一大事よ、そしたら君に力を貸したから一切の干渉、不要と。あなたが今回無罪になったのは、功績というよりハデス様の口添えによるところが大きいわ」

「なるほど、それじゃ、お礼を言っておりてください。」

「、、、、いい、ハデス様は恐ろしいお方よ。あなたの想像も及ばない程危険なお方よ。彼の言葉を信用しちゃダメ、彼の力に頼っちゃダメ、後悔だけじゃすまないわよ。」

「肝に銘じておきます。それでも僕はハデスさんには感謝してます。」

「それじゃ、もう一度うららを呼んできてもらえるかしら」

銀が家に目をやる

「、、、、あの、なんかすでにうららさんの歓迎会やってるみたいですけど。」

「、、、、、あなたよくついていけるわね。」

「えぇ、僕のハーレムですから悪くありませんよ。」

「あなたそういうキャラじゃないでしょ、言っててつらいでしょ、あなたの場合まずは普通に彼女を作れるようになる方が先なんじゃないの」

「あの、なんで僕、いつもその手の嘘は見破られるんでしょうか」

「そりゃ、だってあなた、、どう見たってそういうキャラじゃないわよ。草食系っていうのかしら、女性に対しては奥手、相手を傷つけないかマイナスの事ばかり考えて結局何もできないタイプじゃない。」

「、、、、、」

「え、当たっているでしょ、もてたいならまずはそこを何とかすべきね、何だったらお姉さん相談に乗ってあげようか?」

「いえ、結構です。」

「そう、まだあなたがそれだけ必死じゃない以上。本気で人を好きにならない限り、女の子はあなたを男としてなんて見てくれないわよ。まぁ、本気で彼女が欲しくなったら相談しなさい。それじゃね。うららにはまた後から連絡取るわね。」

「、、、うわー自身無くすわ。」

「心配するな。わしも昔はそういうタイプじゃったが、モテ期が来れば変わるぞい。お主のその年齢以上の落ち着きが良い方向に働く時が来る。それまでにまずは本気で人を好きになるという事を覚え解く事じゃ、そうじゃないと免疫がなくモテ期におぼれて運命の出会いを逃すか、モテ期事態を逃すことになるぞい」

「まさか、閻魔大王にまで心配されるとは思いませんでしたよ。」

「わしも男じゃからのう、何かあったら相談せい。わしは妻が6人の勝ち組じゃ」

「、、、師匠と呼ばせてください。」

「うむ、任せておけ、少年」

「閻魔様!くだらない事で回線使わないでください!銀君も、二兎を追うものは一頭も得ず。その年まで女の子と手もつないだことのない人が閻魔さまのアドバイスがあてになるわけないでしょ。君はもてない、奥手、近寄りがたいが持ち味なのよ」

なぜ一言も手をつないだことがないとか言ってもないのに決めつけられる。いや間違ってはいないが、最近、銀は周りの女性の自分に対する扱いがひどいと思えてくるようになっている。


その日の夜。春と銀が眠った後、一人テレビを見るうららの視界を遮るようにビンが落ちてきた、冷蔵庫をあさる。

「なんじゃ、その目、私に何か言いたいことでもあるのか?」

「別に、ただ、あなたが二人に引かれた理由、少しだけわかったわ」

「なんじゃ唐突に」

「私もあなたと同じようにあの子たちに救われて分かったわ。

あの二人は特別な一瞬の為でもなく、いつか来る未来の為でもなく、刹那の快楽の為でもなく、確かに進める一歩の重みを知っている。今ある物幸せの価値を知っている。

大切な人の死や別れをたくさん経験したからかな、

あの二人は永遠なんて絶対なんて信じていない。

それは悲しい事だけど、でもそのおかげで二人は今の大切さを誰よりもわかっている。

そういう風に考えられることは素敵だなって私思うの、あなたも私も永遠に近い時間を生きているけれど、それが分からないうちは長生きしても命は輝かない

貴方の事は嫌いだけれど、あの子たちを守りたいって気持ちは一緒。私がいる事であの子たちには迷惑をかけると思う危険な目にも合うと思う。だからあなたの力を貸して」

そう言ってうららはビンに握手を求める

「心配するな、私はお前の1000倍はお前の事が嫌いじゃそれにお前などいようがいまいがワシの不運を呼び寄せる力甘く見るなよ、いいじゃろう、握手は御免こうむるが、目的は一緒じゃ、力を貸してやろう。いや、むしろ貴様が私の手足となりしっかりと働けよ。」

「気に入らないけど、ここは先輩を立てておくわ。」


終章 一『貧』一富変わらぬ思い、一度きりの親孝行

銀の家では、うららの開いた回線から懐かしい声が聞こえてくる。わずか5分間だけ、あの世とこの世をつなぐ電話。

「すまんな、善処はしたが、音声だけが限界だった。」

「そんな感謝していますよ。願ってかなうもんじゃないでしょ、こういうものは、平穏とは程遠い夢物語に足を突っ込んだ価値があるっていうものですよ。」

「兄ちゃん!お父さんとお母さんが兄ちゃんにだって」

「僕はいいよ、あと少しなんだ、春がめいいっぱい時間を使いなさいな」

「そういわずいってやれ、親孝行したい時には親はなし、声を聞かせるものまた一つの親孝行ぞ、反抗期という訳でもあるまい、春にとってお前も大切な家族なんじゃ。」

優しいまなざしでビンは銀の背中を後押しする銀には彼女の優しさと自分の小さなプライド天秤にかける必要もない

「、、、分かったよ、これも一つの親孝行か、」

「あのね、お母さんそれでね、今ねこの家にはね2人も神様がいてね、、、」


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