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3章『春』『うらら』捜査線

3章『春』『うらら』捜査線


時は戻り、春とうららが連れされた直後 並木通り商店街 から揚げ弁当の島屋

「銀君、銀君に電話よ。」

「自分にですか、あの、春だったら、後から折り返すといってください。」

昼時を少し過ぎたとはいえ、まだ客足は途絶えず大忙しでお弁当を詰める銀に電話がかかってくる。

「ううん、春ちゃんじゃないわ、アルメさんっていう女の子みたいだけど?」

「アルメ?」

聞きなれない名前、というより自分に外国人の知り合いはいないはずだが、、、、とは言え、この状況で無視する話にはいかない。銀はビニール手袋を外し、電話に出る。

「はい、お電話代わりました、桜野です。」

「銀か?」

「、、、ビンちゃんか、アルメっていうから誰変わらなかったよ。でも珍しい、ビンちゃんから電話って、それにうちには電話ないし、ビンちゃん原則家から出られないんじゃなかったっけ?」

「直接電話線に干渉しているだけだ。かけ放題だぞ、ってそうではない。聞け、真面目話だ。」

「春に何かあったのか?」

ビンが電話をかけてきた事、真面目話という事は、可能性はそれしかない。

「そうじゃ、半刻ほど前じゃ、春の気配が消えた。わしの感知を邪魔するほどじゃ、人間の可能性はない。」

「このタイミングってことは、うららさん関連か、迂闊だったな、まさか春が狙われるとは、でも今考えれば可能性としては十分にあった。で、うららさんは?」

「、、、先ほど出て行った。」

「出て行った?なんで?春を探しに?」

「その、、、、なんだ、私と少々言い合いを、それで出て行って、春の気配が消える前、春の近くにあやつの気配もあった。おそらく春は巻き込まれたのじゃろう。

私も迂闊じゃった、おそらく今まで何もなかったのはおそらく私の影響じゃ、わしがいる事で、敵はあやつの事を感知できなかった。

だが、私の影響を受けるテリトリーを離れた瞬間これじゃ、おそらく今回の件。最初から狙いはあやつじゃ、すまぬ」

「ビンちゃんが謝る事じゃないよ、喧嘩はいつかすると思っていたし、今まで無事で済んだのはビンちゃんのおかげだよで、問題はなんでうららさんを狙ったのか?」

「私の推察交じりじゃが、、、」

「あ、ちょっと待って、そっちに帰る。電話をいつまでも借りるわけにはいかないし、、、」

銀は電話を切り、お店に断りを入れて混雑が終わりかけた時点で、家の用事でという事で早退させてもらう。

そして帰宅途中で、酒屋も同様にお詫びを入れて休みをもらった。

ただ新聞配達だけはどうする事もできない。

リミットは明日の午前3時、もちろん、それ以降まで春が見つからなければ配達を休んででも春を探すだろうが、それは出来ればしたくはない。

銀は最後に春の学校により、春の不在を確認すると全力で自転車をこぎ家に戻る。

銀が家に帰ると、今にも泣きそうな顔でビンが、1階の入り口まで降りてきている。

「心配しないで、僕が絶対に何とかする。その為にもまずは状況を、教えてくれ。」

ビンは銀が安心させるために撫でた。

銀とて内心は落ち着いていられるわけがないが、こういう時、慌てても何もならない事を知っている、とは言え一分一秒を急ぐ中で、冷静なビンが動揺していてくれた事で、自分の心を落ち着かせてくれた。

ビンは銀の手をのけ、話を始める。

「今回の天界とこちらの世界の隔絶、その全てではなくこの一地域だけが閉鎖され訳じゃが、このような隔絶、人間側でも、かつて名うての陰陽師の結界で行ったことがある。

じゃが、それは今回のものとは違う。今回のこの隔絶は、結界の類だろうが、何かを守るための結界でも、私のようなものを退ける物でもない。

こちら側の世界と天界の行き来を『阻害するため』だけに張られた結界じゃ、天界の者どもが手をこまねいている以上、この結界は強力じゃが、効果と範囲が限定的すぎる。」

「つまりこの結界を張る意味がないと?」

「うむ、私のようなこちらの世界を根城にしとる神仏妖の類には何の影響もない、現に昨日、知り合いの座敷童から、私たちの飛脚を通じて文が届いとる。私たちに影響を及ぼす者であれば、この文は届かん。」

「座敷童ってたしか、幸運をもたらしてくれるんだよね、今度紹介してくれない?」

「本人もそんな気もないのに無理に茶化すな、悲しいだけじゃぞ。話を続けるぞ、この結界によってもたらされる効果は2つ、一つは死を迎えた魂がこの世界にとどまり続け地縛霊化する事で、気の流れを乱し、こちらと天界の魂の循環を阻害しバランスを崩すこと。

じゃが、それには時間がかかりおる故、ほどなく霊道は開く状況では不可能じゃ。

二つ目は天界の住民がこちらとの行き来を一時的に阻害する事。

そして今回の結界はほぼ間違いなく、これが目的じゃ。」

「それは最初に話した時からわかっていた事だよ。問題はその目的だよ。」

「うむ、そうじゃな、この結界。鳥かごのようなものだと思ってもらってもいい。だが、この鳥かごは一時的、鳥を飼うためのかごではない。

これは言うなれば漁の網、獲物を追い込み、自由を奪うためのものだと考えたらどうじゃ?」

「、、、、」

「あやつの話では本来、あやつはこちらの世界に来るような存在ではない。何しろ名門もお嬢様じゃからのう。そんなやつがこちらの世界に偶然訪れ、偶然、結界が張られ、偶然閉じ込められた。そう考えるか」

「まぁ、確かに、偶然というより意図的にと考えた場合、原因はうららさんだよな。でもその目的は?」

「もう一つ、普通ではありえない偶然のものがあるじゃろう」

「?」

「あ、あそうかおぬしは知らんか、」

「あやつが持っとる物の中に普通の死神はもっとらん閻魔帳というものある。閻魔帳は、天界の至宝。アカシックレコードの派生のようなものじゃ。」

「アカシックレコード?」

「この宇宙の始まりから終わりまでを、あらゆることを記したものじゃ、そこに記されていない事は何一つないものじゃ、閻魔帳はこの世界に生きる生き物全ての事が記録され取るものじゃ。お主らが閻魔帳ではすでに死んでいるはずなのに、生きているという事がいかに例外であるか、あの者たちが言っておっただろう。

閻魔帳にはその運命そのものが記されておる。生まれて死ぬまで、良いことも悪い事も、そしてあやつらはそれを参考にし、お主らの行く末を決める。本来死神がこちらの世界に持ってくる者はその閻魔帳の写しのようなものじゃ、回収する命の真名と、死亡原因くらいしか書いておらん。

じゃが、どういう訳かあやつが持っておったのはオリジナルの閻魔帳じゃ。」

「それが敵の目的?」

「あやつにそれほどの価値があるとは思えんが、閻魔帳であれば、それだけの価値がある。

あれば記されているものの運命を知る事だけではなく、これから起こる運命を書き換える事で運命を変える事が出来る代物じゃ。それにもし、あれを燃やされるでもしてみろ、すべての人間が運命を失い。突然死や、人ならざる力を持つものが出てくることになる。

運命を失ったものはお主らだけではない。かつても運命を失ったものはおる、そやつらは運命の鎖を失い、やがて人ならざる力を手にする事になり、この世は大混乱じゃ。それに天界も閻魔帳そのもがなくなってしまえば、魂の価値を判定することが出来なくなり死後の行く末を決める公平な判断が出来なくなる。

おそらく今頃、許可を取っていないのであればあやつが閻魔帳を持ち出している事に気づき大さわぎしているのだろう」

「閻魔帳を目的に、、、でも、、という事は、犯人は天界の人間?」

「察しがいいのう。わしが思うに何者かが、あやつをそそのかし、閻魔帳をもちださせ、結界を張った。あやつが名門の出で、閻魔帳に触れることのできる立場にあったことを知っているおそらく近しいものじゃろう。

計画自体は前から練ってあったが、ここまでのタイミングで実行できるという事はかなりの近親者じゃろう。

そして、閻魔帳を持ち出したことを確認し、自分もこちらの世界にやってきて結界を張った。だが、結界を張った後。あやつの魂を私のせいで感知できなくなり、今日まで途方に暮れていた。と言った所じゃろう。」

「それで、その閻魔帳は?」

「お主が持っとる、ほれ、その中に一緒に封じられとる。」

「え、コレ?これの中に?」

そんな重要なものを自分が持っていたとは、、、

「とは言え自由に出し入れできるのは所有者あやつだけじゃ。」

「ちょ、コレまずいんじゃないのビンちゃんが持っていた方が」

「私が持つと私の力と干渉しあう、それは言うなれば異次元に保管している四次元なんチャラ的なのじゃ。」

「ビンちゃん、良く知っているね」

「毎週春と一緒に見ておる。私がそれを持っておくとそのまま異次元の奥深く、取り出せなくなる可能性があるから無理じゃ、お前が持っておれ、」

仕方がないと銀は取りだしたペンダントをカバンにしまうことなく自分の首にかけ、Tシャツの内側に隠す。

「私の推察が間違えていない場合、少なくともうららは無事の可能性が高い。何故ならあいつを殺してしまえば閻魔帳を取り出すことは出来なくなってしまう。じゃが、春は正直分からん。」

「居場所に見当は?」

「私では分からぬところにおる以上少なくともこの3キロ圏内にはおらん。

それ以内であればいかなる妨害があったとしても感知できるからのう、じゃがそれ以上といっても、敵の結界は半径50キロは優に超えておる。その中から探し出すことは難しい。」

「探せないのか、、、」

「敵は気配を消す術を持っておる。そして春とうららの気配も同時に消せる何かを持っておる、、、私の知り合いの妖にも捜索依頼を出すが、文を出し、届いた後探したところで可能性は薄いと言わざるえん」

「そうか、、、、」

「どこに行くつもりじゃ?」

「春の学校の近くから、探してみる少なくとも春は人間だ。探せない事はないと思う。後は地縛霊に聞いてみるよ。彼らの声は聞こえなくても僕の声は聞こえる。何か見ていたかもしれない。」

「そうか、気を付けてな。」

「うん、、、」

銀は家の外に出ると、自転車を全力でこぎ出す。

ビンは今ほど悔しい思いをしたことはない、家についた貧乏神はその家を潰すまで出ることが出来ない。だから、ビンは仲間の妖に捜索の協力を終えるとビンは祈る。

祈る相手などいないが、それでも、祈る事しかビンにはできない。


銀が春を探してすでに4時間。日は沈みかけ、1級河川に夕日が移る。

だが、いまだに手掛かりはなく、流石の銀も疲労を隠せない。

人も霊も目撃者はなく、何処を探せばいいのか分からず、足を止める事はないが、途方に暮れていた

そしてその焦りが、冷静さを欠かせていた。

河川にとって伸びる遊歩道を、自転車で走りながら左右の景色に意識を集中させる。

どう探していいか分からない中、怪しい場所を探し、何か感じることはできないか必死に感覚を周りに集中する。

しかし、そのせいで彼は前方を歩いてくる親子に気付くのが遅れてしまった。

普段であればそんな事は絶対にない。だが、この時は違った、銀はあわててハンドルを河川の方に向け、急勾配の草むらを何とか降りていく、が、途中草に隠れた大岩にぶつかり、自転車から転げおち、体を強打する。

自分がぶつかりかけた親子の無事を確認し、謝ると余計な心配をかけないように、何事もなかったかのように起き上がろうとするが、体が痛い。

おそらく、ジーパン越しに中をすりむき出血しているし、肩も痣になっているだろう。

つくり笑顔で無事をアピールし、親子が見えなくなると自転車を起こす、だが、ハンドルを持った時の違和感。

前輪が大きく曲がり、ハンドルが緩み真横を向いている。

自転車を壊してしまったことにイラつきながらも、ハンドルを力で戻し、同様にタイヤにあたったままになってしまったブレーキと泥除けも力づくで、修復する。

それでも、前輪自体がかなり曲がってしまっており、軽く押してもその歪みは見て取れる。おそらく前輪を変えなければそのうち駄目になるだろう。

とは言え、今はそんな事に構っている暇はない。その歪んだ自転車に乗って漕ぎ出そうとした、しかしすぐにもっと大きな違和感に気付く。

後輪がパンクしている。これではまともに乗ることが出来ない。

銀は前後に誰もいないことを確認し、自転車を降りると、思いっきり自転車にあたった。

「あー、もーこのボロが!」

蹴飛ばしたところで痛いのはけがをした自分の足だけだというのに、どうしても当たらずにはいられない。こんな時に、、、自分のふがいなさに泣きそうになる。

そんな時だ、ふと橋の下を見ると、ひとりの霊がじっとこっちを見ている。

それに銀が気付くとその霊は一方向を指さし、消えてしまう。

「消えた?」

銀は霊を見ることが出来るが、霊が目の前で消えるのを見るのは初めてだった。

それに自分と目が合ったことを確認し、指さしをして消えた。

手詰りの銀は貧乏神と暮らしているため、都合のいい偶然や奇跡を信じないようにしているが、それでももしかして、

銀は自転車を邪魔にならないところに避け、遊歩道に戻ると橋を渡り、霊の指さした方に向かう。

するとまたしばらくすると同じ霊が交差点に現れ、また違う方向を指さす。

それを2回、3回と繰り返すうちに、それが偶然ではないと感じていた。

そうしておよそ1時間、

廃寺へ続く林道にたどり着いていた。

日はすっかり暮れ、あたりは暗くなっており、林道は既に足元が見えにくくなるほど暗い。

銀は林道の先が目的地であると確信し林道に入る。

林道を警戒しながら歩いていくと入り口と廃寺の中間くらいの場所で再び幽霊が現れる。

今度はどこかを指し示すようなことはしない。ただ黙って銀を見ている。

銀が近づいてもその霊は消えることはない。

「ごめん、たぶん何かを言いたいんだろうけど、僕は霊が見えても、霊の言葉は分からないんだ。」

そう銀が霊に話しかけると、悲しそうな顔をして霊はすっと消えていく。

銀はその霊の事を気にしながらも、今はそれどころではないと、残りの林道を駆け抜け、廃寺へとたどり着く、

「春!うららさんいますか!」

直前の急な階段をかけ上がり、息を切らしながら呼びかける。

「銀君!銀君なの!」

「うららさん!よかった、、、」

お堂へ近寄ろうとする銀、だが、銀は一端足を止め周りを警戒する。

「この状況、誰もいないってことないだろ。」

「正解、いい勘してるね。」

銀の前に大カラスが飛んでくる。

「喋るカラスか、、、いくらで売れるか、それが問題。」

「僕を売るつもりかい?でも残念。僕は喋るカラスじゃない。」

カラスは両の羽を広げる、その羽は優に1mはあり、この暗がりの中でも黒と分かる程黒く、元のカラスも大きいがそれでも不自然なほど大きな羽だ。

カラスは羽を最大まで広げると、はばたくように翼を前にする。

するとその黒いカラスは黒い何かに変わりそのまま少年の形へと姿を変える

「僕はジャハンナムの、、」

彼が自己紹介をしようとした瞬間、銀は問答無用で突進し、少年に勢いそのままに襲いかかり、腹部に一撃を食らわし、彼の呼吸を奪おうとする。

その一撃は一切の遠慮がなく少年はその場に倒れ込む。

だが、銀はそれでも一切の加減なく今度はうつむく少年の後頭部にかかと食らわし、地面に顔面を叩きつける。

「子供の姿で油断させるなら、カラスの姿で現れる馬鹿がどこにいる。」

「ひどいな、まずは相手何者かの確認が先でしょ、銀君」

銀は自分の名前が呼ばれたことより、この状況でしゃべれることに問題があると、少年の頭の上にある足を軸にし、もう片方の足を上げ背骨にもう一撃かかとおとしを食らわそうと振り下ろす。

だが、少年は黒い霧となって消える。その為銀は軸足が足場を無くし宙に浮き、バランスを崩して地面に手をつく

「ふふ、大丈夫?」

「相手の確認だと、カラスになったり、霧になったり、何者であろうとただの化け物だろうが、お前か春とうららさんをさらったのは?」

「ふふ、そんなに熱くならない、残念ながら、ぼくじゃないよ。さらった本人は目下この街で君の事を探しているんじゃないかな」

「銀君!そこにいるの!」

「すみません、今少し立て込んでいます!もう少し待ってください。それより春はそこにいますか?」

「兄ちゃん!」

「春!」

銀は春の声に自分を求める物を感じると目の前の少年を無視し、お堂に向かって走り出す。

「ほら、油断しない。」

少年はまた霧になり、銀の背後に現れ、襲い掛かる。

だが、銀はそれをしゃがんで躱しそのまま少年の顔面に一撃を食らわす。

「いちいち攻撃する前に喋るな。馬鹿か、それに知っているか月明りでも影は出来る」

「おしゃべりは強者の余裕だよ。君の攻撃なんか効くわけ、あれ?」

少年は地面に座り込んでしまった。

「物理攻撃が聞かないことくらいさっきので分かっている。だから今の一撃は魂を込めて殴らせてもらった。どうだ効くだろ。貧乏神の保証付きの威力だ。」

「な、馬鹿なただの人間が」

少年は立ち上がろうとするが立ち上がれない

「痛覚神経はないようだな。そのせいでいかにダメージが深刻か分かってないようだな。」

「そ、そんな馬鹿な、、」

何とか立ち上がろうとする少年に銀はさらに追い打ちをかける

一切の容赦がない、銀は完全に切れている

「冷静に考えれば、春に見られればこういう事で気ないからな。それにお前らを探す手中で、自転車が壊れた恨みもある。」

「な、そんな逆恨み。」

銀はさっきから少年の言葉など一切聞く気がないのか少年の言葉をさえぎりダメージを与えていく。

「どうしたさっきまでの余裕は、負けた途端虚勢を張れなくなったか?」

「まるで悪魔だね、」

「人外に加減は無用、見敵必殺、殺す気で行け。一切の情けなく一切の隙を見せるな。不意を衝いて最高の一撃を初手にたたき込み、後は容赦なく畳み掛けろ、ビンちゃんからのアドバイスさ。」

「ふーん、流石にこれは予想外だったけど、でも、残念ながら、最初の一撃が最高なら君では役不足、僕の本当の力を見せてあげよう。ジャハンナム監視官のこのコウテツの真の力をね。」

コウテツはおもむろに立ち上がりポーズを決める

「恐怖しろ、狂え、怯えろこれがジャハンナムの力だ!!!!!!!!!!!!!」

だが、何も起こらない

「な、何だどういう事だ」

「えっと、確か後は、、、」

銀はコウテツを前にし、指を細かく動かしている。そしてコウテツに近づいていく

「う、動けない。」

「これで終わり」

銀がコウテツに触れると、鳩尾から文字が広がりそれが鎖のように実体化し、自由を奪う

「な、何だこれは。」

「言っただろ初手で最高の一撃を叩き込むと、最初から勝負はついている。ビンちゃん直伝、平安陰陽師御用達の降魔覆滅の呪印さ。右手に1回分だけ僕でも使えるように預かってきた。お前が何者で、あったとしてもだ。」

殺される、この俺が、人間如きに、、、、だが、銀は彼を放置し、周りに神経を研ぎ澄まし、他に敵がいない事を確認するとお堂へと向かう。

「春!」

銀は春の無事を確認すると駆け寄り、体に怪我がないかを確認する。

「目が赤い、それにその顔、」

「あいつ春を泣かせたのか」

銀はコウテツを殴り足りないともう一度殴りに行こうとする

「ちょ、ちょっと落ち着いて、銀君。」

「兄ちゃん大丈夫だから、、、」

春が銀の腕をつかみ、殴りたりないとコウテツの元へ向かおうとする銀を引き留める。

震える春の手で何かがあったことを察し、頭の中は冷静だが、心の頃は地獄の煉獄の様に燃え盛っていた銀の怒りが収まっていく。

「大丈夫か?悪かったな、遅くなって。」

銀は屈み、春の頭を撫でる。

「銀君どうやってここに、」

「あー、それが変な話なんですけど。変な幽霊がここに導いてくれて」

「変な幽霊?」

「えぇ、ふつう幽霊って一か所にいるじゃないですか、それが僕をここに連れてくるように消えたり出たり、それで最後には僕に何かを言おうとしてきえてしまって。あ!」

銀はうららの後ろにその霊をみる

「ほらうららさんの後ろに、」

うららは振り返るがそこには何もいない。

「なにもいないじゃない、」

「いますよそこに、でも、何だろ、、、さっきまで違ってずいぶんと優し顔をしてる。えっと、、、、あ、り、がとう?」

銀は霊の口を読む。そして霊は笑いながら消えていく。

「消えた、、、成仏したのか?」

「銀君大丈夫?霊なんていないわよ」

「え、でも確かに、たぶん年上だと思うんですけど、小柄で、しわだらけで襟が撚れてて、袖とか汚れてる白衣みたいなもの来てて、あ、そうだコレ、うららさんと同じペンダントしてました」

その言葉で、二人がそれが誰かを察する

「嘘よ、そんなことあり得るわけない」

「信じなくても事実そうなんですよ。あの霊のおかげで僕はここに来られた。」

「ウリュウさんですよね。」

「春の知り合い?」

「うん、私たちの事を助けようとしてくれた人、、でもその為に私たちを庇ってそれで、、」

「なるほど、それでか、、、」

春が泣いていた理由を察した、

「心配するなっていうのも変だけど、そのウリュウさん最後は二人を見て笑って消えていったよ。自分の行動に後悔なんてしていないと思うよ。」

「また、生きる理由が増えちゃった。」

「そうだな、僕も春も色んな人に助けられてここにいる。」

「うん、わかっている。」

3人はお堂を出ると、コウテツが何とか拘束を解こうと暴れている。

銀は問答無用で蹴り飛ばしたいが、春のみている前では流石にそれもできない。

「これ誰?」

「たぶんこの人あのカラスです。魂が同じです。」

「貴様らこんな事をしていいと無事で済むと思っているのか?」

「あなたたちは何者なの?何が目的?」

うららがコウテツに詰め寄る。

「お前に答える義理はない。」

「そうね、そんなことどうでもいいわね。銀君、ペンダントを返してもらえる?」

「でも、、、」

ビンには何があっても彼女に返すなと言われている

「大丈夫、またあなたに返すわ。信じてくれる。」

「わ、分かりました、、うららさん。何か今までと感じが違いますね」

「そう?ちょっとまじめモードなだけよ。でも少なくとも、命を懸けて私たちを助けようとしたウリュウさんの思い。春を守りたいと思う気持ち、それが素直に受け入れられる位には、できるようになったかな。だから、今の私にはできる気がするの。」

うららはペンダントから死神の鎌を取り出す。その鎌はかつての草刈り鎌とは比較にならない大きさで、そして白い、その鎌に合わせてうららもまた全身白尽くめ、広げた翼もあってまるで天使そのものだ。

「できた、私にも、そうか、これが私の本当の力、」

「な、何を、、」

「天に背き魂よ、天に帰りなさい。」

うららはその鎌を振り下ろす。

「大丈夫痛みなどないわ、その魂に安息を」

少年を形作った魂は黒い霧を散らしながら、魂に姿を変え、うららのペンダントに収容される。

「うららさん。」

「私、できた、ずっとできなかったの、、でもできた。一族に伝わる浄化の力、私にも、、春~」

「わ、ちょっとうららさん、どうしたんですか」

うららは春に抱き着く

「私には才能がないって思ってた、私だけが、私だけが出来ないって。でもできた。春のおかげだよ。春がいてくれたから私。」

「な、なんだかわかりませんけど、お役に立てたなら、良かったです。」

興奮冷めぬうららであったが今はこんな事をしている場合じゃない

「う、うららさん。とりあえずここから移動しましょう、コウテツの話だと、まだ別に誰かがいるんでしょ、しかも僕を探してるって、急いで帰らないと」

「そうね、急ぎましょう。銀君手を、」

銀は言われるがままに手を差し出す。

「春も離さないでね。」

二人の手を握るとうららはゆっくりと上昇する。

「と、飛んでるの、でもうららさん、自分しか飛べないって」

「今までわね、今の私ならこれくらいなんともないわ。少し怖いかもしれないけど我慢して、下は出来るだけ見ないで、前か私の事見てなさい。」

「、、、、」

「兄ちゃん?」

「、、、、、、、、あ、ごめんちょっと中々経験できない事だから、ちょっと感動して、」

「、、、私もだよ。少し怖いけど、綺麗、、、、うららさんはいつもこんな景色を見てるんだ。」

「、、、それじゃ、ゆっくり飛ぶわね。」

人生初めての空と旅中々経験できることのない低空低速での飛行。

「なに?銀君?」

「いえ、どうでもいいことなんですけど、その羽羽ばたかないのかなって、」

「これはイメージです。私がイメージした空飛ぶイメージ可愛いでしょ」

笑顔で同意を求められ、銀は黙り込んでしまう。代わりに春が同意する。

うららに捕まっての空の旅、非常に心地よいが月明りにて去られる地面を見て銀が疑問を口にする。

「あのうららさん今思ったんですけど、これ影で来てますけど、これって下の人から見えてるんですか?」

「私の姿は普通の人には見えないでしょうけど、そういわれてみれば二人は見えてるわね。」

「ちょっと、それまずいんじゃないですか」

「そうね、、、それじゃ、しっかり掴まってて」

そういうとうららは急速に上昇する。

「きゃっ」

あまりの事にうららは目を瞑りよりしっかりうららにしがみつく。

「春、もういいわよ、目を開けてみて。」

そういって春が目を開くとそこら辺の山より遥かに高い位置に3人はいる。

流石にきれいというより、怖いと感じる高さだ。

「もっと高くてもいいんだけどね、これ以上はこの時間は流石に寒いからね。これなら見つからないでしょ。」

銀の方を見ると、銀も怖がっている

「何、銀君も怖いの?可愛いところあるじゃない。」

銀はうららの笑顔に思わず、可愛いと思ってしまう。

「あ、兄ちゃん今うららさんの事好きになりそうになったでしょ。」

「ば、馬鹿言えそんなことあるか、お、俺が誰かをす、好きになるなんて」

「やっぱり兄ちゃんは甘いね、私は最初からうららさんの事大好きだよ。」

「人を好きになるっていうのはいい事よ。銀君にもいつかそういう人が出来るといいわね。」

この笑顔は正直つらい。完全に上からお姉さん目線だ。

「さ、それじゃ、そろそろ戻りましょうか。」

「あ、あのうららさん急降下だけは勘弁してください。」

「さぁ、それはどうでしょう。」

うららは怖がる二人を前に悪い笑顔を振りまく、次の瞬間うららは翼を消して、手を離し、3人は落下を始める

春は遥か地上まで届く程の悲鳴を上げ、うららの名前を呼び続ける。

銀は冷静を装っているが、心の中では何度もうららが助けてくれると他人頼みの希望を自分に言きかせる。だが、気になるのはなぜか自分だけ流されているような、そして自分だけ落下が速いような気がしてならない。落下速度に重さは関係ないはずだが、それでも自分の上に二人がいるのは間違いない、その理由を必死に考え、落下速度を合わせる方法を必死に考えている。

そんな事とは関係なくうららはあわてる春を見て笑っている。

「うららさんのばかー!!!!!!!!!!!!!!!」

もう駄目だ!そう思った春が涙ながらにそう叫ぶ。

するとうららは翼を出し、高速で春の元とへ移動する。

「ごめんごめん、でもまだ十分距離はあるわよ。私が本当に落とすと思った?」

「でも、でも、、、あの、兄ちゃんは」

「あ!」

「あ、ってなんですか、あって」

遥か下を見下ろすと銀が落ちている。

「春ごめん、もう一回怖い思いさせるね。」

そう言ってうららは春をもう一度中に放り、銀の所まで加速する。

「うららさん、これ大丈夫ですか!!!これやばいんじゃないんですか!!!!」

うららの全力の加速、何とか銀を掴み、間一髪、2階建ての部屋の窓が真横に見え、部屋の中の小学生と目が合ってしまう。

「ごめん、あとガンバ」

うららは一安心する銀を離し、再び春を助けに行く

「え、うそ、マジで!!」

銀は何とか足から着地する事に成功し、勢いそのまま何度も回転しながら、勢いを殺し道路に寝そべった。

「お母さん、空から人が落ちてきた!!」

さっきの小学生の声が聞こえる。体が痛むが銀はとりあえずその場を離れ、家へと向かう。

一方、春の方は比較的余裕で助けることに成功するが、春は涙目でうららに訴える

「もう一回同じ事した私、本気で怒りますからね。」

「何?おしっこもらしちゃうほど怖かった。」

春は急に黙り込む

「、、、冗談のつもりだったんだけど、、、あの、なんかごめんね。」

「あ、いた。」

ゆっくりと降りてくる、二人を見つけ銀が近づいてくる。

黙り込んで気まずそうな二人に疑問を持つが、それよりも、今は

「さ、帰ろう、ビンちゃん待ってる」

一緒に家に帰ろう

「さ、ついたな。」

入り口のドアを開けようとした瞬間ドアが開き銀の顔面にぶち当たる

「は、春~~~」

視界に春が入ると思いっきりビンが飛びついてくる。だが、ビンは家の敷地どころか家から出ることが出来ない、つま先が家から出そうになった所で引き留められ、地面に顔面をぶつけてしまう。

「ビン兄ちゃん、大丈夫?」

「二人ひとまとめにするな。」

家に入ってもビンは春から離れようとしない。

階段を上り、居間で一息ついた後、春がご飯の準備をするときになって、やっとビン離れ自分の居場所に座る。

「心配してた割には私がいた時より、なんか散らかってるんですけど、、、」

ビンがうららを睨みつける。

「どうも、、、」

笑顔ではないが、今までよりかはビンに対して敵にいの緩い表情をする

「、、、、ふん、おぬしもまぁ無事で何よりじゃな。」

そのおかげかビンもうららに対して少しばかりは気を使った。

「ん、何じゃその姿、銀!お主こやつに力を返したのか!」

「あ、そうだった。」

「、、、、、何ですか、心配しなくてもちゃんと銀君に預けておきますよ。」

うららは自らの姿をいつもの姿に戻しペンダントを銀に渡す。

「あの、何かコレ、少し感覚が違う気がするんですが、、」

「よく分かるわね。鍵がかかってないの。必要に応じて銀君でも中のものを取り出せるようにしてるわ、とはいっても、中に入っているものを把握してないと取り出せないけどね。」

「え、でも」

「まだ全部終わったわけじゃないでしょ。ジン先輩はあなたが閻魔帳を持っていると知っているし、銀君の事を探している。だったらもしもの時はそれを渡しなさい。それであなたの身は守れるはずよ。

あと、くれぐれも死神の鎌は使おうなんて思わないように、

あれは魂に直接攻撃する事は出来るけど、使用者の魂に直接影響するわ。

くれぐれも使わない事、いいわね。」

「それはフリですか?」

「、、、、まぁ、そうねそれもいいかもね。それで死んでも悪いようにはしないわ。その時はたっぷり可愛がってあげるわよ。」

うららは人差し指を銀の口から心臓の位置まで、這わせるように落とし心臓をとんとつく。

なんだろう、怖いと思う反面、、何だろう、少しそれもいいかなって思っている

ふと視線をずらすと春とビンが同じ顔をして自分を見ている。

「な、なんだよ、その顔は」

「別に、、、」

「いや、今までさんざん、私と春のガールズトークを聞いても欠片も反応しなかったから興味がないと思ったのじゃが、本や話じゃのうて実物の色仕掛けなら聞くのじゃなと思って、、、、、お主も人並みに男じゃなと思って、、、、」

妹と幼女の話に興奮できるほどイカれてないぞと銀は思うがそれを口にしても墓穴だ。

「い、いや、俺はそんなじゃなくてただ、、」

「口元緩んでたよ。なんか言い訳にならない言い訳しようとあたりとか、、兄ちゃんぽいね」

「大丈夫、私が手取り足取り教えて、あ、げ、る」

うららは顔を近づけ、息のかかる距離でささやく

髪のいい匂いがする距離、銀は目をそらすが、それほど嫌がっているようには見えない。

というか口元のゆるみが治せない・

「なんかその感じだよね。もうね、最初の興味がなかった頃の冷酷な感じとかね、全然ないの」

「春よ、悲しいがこれが男だ。あんなこれ見よがしの、馬鹿にしたような色香にも惑わされ、あっさりと手のひらを返す。」

「ち、ちがう。何を言っている!!」

「たぶんあれじゃろ、銀の好み的に、あの牛乳とひらひらドレスみたいな恰好とか、そこらへんがツボなんだろ」

何だろう、今まで日常的に、自分は同世代が持つべき異性への興味がないと散々駄目出しを受けていたのに、ちょっとした経験がない故、免疫がないだけなのに、それだけでこのいわれ様、銀は納得がいかない。

「あ、うん、なんかぽいよね。紅葉ちゃんも胸大きいもんね」

必死に言い訳をする銀だが、何を言っても無駄であることは分かっているそれでも必死に抵抗せずにはいられない。

うららは完全に銀をおもちゃ代わりにすることを覚えた。

銀は自分に好意を抱く人間、自分にやさしい人間には免疫が驚くほどない。

彼は嫌われて当たり前、、苦労は自分が引き受けるのが当然。

自分とかかわらない方が幸せと思い込んでいる人間だ。

だから、冗談でも、何の嫌悪もなく接してくれること自体が、経験が少ないのだ。

その為、内心、銀はこのうららの冗談がうれしい。


今日は色々あって疲れた上に、帰ってきてもこの悪ふざけ、4人は一緒にご飯を食べると今日は勉強の時間もなく、お風呂に入り早々に眠る事にした。

銀は春がお風呂に入っている間に2キロ離れたバスの営業所にある公衆電話から春の学校に私用で早退したことの連絡と銀のバイト先に迷惑をかけた事の謝罪の電話をかける。

どうやら春の学校は、先生の口調から察するに、サボりとして処理されてしまったようだが、事実を話すわけにもいかず、銀は謝罪の言葉を最後に電話切る。

それにしても今日は本当に疲れた。

銀は朝の新聞配達もある。風呂を上がると、居間にはうららしかいない。

銀はそっと春の部屋を開けると、春が珍しくビンと一緒に寝ている。

ビンに抱き着いているためか、怖い目にあったのに寝顔は穏やかだ。春の過剰な抱き着きに助けを求めるビンを無視してそっと扉を閉める。

泡風呂でなければ嫌だといううららの我儘の為、最後にうららがお風呂に向かう。

この居間には自分だけだ。銀は普段は座る事のないソファーに座り、電源を入れTVの音を小

一息つく。

現在時刻は11時半、普通であれば明日の事もあるため、すぐにでも就寝したいところだが、明日は新聞配達の後はお弁当屋のバイトは休みで酒屋のバイトのみ、このまま起きておく事にした。

ただ、見慣れぬ夜の番組、お笑いが苦手な銀は、特に見たくもない芸能人の海外旅行のドキュメンタリーにチャンネルを合わせていたため、小さな音がちょうどいい子守唄。いつのまにか意識を失っていた。

銀が眠りについて約30分、疲れからか普段であれば眠りが浅い上に、物音ひとつで目を覚ます銀が、思いっきり鉄の階段を飛び跳ねながら上がってくる音にも、ドアを壁にぶつける音にも気づかなかった

「あれれ、珍しい、銀君がここで寝てる。」

お風呂に入りリフレッシュしたうららがいつものようなハイテンションで入ってくる。

うららは冷蔵を開け、春がいない事を確認し、腰に手を当て牛乳をパックから直接口飲みする。別に牛乳が飲みたいわけではない。むしろ冷たい牛乳はお腹が強くないうららにとっては大敵だ。ただこれがやりたいだけだ。

牛乳を飲むと口直しにテーブルの上に出しっぱなしにし、1時間ほど前に文句を言いながら春が冷蔵庫にしまったリンゴジュースを出し自分のコップに次いで飲むと、それもそのままにし、自分の居場所のソファに座る。

横に銀がいる事も違和感があるが、それ以上に無警戒に眉間にしわも寄せずに眠っている銀に凄まじい違和感がある。

TVを見ようとして、くつろごうとしてそこに座ったが、やはり無視しようとしてもうららの興味対象はこの横の銀だ。

うららは銀が寝たふり、もしくは無視しているのではないかと思い、何度か呼びかけるが反応がない。

うららは恐る恐る銀のほっぺたを突っつく、銀は一瞬声にもならぬ声を上げたたため、うららはすぐに手をひっこめ、知らぬふりをして息を殺して、横目で様子を伺うが、、それ以上の反応がない。

本当に寝ているとわかったうららは、もう一回、もう一回とつつくが反応がない。

「、、、な、何よ。、、、、、って本当に寝ちゃってるの、、、それじゃあ、何をしてもいい訳だ、、、、、、」

悪戯をしようと考えたが、銀の寝顔を見ているとそんな気もなくなり、銀の肩を引き寄せ、自分の膝に乗せる。

一瞬銀が起きるかとも思ったが、そちらの方が寝やすかったのか、姿勢を変えられたことにも反応せず、うららの膝の上で無意識に顔の向きを調節するだけだ。

「可愛い寝顔ね。こういう寝顔見ると銀君もまだまだ子どもね。」

うららは銀の頭を撫でる。銀は少しも嫌がることなくなされるまま、うららはあの銀が、初見で自分を拘束し、真面目で、普段から眉間にしわ寄せよ常に、何かを警戒し、真面目で、無愛想で、真面目で、シスコンで、少し怖くて、怒ると本気で怖くて、真面目で、真面目な銀がこうも無警戒に、油断し、安心して、自分の膝の上でいいようにされていると何とも言えない、母性とも支配欲ともいえるような感覚がうららの中に目覚めてくる。

真面目で、誰の言う事も聞かないような銀を自分の言う事だけ聞くようにして、悪い事を教えたいという天使あるまじき、ペット感覚の発想が頭をよぎる。

そんな時だ、どんな夢を見ているのだろう、銀が寝返りを打ち、顔を正面に向け、うららの名前を寝ボケて口にした。

「、、、、あら、あら、夢の中でも私の事を見るくらい私に夢中なわけ、、、今日は頑張ってくれてありがとう。これは私からのお礼よ。」

うららは自分の髪を抑え、銀にかからないようにし顔を近づける。

「人の物に手を出すなよ、このエロ女。それも一応私のだ」

閉まっているはずの春のドアの隙間から声が聞こえてくる。

「な、あなた、起きて。」

隙間からビンの顔がのぞく、うららは驚き、膝の上の銀の頭を反射的にどかし、背筋を伸ばし、ビンの方を向く。

「当たり前じゃ、私は眠らん、」

偉そうにカッコつけているが、下半身は布団から逃れることできずに、ものすごい力で春に拘束されている。そしてまた、すぐに寝ぼけた春に再び布団の中に引きづり込まれる。

「こら待て、春、離せ、いま大事な話をじゃな、おい!」

思わず、うららは笑いが出てくる。

「私、なんかここでうまくやっていけそうな気がするわ。銀君、お礼はまた今度ね」

うららはどかした銀の頭の下に二つに折った座布団を滑り込ませ、銀の部屋からタオルケットを持ってくると銀にかけ、TVの電源を消し、銀の両親に買ってもらった腕時計の目覚まし時計をONにすると、静かに部屋を出て行った。

そう、彼女にはまだするべきことがある、それはジン、道を誤ったジンがまだこの街のどこかにいる。


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