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2章 それでも『貧』しい日々は続く、そして『うらら』かな日常は終わる

2章 それでも『貧』しい日々は続く、そして『うらら』かな日常は終わる


閻魔大王との交渉を終えて4日か経過した。

初日こそ、やれあれがないこれがないと衣食住環境に対しての不満、細かい事で注意される。と文句を言っていたうららだったが、今はここでの生活に慣れてきたようだ。

銀は彼女のやる気のなさと、楽天的な考え方があまり好きではないが、一緒に暮らし、悪い人ではないと分かり、こういう性格の人なんだと理解する事で、次第に慣れてきていた。

面倒見の良い銀からすると、だらしないうららのどうしようもなく手間がかかるのが心地よくてしょうがない(ビンもだらしなく手間がかかるが、家に帰るのは春の方が早く、春が面倒を見る為、むしろ春から銀が炊事選択家事を世話される方だ。それが手間のかかるのが増えたおかげで、銀にもその役割が回ってきたのだ)

文句を言いつつも、人の世話をするのが好きな銀は、何でもかんでも世話を焼く。

そして何より、だらしない年上のうららかが醸し出すなんとも言えないエロい色気と、フレンドリーな物言いに態度には出さないが、情けない話、少しやられている。

銀は文句を言いつつも彼女の面倒を積極的に見ている節がある。

春の方も、ビンの時と同様、すぐにうららとは仲良くなり、

暇さえあれば、他愛の話から、うららのなり大人の社会の大変さ、天界のおすすめスポット、名スイーツなど色々な話をしている。

とはいっても一方的にうららの話を聞くばかりだが、それでも普段そういう普通の話をする機会のないうららにとっては、対等な家族ではない、本音を話せる友達のようなうららの存在はいい気分転換になっている。

うららには、一時的だという事で、プライバシーを考慮し、ヨウヘイの部屋を貸している。

あれ以降、通信がつながる事はなく、うららは二人がいない時は何もせずにただこの家でずっと寝ているかTVを見ているかだ。

銀と春はそんなうららを容認したが、ここにどうしても納得できないものが一人、、そしてそのストレスが限界を迎えようとしていた

「ここにきて四日間、毎日毎日、何もせずTVを見て冷蔵庫をあさり、ゴロゴロゴロゴロ、春が帰って来てからは、私を無視しピーチクパーチク、貴様何様のつもりだ!」

しびれを切らしたビンがお菓子を食べながら天井からテーブルの上に落ちてくる。

そしてうららが何かあった時の為にと、銀から預かったお金で買ってきたリンゴジュースのペットボトルをラッパ飲みする。

「、、、、邪魔ですテレビが見えません。それにそれ私のです。」

うららはビンの事が嫌いだ。

そしてビンはうららの事が

「貴様、何様のつもりだ!この家にある物はすべからくワシのものだ!いいか、貴様、いい機会だ。はっきりさせておく、春と銀に迷惑をかけていいの話は私だけだ!」

大っ嫌いだ。

「出ていけこの疫病神が!」

「、、、、とりあえずテーブルから降りてください。それになんですかその靴下。兎の絵柄入り、それにその恰好、、、あぁ、銀君私の誘惑には少しも乗らないし、、あなたに触られるのは良くても、私が触ろうとすると避けるのは、そういう趣味の人なんだ。ふーんなるほど、、だったら納得ね、私には無理だもの」

そう言ってうららは寝間着代わりに使っているサイズの大きいヨウヘイのトレーナーを着て大胆に開いた胸元を、これ見よがしに身を乗り出して強調する

「、、、、この乳牛が!!そんな脂肪の塊がなんじゃ!貴様!そんなものがこの私がうらやましいとでもいうのか、そんなところに栄養が言っているから頭が悪いのじゃ!」

予想以上に効果的だ、お互い敵対心しかない。殴らないだけましだ。

「頭が悪いのはどっちでしょうね、さっきから言葉が通じないようで、テーブルから降りてください。頭だけじゃなくて、マナーも悪いお嬢ちゃん。」

うららは、ビンを無視して、ビンがテーブルの上に載った勢いで、こぼれたジュースが付いたトレーナーを脱ぎ床に落とすと、いつもの格好に着替える。

「死神が偉そうに、私に命令するつもりか」

「貧乏神如きに、私のような天界の神族を侮辱されるいわれはありません。後、私死神じゃないですから。生まれは天界の屈指の名門、果ては天界の中枢を担う事を期待されて、今の本職は魂安定所の花形、相談役です。」

「ふん、ただの使えぬボンボンのお嬢様の趣味にあてがわれた受付係がなんだというのだ」

「な、」

うららが天界での陰口を思い出す。

「だってそうじゃろ、貴様はとてもじゃないが、人の相談に乗れるタイプではない。それに私と言い合いになるたびに、何かにつけては生まれの家を盾にして、それが理由になると思っていつもそれを強調する。もうそれが癖になっているのだろう。

お前は能力でその職に就いたのではない、今みたいに家の名で手に入れた立場なのだろう」

「そ、そんなことないわよ!なんであなたにそんな事分かるの!」

ムカつく、その知ったような言い方ムカつく

「図星じゃな。今までもずっとそうしてきたのか?だったら幻滅、、、いや予想通りか」

「あなたになんでそんな事言われないといけないわけ、貴方に、私の何が分かるのよ?」

何を言っても聞きはしない、いつだってそうだ、最初から聞く気なんてない。

「逆に聞こう、お前には何が分かる。」

「は?」

「どうせお前は、金持ちの苦労は金持ちにしかわからない的なこと言うのじゃろう。

じゃが、自分の事を分かってもらえぬからと言って、他人の気持ちも分かろうとせず、

都合のいい時は、その名を利用し、都合の悪い時はその名から逃げる。お前は何じゃ、家の飾りか、家がなければ何もできない、何も言えないただのお飾りか?」

うららはビンの挑発に頭にきて、コップについだリンゴュースをビンの顔に思いっきりかける。

本来であればビンの顔にはかからず通過するが、ビンはあえて実体化し、それを受けた。

「な、なんで」

「よけたら部屋が汚れるじゃろうが、部屋を汚していいのもわしの特権じゃ。」

そう言ってビンは顔にかかったジュースを舌でなめる。

「何よそれ、馬鹿じゃないですか。もういいです。」

うららはビンの入ってこないヨウヘイの部屋に戻ろうとする

「またもういい、逃げるのか」

「逃げるわけじゃないですよ。あなたみたいな貧乏神如き、神の眷属である私が相手にしてやる必要なんてなってわかったんですよ。時間の無駄だって。所詮あなたは人に取り付き生きる寄生虫。私が相手にする必要はありませんから」

「、、、、、」

「あの兄妹はそんなに居心地がいいですか?それはそうですよね、貴方みたいな存在を受け入れてくれる人間なんて、あのおかしな子供たちくらいしかいませんもんね。

でも、あの子たちもいつか気づくはずですよ。あなたを受け入れた事が間違いだったって、」

「、、、、、」

「あ、そうだ、貴方といて不幸になるより、私に魂を狩られた方がマシですよ。

貴方はあの子たちに寄生し、不幸にすることしかできない、でも私はあの子たちの魂を導いて、幸せにしてあげられる。」

不幸にすることしかできない、その言葉は表情こそ変えないが、ビンの心に突き刺さる。

「貴方と一緒にいれば、やがて貧しさで心が荒んで、魂の価値が下がっちゃいますよ。

そうだそうしてあげよう。

あの子に力を奪われていると言っても、今なら私にも慣れているから、あなたの居ないところで奪い返すこともできるわ」

うららはビンに詰め寄り笑う。

「別にそれくらい私はできるのよ。貴方は私に何もできないけど、私はあなたのいつだって本来あるべき貧乏神に戻せるのよ。さぁ、そうされたくなかったら謝りなさい。さぁ、」

「お前の親はお前の育て方を誤ったな、私が何もできないだと。私を舐めるな、小娘が、富を退ける、我が力甘くみるでない。」

目を赤くしビンが、うららの髪の毛に触れる。

「富とはなにも、形ある財のみに非ず、才も、若さも、寿命も、可能性もそれら全てが富と知れ。そしてそれは神とて例外ではない」

うららの頭から白髪を抜き取る。当然うららに白髪など生えてはいない。ビンが若さを奪ったのだ。

「我にも奪えぬ心の富を持つならまだしもお前の様に形ある物、己が刹那の欲に忠実な、貧すれば鈍する俗物如き、今この場で、地に伏せることなど容易よ。貴様がもし、あやつらに手を出すなら、無間地獄とて生ぬるい、容赦はせぬぞ」

うららはその怒った閻魔大王にも似た威圧感に、思わず、その場に座り込んでしまう。

「我を招き入れた時点で、あやつらとてわしの影響を受けぬわけではない。

偶然の幸運はなく、奇跡もない。あるのは不運のみじゃ。

されど、あやつらにはそれを克服するだけの強い心がある。それに何より、あやつらはお前の持たぬ真の富を持っておる。

命の賛歌を、感謝の念を、心のゆとり、つまりは優しさを持っておる。

見返りなき他者を思う敬意と、ある物すべてへの感謝の心。俗世を避け、欲を目の外に追いやった坊主が、必死になって手に入れるものを、あやつらは俗世で生きながら持っておる

あの若さで、俗世にあり、貧して暮らせど、心揺るがず、気遣い忘れず。

ワシの数千年の枯れた心を満たしてくれたものぞ。小娘がかわいいのう、これくらいで気圧されるとは、」

ビンは力を抑え、いつものビンに戻る。

「小娘も少しはあやつらを見習え、お主に足らぬのは、自我を抑え、相手を思いやる心じゃ。それがなければ、お主はいつまでたっても、何処に行っても、変わらんぞ」

「あなたなんかに何が分かるっていうんですが。私がどれだけ苦労して、今に至ったかも知らないで。」

「ほうどんな苦労じゃ、言うてみい。せっかくじゃ聞いてやるわ」

「、、、色々あるんです。あなたなんかに」

思いはあるものの、突然具体例を問われ、言葉に詰まる

「わしが理解できぬと決めつけるのは、それはおぬしの言葉が足らぬからか?それとも何も語るようなものがないからか、

知っておるか人間の世界では色々あるとは何もない事じゃ、忙しいといつも言っておる者は仕事が出来ぬか、沸点が低いかじゃ。

自分を悲劇のヒロインに仕立てあげる暇があるなら、口の一つでも閉じて頭の一つ、手の一つでも動かし、行動する事じゃ文句を言うのはそれからじゃ。

あやつらはいつだって前を向いておるぞ、失敗も、不幸な偶然もすべて受け入れ克服し、前に進んでおる。だからじゃ、わしはあやつらが好きなのじゃ。」

「なんなのよもう!なんで何もしていないあんたにそこまでわれないといけないわけ!

私だって好きでここにいるわけじゃないんだから!

もういい加減にして、分かった!出ていくわよ!

何よ!私を馬鹿にして、貴方に分かるわけじゃないじゃない。」

うららの中でたまっていたものが溢れ出す。

「私は自分が出来ない子だってこと事くらいわかっている。

努力しても、私だけが落ちこぼれ、私だけがいつも足りない。

兄さんたちにははるかに及ばない。家族の中では私以外は当たり前に出来る事を私はできない。

努力?馬鹿馬鹿しい、努力しても、結局、意味なんてない。

達成感なんてない、努力してもしなくてもその違いにさえ誰も気づいてくれない。

前を向いて進む?私の前はどっちよ、私はどこを目指せばいいの!

私には目指す場所もなければ、帰る場所もない。

必死に追いかけても追いつくことさえできない。

ここにきてわかったわ。ここは私の居るべき世界じゃないけど、別に天界に帰った所で私に居場所なんてない。どこでも私は嫌われ者、何処でも私は仲間外れ、一生懸命やっているわよ!なのに誰も私の話なんて聞いてくれない。誰も私の努力を評価してくれない。名門の出なのにと言われ見下され、名門だからと当たり前だと軽んじられる。

もう嫌、もういい、こんな事なら一人でいた方がマシよ!」

うららは窓を開け、外に出ていこうとする。

「待て!」

「なんですか」

「出ていくのはいい心がけだが、片づけを手伝って行け、こんなに散らかしたままだと、春に怒られる。」

机の上にはお菓子が散らばり、布団を持ってきてそれをひざ掛け代わりにしていたためそこにも食べかすがくっつき、それにリモコンにはお菓子の油、そして脱いだ服物そのまま、そして何より春のぬいぐるみにも押しつぶされグダってしまっている。

ただ、そのほとんどはビンの仕業だ。

「知らないわよ、馬鹿!」

人が真剣に話したのに、ビンは少しも彼女には同情していない。

「待て、貴様!またぬか!」

ビンの呼びかけを無視し、彼女は羽を広げて飛んでいく。

「あー、何じゃ、白い羽、あやつほんとに天使じゃったのか、、、、、」

ビンは散らかった部屋を見て絶望に打ちひしがれる

「どうしよう、、、、春に殺される、、、、」


一方、家を飛び出したうららは行くあてもなく、今夜の寝床を探そうとしていた、

「あれ?」

「おーい、うららさん!」

空を飛ぶうららに、高校の敷地の木の下から春が大声で話しかける

「ん、あれは春、」

「あのー、そんな恰好で飛んでると、下着見えちゃいますよ~、、、、、、あれこっちに来た。」

「そういう事は大声で言わないでください!」

「ご、ごめんなさい。つい、、、でもいいですね、空が飛べるって、私夢なんですよそういうの。それにうららさん、本当に天使だったんですね!」

尊敬のまなざしを以て春は楽しそうにうららに話しかける。

その笑顔と純粋な自分に対する憧れにイライラが少し和らぐ

「あなた、こんなところで何してるの?今は授業中でしょサボり?」

「あぁ、今はお昼休みです。あ、何でしたら一緒に食べますか?」

春は小さなお弁当を開いてうららに見せる。

「いいわよ、しかし見事なまでにもやしやら、炒めた玉葱やら野菜ばかりね。それにそんな量で足りるの?」

「はい、私燃費いい方なんで、」

うららは、周りを見渡す。

「どうかしましたか?」

「あなた一人なの?こういうのはみんなで食べたりするんじゃないの?」

「あぁ、みなさん教室か食堂かですよ。わざわざこんなところまで来ませんよ。」

「いつも一人なの、」

「まぁ、基本は、、、」

「、、、、、、もしかして、貴方いじめられてたりとかするわけ?」

「いじめられてはいませんが、、、その、、嫌われてはいますね。」

春はひきつった顔で無理をして笑う。流石のうららもこれは笑えない。

「あぁ、でも気にしないでくださいね。何かされたりとかないですし、仲間外れにされているわけでもないんです。ただ、こうして一人で食べているのは、一人が好きなのもありますし、私がいるとみんな空気悪くなっちゃいますから。」

「一人が好きって、、、貴方みたいな当たり前に他人のパーソナルゾーンに入ったり、すぐに人に触って話す癖がある人が、一人が好きなわけないでしょ。」

「よく見てますね、」

「分かるわよ、それくらい。でも分からないのがなんであなたが人に嫌われているかよ。あなたは私と違って、人に嫌われるような性格してないでしょ。」

「それは、まぁ、色々と、、」

「ごめんなさい。落ち込ませる気はなかったの。」

笑顔が消えトーンの下がる春に思わずうららはあわてだす。

「いえ、大丈夫です。でも私、きっとうららさんが思うようないい子じゃないですよ。」

「あなたの魂でいい子じゃなかったなら、この街の人間のほとんどが極悪人よ、、、」

春は学校での評判は先生も男子からも女子からも良くない。

その理由は、今の両親を亡くし、身元不明の男に引き取られ、兄弟二人で生活している生活状況や、遊びに誘っても行くことはなく、文化祭や体育祭であっても、定刻に上がる人付き合いの悪さもあるが、主な理由は嫉妬や誤解だ。

金もないのに無理して高校に来るんじゃないよ。

塾にも行かず、努力もせずに成績がいいのがムカつく。

女子からは見かけがよく、愛想もいいため媚を売っているように見える

男子からはどんなに優しくしても、迷惑そうにするレベルが釣り合わないと思われている。

先生からは、周りに合わせる協調性がない、冗談が通じない。些細な間違いも指摘し、教師の面目をつぶす。

などなど、

後は、兄である銀の評判がすこぶる悪い事が影響している。

銀は彼女の学校では高校を中退し、喧嘩に明け暮れる問題児という認識だ。

銀は確かに喧嘩をする。理由は商店街でたばこを吸っている高校生や、配達先に行った居酒屋で飲んでいる未成年を見つけて指摘したり、場合によっては喧嘩になったり、でも喧嘩になるたびに必ず勝ち、些細な事でも相手に絡むため

そこから派生し、銀は裏では悪い事をしており、春も、私生活では悪い人間たちとの付き合いのある、遊んでいる女という空想が、事実として広がっている。

銀に近しいものほどそういう誤解はなく、好意を持っているのは事実だ。

だが、それは銀を知る者の話、そうではない者は、銀は危険な人間であり、その妹もまた危険な人間なのだ。

当然、春はそんな自分の学校での評判を銀に伝えることなどしておらず、誤解を解くこともしない。誤解を解こうとすることでまたいざこざが生まれる。銀が春の通う学校での評判を耳にすることなどない。だから春は何も言わない


「なるほど、それでビンちゃんと喧嘩をごめんなさい。ビンちゃん私たち以外にはなついたことないし、たぶん、自分の居場所が取られそうで気が立ってるんだと思います。」

お弁当を食べながら春はうららの愚痴を聞いていた。

「居場所が取られる?」

「うーん、なんていうかな、今まで一人っ子で育ってきた子が急に妹が出来てお父さんとお母さんが妹に、かかりっきりで自分に構ってくれない。

そういう子は何とかして自分への気を引こうと悪戯したり、怒ったりするでしょ。

たぶんそういう感じに似てると思います。ビンちゃん、大人ぶって見せてますけど、寂しがり屋で嫉妬深いですから。」

「私は妹?あなたお母さんみたいなこと言うのね。」

「ビンちゃんには言わないでくださいよ。ビンちゃん怒っちゃうから。

でも、そうですね。ビンちゃんは仕方ないですけど、うららさんも一日中、家に引きこもってばっかりだとストレスたまっちゃいますよね。

どうです、夕方一緒に帰るまで、この近く見てきては?この近くは商業施設も多いですから多分いい気晴らしになりますよ。」

「私、帰らないから。」

うららは家に戻った時のビンの顔を想像し、ムカついてきた

「ダメですよ、一緒に帰りますよ。大丈夫、ビンちゃんには私から言って聞かせますから。」

「でも、嫌よ、あんな奴の居るところになんか私絶対戻らないから!」

「まぁ、まぁ、うららさんの方が年上なんですから、あ、でも実年齢はたぶんビンちゃんの方が上か、でもビンちゃん子供っぽいしな、、、、」

何とかうららを説得しようとする春、そんな時だった

「うらら!」

聞き馴染みのある声がうららに届く声の方向を見上げると、良く知った顔が、、

「ジン先輩なの?」

「あぁ、そうだ。うらら。」

「ジン先輩!どうしてここに?」

ジンとは先日殴られて以来だが、それでも元々フジミヤとは違いそれほど嫌いなわけじゃない。それに何より、この状況で同僚に会えたことが素直に嬉しかった

「お前を迎えにきた、探したぞ、どういう訳かお前を感じ取れずに、何日探したと思っている?」

「ずっと探していてくれたんですか?」

何日も?春は銀から最低でも一週間はかかると聞いていた。だからその言葉に違和感を覚える。

「当たり前だろ、どうした、泣いているのか」

「嬉しいです。先輩、迎えに来てくれた」

「悪かったな。一人にして、だが、もう大丈夫だ。」

「待って!うららさん」

ジンに駆け寄ろうとする、うららを春が大声で止め、駆け寄って手を引っ張る。

「ちょ、何、大声出して」

「あの人に、近付いちゃダメ、魂真っ黒だよ。それに怖い感じで揺らいでる、あれは良くない事を考えている人の魂の特徴、お願い信じて、あの人うららさんの事を心配なんかしてない」

「お前、魂が見えるのか?」

化けの皮が剥がれたのか禍々しい魂から発せされる狂気のような波動に春は気を失いそうになるが、それでも必死にうららの手をつかんで離さない。

「ダメ、だからね。うららさんは私が守るから、、、、」

「ちょ、春、春!」

「ジン先輩春が、春が、、」

「ここに放置するわけにもかない、とりあえず、こっちへ。」

ジンは春の体を抱え上げ、飛び立つ。


「、、、で、どうしてこうなるんですか!」

誰も訪れる事のない廃寺のお堂の中で、天界の術式で手足を拘束され自由を奪われた、うららが、大声で、すぐ近くにいるジンに向かって叫ぶ。

「喚くな、うるさい!それになんでお前、この程度も解けないんだ。これ結界術の基礎応用だぞ。」

「知らないですよ。だいたい私、力でかわいい女の子を拘束するような趣味ありませんので」

「なんで女限定なんだよ、つーかお前今自分の事可愛いって言ったな」

「事実を言ったまでです。」

「まったく、お前のそういうところが、大っ嫌いなんだよ。」

ジンはうららの顔を掴み口を塞ぐ

「ちょ、ちょっと何してるんですか!」

目を覚ました春が、その光景を見て、近寄ろうとするが、春もまた拘束されており、立ち上がる事も座る事も出来ない

「え、やだ、何これ、」

「ひゃ、ひゃるっ」

うららはジンの腕を噛みつき、手を離させると、体をくねらせ春に近寄り、手足が拘束された状態で足をうまく使い、春を座らせる

「大丈夫春、怪我はない。」

「はい、大丈夫です。それより何がどうなっているんですか、あの人やっぱり悪い人だったんですか」

「そうよ、女の敵よ」

「女の敵って、、、物には言い方があるだろうが。いい加減にしろよ」

「いい加減にするのはあなたの方です。こんな事をしていいと思っているんですか、こんなの犯罪ですよ。あ!」

急に春が大声を出す

「何どうしたの?どこか汚したの」

「おい漢字が違う、俺のクールなイメージを崩すんじゃねぇよ。」

「どこがクールですか暑苦しい、感情コントロールできない馬鹿は、ちょっとマジでそういうのいらないんで、あの、申し訳なんですけど、いま大事な話をしてるんで、黙っててもらえますか」

うららはごみを見るような目でジンを侮蔑すると。春の心配をする

「私、ここにさらわれて、気を失っているってことは、私午後の授業サボったってことにされてますよね。私戻ります。」

「帰すわけないだろ」

「馬鹿言わないでください!いいですか御用があるなら放課後お伺いします。とにかく戻らないと、私の印象も悪くなるし、何より授業受けられないじゃないですか!そんなの冗談じゃありません。いいですか、私の半日の授業を受けるためにいくらかかっていると思っているんですか!」

「しらねぇよ」

「まったく、いいですが、私の年の授業料と教科書代を割賦するだけではなく、その時間を働いた場合の経済効果を考えるとですね、、、」

今度は春の口を塞ぐ。

「そんなこと聞いてんじゃねぇよ。家事を経済行為に換算するとみたいなこと言ってんじゃねぇよ。」

「ちょっと春に乱暴な真似しないでください。本気で怒りますよ」

うららがジンを殺意を込めて睨みつける。

「おーこわい、でも、拘束も解けない、この状況で何が出来っ!!!!!!!!!」

うららは容赦なく、拘束された両足でジンの股間を蹴り飛ばす。

「なめんじゃねぇよ。馬鹿男、力で縛り上げて勝った気でいんじゃねぇよ。私の春に手を出すんじゃねぇって言ってんだろうが」

うららの声の調子が変わる。完全に切れている

「うららさん!」

「春、怖かったね、大丈夫」

「うん、うららさん超かっこいいです。私惚れちゃいそうです。」

「て、てめぇ」

頭にきたジンはうららに暴力を振るおうと近寄る。

「ちょっとジン、何やってんですか!」

お堂の外から、騒ぎを聞きつけたもう一人が、入ってくる。

「ウリュウ邪魔すんな、こっちは立て込んでんだ」

「立て込んでるじゃないよ、女の子に暴力振るっちゃだめだよ」

「もういいから、ジンは少し外にいて頭でも冷やしてきて、」

ジンを追い出し、ウリュウは二人の手の拘束を解いて、ぬれたタオルを渡す。

「す、すみません、ここ汚くて埃で汚れたと思うんで、あのこれ」

「ありがとうございます。」

春はジンとは違い友好的な彼の好意に素直に感謝し、タオルを受け取る。

「そ、そんな、べ、別に、、あのうららさんも、、これ」

「ふん、、。」

うららは彼からタオルを受け取る

「あの、ウリュウさんもうららさんの知り合いなんですか」

「えぇ、実は、、」

「知らないわよ、こんな人」

その言葉にウリュウは言葉を止め、落ち込む

「あ、あの、、、」

「い、いえいいんです。そうですよね。僕なんて覚えていなくて当然ですよね。」

「え、なに、会ったことあるの」

「は、はい、あの飲み会の場で、、、」

じっとウリュウの顔を見つめ、記憶を探るがやはり思い出せない。

「うららさん、、、」

呆れながらもうららならば、と納得してしまう

「な、何よその顔、仕方ないでしょ。だってこの人見るからに影薄いじゃない。」

「ちょ、うららさんそういう事、本当の事でも本人の前で言っちゃだめですよ。それにこの人はジンさんとは違って、魂は濁っているけど、黒くはないです。ただ周りに流されているだけの意志が弱いだけの人です。」

「春、それ全然フォローになってないから、、」

うららが指差した先でウリュウの魂も空気も暗くなり、一人でぶつぶつ言っている。

「あの、、、大丈夫ですか」

「どうせ、ぼくなんて、廃れた結界研究しか脳がない根暗ですよ」

「結界?という事は、これはあなたが?」

「そうだ!俺が発案し、ウリュウが作った最高傑作の封印結界!」

「またうるさいのが、、」

「いいか俺たちの目的は、、」

仰々しくポーズを決めながらジンが再び近づいてくる。

「別にいいです、興味ないんで」

「あの、私も返してもらえればそれで、今ならまだ警察には言いませんので」

「だいたい興味のない男のする自慢話だとか、仕事の話とか最高につまんないから、

いい、仕事の話とかそういう事しかできない男なんて最低ですから、知らんですよ、そんな目的なんて、」

「ウリュウ、、おまえ、何ヘコんでんだ」

うららの言葉を受け、さらに暗くなるウリュウ

「いや、別に、研究の話をしてひかれた時なんて思い出してないから。」

「あの、その話聞いたら帰してくれますか?」

「ば、馬鹿いえ、それじゃまるで俺が話したいみたいじゃないか」

「話したいんでしょ。もういいですよ、聞いてあげますから、でもとりあえず、足の拘束も解いてもらえます?」

うららはジンに敬意のない敬語でお願いする

「あ、お前何勝手に、ウリュウお前か!」

「ご、ごめん、でも」

「ふん、まぁ、いい。だが、これ以上、拘束は解きはしないおとなしくしてるってんなら、今のままで許してやる。」

「おとなしくしてあげてるでしょ。だからさっさと拘束を解きなさい。」

「うるせぇな。」

「あ、あの、ジン。そんなに彼女たちの言葉が気になるんなら口を塞いじゃえばいいんじゃないかな」

何故そのことを思いつかなかった、ジンは気づいていたが、あえてそうはしていなかった体で、二人の口を塞ぐ。

「いいか、今からお前らに俺の目的を話してやる。」

『あの、うららさんこの人勝手にしゃべりだしましたよ。』

『どうしようもないわね、適当に流しておけばいいのよ。一人語りで自分に酔っている馬鹿を相手にする必要はないわ。こんなかわいい女の子二人を縛り上げてじゃないと、話を聞いてもらえないような小さい男よ。それより、何とか逃げる方法を考えましょう』

春は頷く、二人は声を発せられないが、言いたいことは目だけで十分伝わった。

「だが、その前に、うらら、お前が持っている閻魔帳を渡してもらおうか!」

「、、、、、、」

「あの、ジン、口塞いだからしゃべれないよ」

ジンは舌打ちをし、うららの口の拘束を解く。

「さあ出してもらおうか、ん、というかうららペンダントはどうした?」

「ないわよ、、」

「ない、何処に隠した。」

ジンはうららの体を触ろうとする。

「ちょ、やめてよ。触んないでよ!持ってないって言ってんでしょ!」

「持ってないわけないだろ!いいか、俺は本気だ。お前をひん剥いてもいいんだぞ」

「だ、か、ら、もってないっつてんでしょうが」

うららはおでこで思いっきりジンの鼻に頭突きをかます。

「あー、もういや、もう最低、やっぱり私貴方の事大っ嫌いです!今まで先輩だと思って手加減したけどもう我慢できない!」

「うらら、貴様!!!!!!」

ジンが思いっきりうららの頬を叩く。ジンの力は強く、うららはそれだけで、吹き飛ばされるように倒れる。

「った、」

うららが痛みのあまり、声にもならない声を出す

「ジン!」

「黙ってろ、この馬鹿には言葉じゃわかんねぇじゃ叩いて躾けるしかねぇだろ、自分の置かれている状況、分からせてやらないとな。あ、なんだ?」

倒れたうららにはいより、春が庇いジンを睨みつける。

ジンの魂は真っ黒な威圧を発し、春にはつらい状況だが、それでも春はうららを守るために引かない

「人間が、邪魔すんなよ。そうだ。」

今度は春の髪を掴み持ち上げる

「おい、こっちを見ろ。」

「!!何してんのよ!」

「この女の顔に一生消えない傷をつけてやってもいいんだぜ!」

「今すぐ春を離しなさい!殺すわよ!!」

「なんだそういう真剣な顔もできるんじゃねぇか。」

「離せって言っているでしょうが!!!!!!!!!!!」

うららは力任せに拘束を解き、ジンに向かう、一瞬驚いたがジンは春から手を放し、うららを物理的に拘束する。

「驚いたな、力づくで、、流石は名門の血筋と言った所か。まったく忌々しい、、、才能だけで生きてるやつは、」

ジンは心の中の闇を深くし、うららに対して痛めつけたいという欲求が出てくる。

才能だけで、生まれだけで、ただそれだけで、自分よりも、、、理由はそれだけだ。

「ジン、ストップ。こんなの僕は聞いていないよ、僕は君に協力するために天界も裏切ったそれはいい。僕はジャハンナムで、あっても、天界であっても、僕は研究さえできればいいから、でも、これ以上うららさんを傷つけるなら、僕は君には協力しない。今すぐに結界を解く。」

「お前にそんなことが出来るかよ。」

「で、できるさ、僕は本気だ」

「手が震えてんぞ、」

「そうだね、うっかり誤って解除してしまうかもしれない。」

「、、、、、いいだろう。今は許してやる。だが、代わりにお前が閻魔帳のありかを聞きだせ、本当にいま持っていないなら、どこかに隠しているはずだ。いいな、俺は今からジャハンナムの連絡役にあってくる。リミットは戻ってくるまでだ、いいな」

ジンがいなくなった後、ウリュウは二人の心配をする。

「、、、なんであんな奴に協力するの。」

うららは警戒しながら訪ねる

「ごめんなさい、本当はあんな奴じゃなかったはずなんだ。こっちに来てから気が立っているみたいで。」

「それにジャハンナムって、あなたたち分かっているの?それは天界そのものに背く事よ」

ジャハンナムとは天界と対峙するこの下界に拠点を置く組織だ。

その成り立ちは古いが、いまだにその目的は不明瞭でただ確かな事が今あるシステムを破壊し、混沌をもたらし、何かをしようとしている組織だ。

過去にも何度か事件を起こし、そのたびに天界によって処理されていた。

確かに恨みを持つ元天界の者が組織の中におり、天界の中にもそれに通じているものがいるとは言われていた。

「ジャハンナムからの知識の中には僕の知らない事や天界では決して知る事の出来ないことだってたくさんあった。それが欲しくて僕は好奇心から彼の誘いに乗った。僕は研究さえできればそれでいい。だから僕は、喜んでジンに協力した。」

「私の閻魔帳は、その手土産っていう訳?」

「詳しくは分からないけど、たぶんそうだと思うよ。だから閻魔帳を渡してもらえないかな」

「だから私は持ってないって言ってるでしょ。」

「そんなわけないよ。だってあれは天界の至宝手放すわけなんてない。」

「本当よ、この子の兄弟の銀君にとられてるのよ。」

「とられたって人間にかい?」

「そうよ、」

「本当に?」

「本当だって言ってるでしょ、それが欲しいなら銀君にでも貰いに行きなさい」

ウリュウが春を見ると春もうなずく

「そうか、分かった。ありがとう話してくれて。」

ウリュウは二人の拘束を解く

「どういう風の吹き回し?」

「もう、君たちが危険な目に合うのは見たくない、早く逃げるんだ。」

「だったら、ウリュウさんも一緒に」

「でも僕は」

「いいから、、本当はこういうことしたくないんでしょ?だったら一緒に逃げよう」

うららはウリュウの手を握り引っ張る。

「でも、ジンが、、」

躊躇うウリュウを、うららは力づくで引っ張って行く、ジンはずっと怒って命令してばかりで、うららは敵である僕の事も心配してくれている

ついさっき、感情のままにジンに逆らったことを後悔しそうになったが、うららが気にかけてくれる事でその行動が間違いではなかったと思える。自分の示した行動、ウリュウの中でうららに対する行為が報われたことで、言われるがまま、従うままだった自分自身の中に『勇気』が生まれてくる。

だから、ウリュウはジンを裏切ると決めた。

3人はお堂を出ると、境内を抜け、町中へと続く林道を通っていく。

林道は薄暗いが一本道でそれほど距離はない、迷う事もなく5分程度で町中に出られる。

でもだからこそ、逃げ道もなかった

「どこへ行くつもりだ?」

林道のちょうど中間あたりで怒りに満ちたジンが待ち構えている

「ほら、言ったとおり、彼は裏切るって言ったでしょ。所詮君とは違い彼はそういう俗物さ、理想なく、誇りなく。好きな女に少し優しくされただけで君たちの友情を無かった事にする。」

普通のカラスよりも2回りほど大きなカラスが喋っている

「なに、あれ、気持ち悪い。」

「だめです。あれは、、、、」

「春?」

「ものすごく気持ち悪い魂です。ジンさんの魂もさっきよりもずっと黒くて禍々しい。」

「君魂が見えるのかい?」

カラスがじっと春を見つめる。うららその気持ちの悪い視線におびえ目をそらす。

「ウリュウ、今ならまだ許してやるそいつらを拘束して、ここに連れてこい。それで殺すのだけは勘弁してやる」

「、、、嫌だ、僕はそんなことしたくない。」

「てめぇ、どういうつもりだ。」

「もう、こんな事をするのは嫌だっていったんだ。そこを通してくれ、二人の無事さえ、保証してくれれば結界もそのままにしておくし、君への協力も今まで通りする。だから、、」

「ダメだ、もう一度だけ言う、そいつらをここに連れてこい。」

「ウリュウさん」

「心配しないで、二人には手出しさせないから、」

「手出しさせないだ?なめんじゃねぇぞ、」

「ジンは霧のように消え、うららの背後に回り込む」

「うららさん!」

春がジンの魂に気付き一番早く反応する。だが、春にはジンを止めるすべはない。

ジンはうらら同様、天界から戦うために死神の力を持ち出している。

ジンはうららよりもはるかに大きく禍々しい死神に鎌を具現化しうららめがけて振り下ろす。

死ぬ、うららは反射的に目を閉じる、だが、次の瞬間うららが感じたのは痛みは痛みでも、突き飛ばされ、何かにぶつかる痛みだった。

「ウリュウさん!」

目を開けるよりも先に聞こえた春の叫び声、何が起こったのかは明白だった。

死神の鎌に貫かれたものに断末魔はない。ただそれ自体が死そのもの、

肉体を持たぬウリュウはすぐさま魂に姿を変える。

そしてあろうことか友であるその魂をジンは躊躇いなく口に入れる。

それでうららは理解した、彼の魂が黒い理由も、今ジンが何になっているのかも

「堕天したんですか?」

「そうだよ、それで俺は魂を開放されて初めて自由になった、すがすがしい気分だぜ、え!」

ジンは狂ったように高笑いをする

目の前で起きた事が理解できず怯える春、魂が魂に食われ、ジンの魂が大きくなり、まるで荒れ狂う化け物のように魂がうごめいている。

何が起きているか理解できずとも、春の感性はうららよりも誰よりも直感的に恐怖を感じていた。そんな春の様子を見てうららは春に抱き着き視界を覆う。

「大丈夫、大丈夫だから、、、ね、落ち着いて、」

このままでは春の心が壊れかねない、銀からの聞いている話では春は両親の死を目の当たりにし、死というものに異常なまでの恐怖感を持っている。だからどんな動物の死でも、彼女には重くのしかかる。

そんな春が目の前で人の形をしたものが殺され、それを喰らい、快楽として享受しているものがいるその光景を目の当たりにした春の心が時で済むわけがない。

「お願い、お願いだから落着いてね。」

「、、、!!っ!、、、」

春は声にもならない声を上げ恐怖に歪む表情で、うららに強い力で抱き着く。

「死にたくなければ、どうすればいいか分かるな。」

「分かった、分かったから、少し待って、逆らう気もない逃げる気もない。お願いだから少し待って、」

「だめだ、隙を見て逃げるつもりだな。」

「逃げるわけない!私の閻魔帳が欲しいなら、春の兄弟の銀が持っている!

必要なら取に行けばいいでしょ。魂は春と同じで、普通の人よりずっと澄んでいるからすぐに見つけられる。だからお願い。

今はこの子と二人っきりにして、貴方とあのカラス、今すぐ離れて!!このままじゃ、この子の心が壊れちゃう!」

「だめだ。だが、奇跡だな、お前が人の心配をするなんて」

「お願いします。なんでもするから、お願いだから離れてよ。」

泣きそうになって、春をぎゅっと抱きしめるうらら、あまりの必死さにジンの狂気が緩む

「どうしたんだいジン。閻魔帳の場所は分かったんだろ早く殺しなよ」

「、、興が削がれた。いいだろう、かりそめとは言えお前の上司だったよしみだ。一度だけ言う事を聞いてやるよ。いいな、寺の中に戻っていろよ。もし逃げ出してみろ、今度こそ無事で済むと思うなよ。」

うららは必死に何度もうなずく

「ジン、、甘いよ、それじゃ、僕たちの仲間になる資格はないよ。どんなに小さな芽でも確実に摘むそれが僕らさ。」

「俺はまだお前らの仲間ではないのだろう。お前との約束は閻魔帳を持ってくることだ、それ以下でもそれ以上でもない。そうだな。」

「そうだよ。その通りさ、」

「だったら消えろ、次に会う時は閻魔帳を持ってきた時だいいな」

そう言ってジンはカラスにも鎌をかざす。

カラスはジンが消えたように黒い霧となって消え去る。

「いいな、元の場所に戻っていろ」

ジンはうららとは似ても似つかぬ、悪魔のような羽を広げ飛び立っていく。

残された春は、ジンとの距離が開く程に、徐々に落ち着きを取り戻していく。

ジンの狂気の魂の影響を受けなくなった故か、うららがいてくれるせいか、何とか心が壊れることは回避したようだとはいえまだまだ、いつもの春には程遠く、そのショックは隠せない。

20分ほどして何とか、意思の疎通ができるまでに回復した春にうららは何度も笑顔で大丈夫と語りかける。

本来であればすぐにでも家に連れて帰るべきだが、今のジン相手では本当に何をされるか分からない。うららは春を連れて飛ぶだけの力はないため、何とか歩けるようになった春の手を引き、うららは元いたお堂に戻っていく。

「大丈夫よ、春。心配しなくてももう少しすれば銀が助けに来てくれるからね。ウリュウさんの事も閻魔大王に頼めば助けてもらえるから、」

うららは魂の見える春には嘘が通用しない事を知っていた。

「私たちは人間じゃない。私たちは死ぬ事はないし、ウリュウさんも、心配しなくても助かるから、今は自分の事だけを考えなさいいいわね。」

この時、うららの魂は少しも揺るがなかった。春を守りたい、今春を守れるのは自分しかいないその今まで持つことのなかった強固な意志が魂に僅かの変化も与えなかった。

食べられてしまった魂を取り戻すことなんてできはしない、でも、うららの魂はそれが嘘だとは言っていない。その事で輝きを失いかけた春の心は少しだけ小さな輝きを取り戻す。そして同時にうららの力強い春を守らんとする意志がうららの魂に輝きを与えていた。

今までのうららとは違う人の者ではない思いやりと優しさに支えられた強い魂が春に安心感を与えていた。


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