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偉人と時かけ

作者: 野五志喜

 「偉人になりてぇ」

 同い年の友人かつルームメイトがボソリと呟いた。

 「夕飯の食い過ぎで頭湧いたか」

 苦笑いしながら俺は聞いた。

 「今日歴史の授業があったじゃん。んで織田信長が凄いかっこ良くてさ、オレもなりたいって思ったわけ」

 ……意外とスルースキル高いのだな。3年付き合ってきた初めて気づいた。

 「昔からお前はすぐに影響されるな」

 肩をすくめておちょくり気味に俺は言う。

 「だって俺らもう十八の男の子だぜ。世が世なら勇者として魔王退治に出かけていてもおかしくないじゃないか」

 ……何を行っているんだろうこいつは。

 「……つーか偉人になりたいって言ったて、ここは戦国時代じゃないんだぜ。しかも大体の自然現象は解明されているし、技術だって頭打ちなのが現状だぜ」

 「そ、それはそうだけどさ」

 「だろ? 今から十年前ぐらいならまだ可能性があったかもしれないけどさ」

 そう今は泣く子も科学的に黙らせる天下の2020年。あの頃の科学のレベルではない。あらゆるものが自動だし、ロボットだって自分の意志を持って活動している。まあそのおかげでつまらない世の中になったように思うが。

 「……そうか! それだよ!」

 友人はベッドからスバッと立ち上がり、子供のように純粋な瞳で俺を指差しそう言った。

 「タイムマシンがあるじゃないか! これができたら教科書に載るどころの騒ぎじゃない!」

 小学生からの付き合いだがこいつ、勉強に限っては人よりもできるのに根の部分はアホだと心から思う。

 「……それはそうだろうけど」

 「なんだよ、文句あるのか」

 そう言って不満そうに腰掛ける。というか文句ならありまくりだ。

 「タイムマシンは絶対実現不可能だっていろんな科学者たちが挑戦してはそういう結論にたどり着いてんだろ。無理だって」

 「いやいや、俺とお前が組めば絶対いけるって! な! やろうぜ!」

 今度は俺の方を掴んで豪快に揺すってくる。相当うざい。だけど頼ってくれているのはちょっとだけ嬉しかった。

 「……わかったから離せよ。鬱陶しい」

 友人の手を虫を払うような仕草をしてどけさせる。

 「いやー。お前ならきっと協力してくれるって信じてたぜ」

 友人は嬉しそうに話す。俺は涙が出そうだ。……それにしてもこいつにタイムマシンを実現させる策があるとは思えないし、どうしたものか。……自分で言うのもなんだが、こんなくだらないことまで一緒になって考えてやる程度にはこいつのことが好きらしい。LIKE的な意味で。

 「てか、タイムマシンに関する知識とかあるのか?」

 とりあえず疑問に思っていたことを口にする。

 「当然。出なきゃこんなこと口にしないって」

 そう言うと聞いてもいないのに、アインシュタインの相対性理論やらその他タイムマシンに関することをべらべらと語りはじめた。こうなるとこいつはもう止まらない。アホなのに凄い博識なのだ。アホなのに。

 ……一時間くらいたっただろうか、ようやく友人の話が終了した。

 「……ってなわけだ。分かったかい時田くん」

 そう言いながらメガネを上げるような仕草をする。……メガネかけてないのに。

 「すごくわかりやすい説明ありがとう。移田」

 皮肉交じりに言う。にも関わらず友人こと移田はニコニコと嬉しそうだ。

 「ということで時田くんこと、助手よ後は頼んだ。もう十時だし俺は寝るから、タイムマシン作ること考えといて」

 「はぁ! ふざけんな!」

 そう言うよりも速く移田はベッドに潜り込み、すぐさま寝息を立て始めた。……というか寝るの早すぎだろ。某メガネをかけた年中黄色がイメージカラーの小学生もびっくりだよ!

 「……タイムマシンか」

 もし完成したならこの世界はどうなるのだろうか。みんながみんな思うがままの時代に行き、そして歴史を改変したとしたらきっと良くないことが起こるんだろうな。……よくわからないけど。

 「……さてっと」

 さっきから座っていた座布団から立ち上がり共用の勉強机へと向かう。……実のところ俺も教科書に載りたいと本気で考えた時期もあった。すぐに挫折したが。だからこそだろうか移田の夢を叶えてあげたいとそう感じた。……そうして俺は毎夜毎夜タイムマシンについて考察することになったのだ。



 あれから一年の歳月を流れたある日、俺はある法則を発見した。それはどんな有能な科学者も発見することができなかったものだ。その日は二人で手放しに喜んだ。この法則が真実であれば悲願のタイムマシン作成が可能となるからだ。

 更に一週間がたち、大学の実験室にてついにイス型タイムマシンの制作に俺たちは成功した。ちなみにこの椅子、二人の共用勉強机の椅子である。兎にも角にも、どんな科学者もお手上げだったタイムマシンをこの手で作り上げたのだ。

 実験には木からちぎった葉を用意し、座標軸を俺の部屋の勉強机に指定、一週間前に転送した。結果から言うと大成功。そこに行ってみると葉が茶色く枯れた状態で存在していた。その時の気分は喩えようもないほどの高揚感でいっぱいだった。

 それからというもの、世界中から俺たちは平成の鬼才と呼ばれ、脚光を浴びた。今や世界で俺達の事を知らないものはいないだろう。移田の、そして俺の夢はついに叶ったのだ。

 ……その時はそう本気でそう思っていた。移田が自殺をするまでは。

 葬儀は遺族と友人だけで密かに行われた。世界中の人間は鬼才の突然の自殺に驚きを隠せなかった。だが俺は知っている。あいつが自ら命をたった背景を。

 俺の手元には、移田の遺書がある。そこにはこう記されていた。

 「俺がなりたいのはあくまで偉人なんだ。有名人なんかじゃない。……そんで考えたんだ。俺が偉人となる方法を」

 続けてこう書いてある。

 「偉人はすべからく死んでいる。だから俺も死ぬしかないんだ。……ごめん、分かってくれ最愛の友よ」

 文章はたったの二文。これだけがメモ書きのように書いてあった。

 読んだ当初は泣きに泣いた。これは現実なのかと散々否定した。だからこそ本気で現実を否定するため俺は今日行動を起こす。


 草木も眠る丑三つ時。俺はイス型タイムマシンが保管されているある場所に潜入した。

 「この機械決して使うべからず」

 そう張り紙がしてある。……当然であるがタイムマシンは悪用すれば世界を手中に収めることも簡単だ。だからこそ一部の人間しか近寄ることが許されていない。

 しかし、俺は製作者だ。点検のためとでも言えば簡単に近寄れる。

 「……やるか」

 そうつぶやき、準備に取り掛かった。

 手始めに座標軸の選択。そして年数。最後に時間だ。

 椅子に座りスイッチを入れる。

 タイムマシンはフォンフォンと音を鳴らす。その音は徐々に加速していき、最後にはバシュン、と大きな音を鳴らし停止した。多分。



 ……目を覚ますと、まず初めに月夜が目に入った。

 「いつつ、体中が筋肉痛見てぇだ。」

 きっとかなりの時間を一気に移動するため肉体に負荷がかかったのだろう。身体を起こすのに幾分時間がかかった。……それにしても今だから思うが被験者の人たちには悪いことをしたな。

 心のなかで謝りながら辺りを見渡す。どうやら指定通り河川敷にこれたらしい。……俺とあいつが三年間暮らした家の近くの。

 「行くか」

 俺の心のなかの決心を鈍らせないためにも一言つぶやき、真の目的地へと歩を進めた。




 「偉人になりてぇ」

 冗談交じりに友人に言う。

 「夕飯の食い過ぎで頭湧いたか」

 ……ずいぶんひどい言い草だ。いいもんスルーするから。

 「今日歴史の授業があったじゃん。んで織田信長が凄いかっこ良くてさ、オレもなりたいって思ったわけ」

 聞かれてもいないのに、経緯の話をする。我ながら神経が図太い。

 「昔からお前はすぐに影響されるな」

 肩をすくめておちょくり気味に言ってくる。……だがそこがいい

 「だって俺らもう十八の男の子だぜ。世が世なら勇者として魔王退治に出かけていてもおかしくないじゃないか」

 最近ハマったゲームの話をおりまぜながら話す。我ながらナイスセンスだ。略してナイセン。

 「……つーか偉人になりたいって言ったて、ここは戦国時代じゃないんだぜ。しかも大体の自然現象は解明されているし、技術だって頭打ちなのが現状だぜ」

 おうふ、そのとおりでございます

 「そ、それはそうだけどさ」

 ふと思うが俺は思ったことがすぐ口に出てしまう。

 「だろ? 今から十年前ぐらいならまだ可能性があったかもしれないけどさ」

 ……ってまてよ。あるじゃないか。一つだけ決して誰も作ることができなかったものが!

 「……そうか! それだよ!」

 ベッドから素早く立ち上がり友人を指さしながら言った。気分はさながら名探偵。

 「タイムマシンがあるじゃないか! これができたら教科書に載るどころの騒ぎじゃない!」

 そう。これさえ作れれば偉人なんて目じゃない。……作れれば。

 「……それはそうだけどさ」

 友人は不満そうだ。無理もないのかも知れないが。

 「なんだよ、文句あるのか」

 相手が不満そうなときはそれ以上に自分が不満そうになる。俺が十八年間生きてきて培った人生術だ。

 「タイムマシンは絶対実現不可能だっていろんな科学者たちが挑戦してはそういう結論にたどり着いてんだろ。無理だって」

 俺もそう思う。しかし、

 「いやいや、俺とお前が組めば絶対いけるって! な! やろうぜ!」

 ここは折れずに押しこむ。そうすればこいつは折れる。折れてくれるはず。

 「……わかったから離せよ。鬱陶しい」

 ほらね。……虫みたいな扱いをされたのは気に触ったが。

 「てか、タイムマシンに関する知識とかあるのか?」

 唐突に聞かれる。

 「当然。出なきゃこんなこと口にしないって」

 自分で言うのはなんだが知識だけは相当溜め込んでいると思っている。後悔させてやるぜ。ふっふっふ。

 ……語りに語って一時間。知識をアウトプットするのは楽しいが疲れる。そうとう眠い。

 「……ってなわけだ。分かったかい時田くん」

 メガネを上げるような仕草をして言う。……メガネをかけていないが、眠さを隠すためハイテンションな感じで言ってみた。

 「すごくわかりやすい説明ありがとう。移田」

 そう言う時田の顔はやつれている。疲れてんなーこりゃ。……にしても眠い。

 「ということで時田くんこと、助手よ後は頼んだ。もう十時だし俺は寝るから、タイムマシン作ること考えといて」

 俺は光より速い速度(自称)でベッドに潜り込んだ。

 「はぁ! ふざけんな!」

 という声が聞こえた気もしたが気のせいだろう。

 そうして目をつむり眠ろうとした時、不意にガッシャーンとガラスが割れるような音が鳴り響いた。

 驚いて、布団を払いのけた。この一瞬のうちに部屋は地獄へと姿を変えていた。

 フードを目深にかぶった男が左手で時田の首を掴み、持ち上げている。そして右手に持ったナイフで左胸をメッタ刺しにしていた。

 鮮血が飛び散る。意味がわからない。あまりの光景に意識が飛びそうになる。だって今まで話しをしていたあいつはもうピクリとも動いていないのだから。

 男は俺の唖然とした様子に気づくと、左手を話した。そして一言

 「会いたかった」

 か細く消え入りそうな声でそう呟いた。信じがたいが確かにそう呟いたのだ。

 更に信じがたい光景が目の前に広がった。男が半透明になり、そして消えてしまったのだ。

 ほんとうに意味がわからない。全くわからない。とにかくわからない。

 「タイムマシンを作ろう」

 不意に言葉が口から零れた。……そうだ! 過去に戻ってアイツを、時田を守ってやるんだ。

 俺はこの日友人の死体を横に決意した。友人を必ず救うと。



 ~XYZニュース~

 本日正午日本の鬼才移田がタイムマシンの開発に成功しました。

 本人曰く、友人を救うために創りだしたとコメントしています。

 これに政府はタイムマシンの使用に対し……



 時田見ててくれ。必ず過去に戻り、俺が余計なことを言う前に殺してお前の命を救ってやる。きっと俺が、俺がタイムマシンを作るなんて言ったからお前は死んじまったんだろ。

 「待ってろ今行く」

 俺はそうつぶやき、イス型タイムマシンのスイッチを押した。

製作時間約二時間。

前作の適当さを反省して作りました。

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