星になった宇宙人
宇宙……それは何処までも続く謎の空間。哲学的なことはどうでもいい。
謎の空間の片隅、銀河と呼ばれる群れの中で申し訳程度に浮いている緑豊かな星がある。
大きさは隣の星に負けているようなくらい。特別変わっているというべき点は、有機体が存在することか。
星から言わせれば最近の話だが、たまたま海中で炭素同士が纏まって小生意気にもソレは蠢いたそうだ。
星が言えることでもないが、ソレは知能も持たずプチプチ分かれて数だけは増えていく。
いずれソレの大きさは増し、ウネウネしてるだけだったものが知能を持って移動する。
そこから何だかんだ奇跡が起こって複雑な構造になり、生意気にも星の中で覇権を争おうなんて考え始めた。
中でも自分で自分のことをヒトと自称する炭素塊は目を見張る成長だった。スーパールーキーである。
文明を築いていったヒトは、どうやら最高権力者の座に落ち着いたらしい。らしいだけ。
この緑豊かな星の住民の中の一人のヒトは、単なる炭素だった頃のヒトに似た姿のウィルスとやらに寄生され倒れていた。
知り得る限りの知識で仲間のヒトが看病を続けたが、それも虚しく病床のヒトは動きを止めてしまった。
するとどうだろう。ヒトの頭から意識だけが空を飛んでいったのである。
形ある体は地面に埋められて果てたが、何処かへ飛んで行った意識というものはどうなったのか。
実は意識は空を超えて宇宙まで飛び出していた。生物の行動範囲の極限を超越していたのだ。
星を包むあんな層やこんな熱い層を何てことなく通り過ぎ、意識は故郷から遥か遥か遠くへ飛んでいく。
故郷は上から見ると緑で一杯だった。
さながら生まれたばかりのソレのように、知能もなくウネウネ。
やがて動きは何故か止まり、意識は実体化して凄まじい光を放ち始めた。
周りを浮遊していた岩やチリは光に吸い寄せられて、大爆発。宇宙は元の静寂を取り戻す。
とんでもなく熱い大きな岩がそこにあった。
岩にはまだ意識が残っていた。故郷も見えない所まで何故か飛んできてしまった。
お隣さんは何光年も離れていて、体温も下がる一方。比例して寂しくてたまらなくなった。
何十億年、やる気もなく唯そこで生きていたのだろうか。他の岩が衝突して一部が剥がれた時も無反応の星。
はっと思い付いたのは、故郷の美しい姿だった。
一面に広がる緑。今や故郷と同じ存在になった自分も、あんな風に家族を作れたら。
……頑張ってみよう。
海と陸に分かれ、体温を落ち着かせる。近くにあった燃える星がそれを調節してくれた。
ようやく炭素同士が結びつき、たまたま生き物ができた。次々と繁栄していく息子達を、星は意識の中で微笑んで見ていた。
故郷もこんな気持ちだったのかと嬉しくなる。遂に進化の過程でヒトも生まれた。
そんなある日、息子が機械に乗って剥がれた自分の一部へ行くことができた。生きたままで。
星にはそれが何だか解らなかったが、その技術は短い間で見事に進歩し、かなりの距離を機械で移動できるようになる。
今、息子のヒトが別の知的生命体を探す為に故郷の方角へ出て行った。
もし辿り着けたら、故郷に自分のことを自慢してくれると嬉しい。
あなたの息子だった一人が、こんなに賢い息子を持つようになったのだと。
ヒトはその橋渡しをしてくれている。親孝行の一つだと、勝手に思った。
一方、ここは故郷の星。一人のヒトが一面の夜空を見上げた。
青く輝く一粒の光があった。
テーマは「誕生」。「ブラック・ファイター」に似た展開です^^;
宇宙がこんな感じだったら夢があるな、と思って書いただけのものです。