魔法
突然目の前に居る少年に「師匠」になれと言われた。
動揺したが、思った。たぶんコレは小さい子供の遊びなのだろう。
そう思えば動揺も無くなる。
「師匠になってもいいよ」
そう答えると少年は明るい表情を見せ、先ほどの袋をあさり始めた。
すると、一枚の紙とペンを出した。
「これに、サインお願いします!」
なぜサインが必要なのかは分からないが、たぶんコレも遊びの一つなのだろう。
それにしてもしっかりした用紙だな。
そう思いながら少年からペンを受け取り、用紙にサインした。
「へー四月朔日健太って言うんですね」
「あ、あぁ」
小さい子供のわりには変わった読み方をする漢字を読めていた。
今時の子はそういう子供が多いのだろうか。
「あ。僕の名前は、スズ」
「苗字は?」
「無いよ」
たぶんあだ名か何かだろう。
それにしても変わった子供だな。
「じゃぁ、師匠に特別に魔法を見せてあげる!!」
そう言ってまた袋をあさり始めた。
「あったあった!」
袋から出たのはいかにも魔法使いが使いそうな杖ではなく、団子が出てきた。
「これを食べるとね、傷が癒えるんだ」
スズはそう言って団子を食べ始めた。
どう見ても普通の団子なのに、傷が癒えるとは思えない。
そうか、分かった。コレも遊びの一つなんだ。
後でちゃんと口についた血や擦り傷を消毒や絆創膏で治してやろう。
しかし、そう思った矢先、スズの擦り傷や口についた血などが消えていった。
驚いて後ずさった健太にスズは笑って言った。
「師匠!!どうですか?コレが僕の魔法です!!いや、まだまだ魔法は他にありますが・・・」
スズはそう言ってまた袋をあさり始めた。
しかし、驚いた健太はそれを止めた。
「ちょ、ちょっと待った」
スズは不思議そうな顔をして袋をあさるのをやめた。
「なんですか師匠?」
「そ、それ本当に魔法なのか?」
「はい!!師匠も魔法使えますよね?」
突然スズが魔法を使えるか聞かれて少し驚いてしまった。
「師匠?」
スズが健太の顔をスゥっと覗いた。
まるでそれは風のようにあまり動きが分からなかった。それにも驚き、健太の顔が強張った。
それに気付いたのか、スズは健太に問う。
「師匠、魔法に驚かれてます?」
ズバリその通りだ。
しかし、それを声に出せない。理由は小さな意地である。
相手が自分よりもひとまわりもふたまわりも小さいからだ。
そしてとうとう、スズに確信を突かれてしまった。
「師匠、魔法・・・使えないんですか?」
それに返す言葉も無く、健太は黙ってしまった。
いや、逆に魔法使えない方があたりまえだと言うのになぜ俺はこんな子供に少しの恥じらいを感じたのだろうか。
もしかしたらこんな小さい子供が奇術を使えて、俺には使えない。そんな小さなことで俺はまた小さな意地を張っているのか。
「し、師匠!!でもあの時僕を助けてくれた時に魔法を使ったじゃないですか!!」
こっちはこっちで考えている間にスズは変なことを言い始めた。
「師匠、僕が襲われた時に殴りもしないで、それに一発で仕留めたではないですか!!」
「は?」
どうやらスズは勘違いをしている。
健太は魔法など使っておらず、そこら辺に落ちている石ころを悪三人組の頭に投げつけただけであった。
しかし、石ころを投げた場面を見ていないスズは何かの魔法と思ったらしい。
「師匠!!あの魔法を教えてください!!」
「・・・・・」
かってに勘違いして「スゲー」で終わるなら困りもしない。
だが魔法が使える少年に魔法でもない魔法を教えろと言われれば困る。
大抵の場合は無視かはぐらかすか。しかしやっぱり勝手が違う。
もう一回言うが、目の前にいる少年は本物の魔法使い。
魔法使いということはいろいろな魔法が使える。
そう、例えば火を出すとか。あの袋から杖的な物をだして、そこで呪文を唱えて火を出したりとか。
最悪の場合、召喚獣的な物まで出されて悔い殺されたら堪ったもんじゃない。
無視したら後ろから火、はぐらかしたら獣のエサ・・・になるであろう。
「師匠?何考え込んでいるのですか?」
「え!?いや、なにも!?」
考えていることを悟られたらそこから質問攻めに会うだろう。
健太は質問攻めに会うまいと一つの提案をした。提案と言うよりは駄作であるだろう。
「俺は、もう魔力を使いすぎた。だからぁ・・・そうだなぁ・・・よし!!」
「なんです?」
「三日後、俺の魔法を見せてやる!!」
「ほ、本当ですか!!」
「あぁ。男に二言は無い」
よほど魔法が使えると信じきったのか、スズは驚くほど喜んでいた。
「では師匠、三日後師匠のご自宅に訪れますね!!」
「はいよー・・・ん?ちょっと待て」
「なんです?」
「俺の家知ってんの?」
「僕の魔法は探知魔法も使えるんです!!その辺は平気ですよ!!」
この時ものすごく探知魔法と言う未知の能力がいらないと思った。
「では、三日後師匠のご自宅に参りますね!」
「・・・あい」
力が入らず、きちっとした返事ができなかった。
それからその三日間ものすごく悩むとは思っていたが、予想以上に悩むのは当たり前だよね。




