(2)・11 もう変態はごちそうさまで
船出中はずっとトイレに引きこもるつもりマンマンだった私。それでも勇気を出してここから出ていかなきゃいけないときが、ある。
例えば、お腹空いたなー、とか
お風呂入りたいなー、とか
トイレの個室内で食事なんて絶対にしない。次にご飯みるのが嫌になっちゃうじゃないですか。
トイレ生活でお風呂なしとか嫌です。色んな意味で臭うじゃないですか。
寝るのはまぁ我慢しようではないか。
たとえ到着時に老婆のような腰砕けな姿勢になってたとしても怨みません、怨みません。・・・怨みませんからねタイシュさんっ!!
ともかくいい加減ここから去らなきゃならない、というか去りたいです。
トイレの窓からみるに今の時刻は9時前後といったところ。月がまだ微妙な位置にいるし。この時間なら食事も湯浴みもまだ間に合う。
気分は完璧に脱獄する囚人。いや、それと今の私の状況はあまり変わりませんね。どちらも人に気付かれずに逃げ場のないところから無事に脱するのですから。
一応外という名の逃げ場はあるけどそこから出たら色んな意味で最後。・・・私の場合、泳げませんし海に落ちたら確実に死にます。
さて、ご飯とお風呂という欲求を満たす場合に起きる、あの二つの障害はどうしましょう・・・。
そう考えながら個室のドアノブに手をかけると。
パチリッ
「・・・・・・静電、気・・・」
確かに今、この手に軽くビリッときました。気のせいなんかじゃありません。
普通、このような湿気が多い海で静電気なんて起こるものなのでしょうか?
そして、これは自然現象でしょうか?
そして外でうるさく騒いでるカラスども。さっきからしきりに窓を叩いています。かなりうるさいです。
普通、海の真ん中にしかもカラスがいるものでしょうか?
そして、鳥って夜に飛ぶ生き物でしたっけ?
・・・そうですよね!
出発前に師匠からあんだけ脅されたのにタイシュさんから逃げる私。そんな私を師匠が放任するはずがないですよね!
タイシュさんに捕まらずにただ戻っても無事に済むはずがないですよね!ですよね!
そう、私はさっきからずっと考えていました。
・・・姿を消した私を静かに探すあの方をどうしよう、とか。
・・・すりこみの雛の如くしつこく私の後ばかりを追いかけるあのカラスをどうしよう、とか。
タイシュさんはルチアさん同様面倒な人だしなぁ・・・。
ホラーのように私を捜して徘徊する最悪な二人に出会ってしまった時の対処法及び安全策。トイレで十分考えに考え、そして私が出した結論。
それは単純に考えれば誰にでもわかることでした。
ムリだ。
師匠の怒りをおさえる方法つつの私の安全を確保し和解なんて確実にムリだ。
そもそもそんな自分を想像した途端、違和感からか吐き気がしてきた。断じてトイレのせいではない。
だって師匠は出合い頭に攻撃するに決まってるから。
こないだみたいに情なんてもんはなく問答無用で撃つ。いや、もともと勝手についてきてる私に対して情があるのかすら怪しいけども。
船だから雷がむりだとしても、自身の鬱憤を晴らすために何かしらのきつい制裁をくださるでしょう、あの人は。
私が考えられるうちの師匠の怒り理由
いち、私が師匠の「離れるな」という言い付けを破ったから。
に、自分の荷物をみる者がいない。
さん、タイシュさんのお守りが大変だ。
・・・・・・まぁ、最後のは私の冗談ですが、うん。師匠がタイシュさんを構うとは思えないが一応候補に。
ちなみに私の荷物、こんな状況になるなんて思いもしないで舞い込んで来た様々な幸福に浮かれすぎてしまい、乗船時にうっかり係の人に預けちゃいました。
つまり丸腰。
師匠はもちろん渡すなんて無用心なことはなく肌身離さず持っています。
・・・つまり前回と違って魔法具を持つ師匠。お仕置きは雷だけでなく多種多様というわけであります。
そして次にタイシュさん。
これも温和な対処はむり。
彼に見つかってしまえばためにためた告白もどきのマシンガントークになること間違いなし。
彼は一応紳士的精神はあるので私に過度なスキンシップをしたりはしないでしょう。たとえ私が女性用トイレにいることを知ったしても、変化して入るなんてしない人だくらいはわかっているつもりです。
変態とはいえ、そこらへんは信頼しています
でも、もしこのオアシス以外で見つかったときは・・・・・・ただ私の後ろをつけて一晩中、それこそ寝ている間はカラスになりながらも求婚してくるでしょう。
・・・・・・想像しただけでさっきよりも一気に吐き気と疲労感を感じた。
これは絶対に逃げ切らなければいけません!!
私は自分の袖をつけてきちんと静電気対策をして扉を開ける
・・・たったこれだけのために今一体何分時間を無駄にしただろうか。
まぁそれはそれとして・・・問題は次なる関問。
扉を出たとたんに地獄のフルコースは絶対に嫌です。
いや、良いことなんてきっとこれから起こらないんでしょうねぇ・・・。
考えても仕方がない。一か八か!当たってくだけろ!
いやいや、砕けちゃダメだ。
私は扉を開けながら感慨深くも、守ってくれた臭うオアシスとお別れをした。
「ありがとうございます・・・。あなたは私の天使!ここは楽園でした!」
そして地獄の扉を開ける私。
「あ、やっぱりここだった。女性トイレってかなりあるからどこで待とうか迷ったけど、ここにしてよかった」
「・・・・・・」
−−−パタン…
ただいま天使さんたち。
・・・・・・女性トイレで待ち伏せする、今のお方は誰ですか?
補足ですがリィブはカナヅチです。