(2)・8 変態毛布男への対処法
「………」
私は何も言わずに部屋のドアを閉めた。
見なかった。私は断じて一切何も見ていない。
私は昼食を食べ終えた後、すぐに部屋に戻った。
軽く済ませたので時間にして15分もないから、荷物は魔法具にしまわずに部屋の隅に置いていった。
どうせすぐ隣の店で軽く食べるだけだ、すぐ戻ればいい、と思ってたのだ。
もちろん、師匠は荷物を持ってどこかに出かけていきました。
また私が持ち出し……いや、無くしたりしたら、今度こそ本気で信用を失ってしまうかもしれない。
今まで私に大事な荷物を預けてたってことは少しは私に気を許している証拠。なのに、師匠からのその貴重な信頼を崩すのはかなりまずい。
もし無くしたりしたら…次からは本気で私をまきそうな気がする。
……話がそれた。大事なのはそこじゃないっ!いや、これも大事なことなんだけどっ!
つまり私が言いたいことは、部屋にあるのは貴重品以外の私の荷物だけだ。いつもよりかは油断してたけどでも気にしなかったわけじゃない、ということ。ちょいちょい不審者はいないか宿の入り口を確認しつつ、レストランで食事をしていた。
−−断言しよう。部屋には確かに誰かが入った様子はなかった。
絶対に!確実に!獣も虫も入ってません!
……いや、変化タイプの虫はさすがにわかんないけど、でも盗みに入ったのなら人の姿に戻るはず。
私の荷物も見えるはずだ。
でももちろんそんな気配もなかったから、安心しきってる私は何の気兼ねもなくのんびりと鼻歌でも歌いながら部屋に戻った。
……だから、私の部屋で女の子の注目の的でキャーキャー言われるであろう美少年顔のタイシュさんが、私の毛布に包まり布にほお擦りをして時折臭いを嗅ぎながらごろごろごろごろ床を転がるというありえない状況をみた私は、………扉を閉めて思案した。
…いろいろと言いたいことがありすぎて、どう反応すればいいのかわからない。
なんで私の部屋にいるんですか?どうやって入ったんですか?何してんですか?どうして幸せそうな顔してんですか?どうして私の毛布だけでそんな嬉しそうな顔してんですか?なんでにおいを嗅いでんですか?
加えて私の荷物には師匠のお友達であり私にとっての先生がくれた『厄よけリング』がついてるので、やましい心を持って部屋に進入した時点で見えなくなるはずなのですが………もしかして臭いで当てたわけじゃありませんよね…?
私の布団で喜ぶあの人にはかなり引いたけど、あんな顔は初めてみた。
………もしや、夢?
いや、この食後のお腹の感覚は明らかに夢じゃない。
じゃあ、なんでっ!?
もはや疑問を通り越して混乱にまでいってしまう。
だって、だって、だって!私はちゃんと部屋に誰も侵入してないと確信していたし、事実誰かが入った音なんてしなかった。
だからこそ、なんで!?全くわからない!!
そもそも、ルチアさんもタイシュさんもどうやったらそんなに気配を消せるんですか!?
絶対におかしいですからっ!
絶対に、生物上ありえないですからっ!
…夢にしろ現実にしろ、もうそろそろ部屋に入ろう、か…。
はっきり言ってあんな人のためにさく時間は私には一切ない。
でも私にはそれができないでいた。
何故かと言うと……再び入ったときの変態への対応の仕方が私にはわからないし、再入出の勇気が、再びアレを見るという勇気が私にはない。
ルチアさんは積極的変態。ひたすら引っ付いてこようとするだけ。
でもタイシュさんは湾曲的かつ言動的変態。異性同士のせいかさすがにピッタリとくっついたりはしないけど、私の私物をこっそり盗んだり、執拗に私の後をこっそり隠れて追いかけてきたり、何かと私と恋人なり夫婦なりの関係をもとうとするなど。
偉そうにストーカー行為を認めている上でさらに私に求婚してくる方
ストーカーで変態でよくわからない私の大切な、……私の、何なんだろう?この人…。
……よしっ!とにかく入ろうっ!
それに早く入らないと私の毛布にいろいろされそうだっ!
「いざっ!まいろ「なぜ入らぬのだっ!!リィッブフォアッ!…」
……みなさん、おわかりいただけただろうか?
私が言い切る前に、扉に手を触れる前に、ドアを開ける前に、決心が付いた直後に。……私よりも先に扉の向こうから毛布を体に巻き付けた例の彼がものすごい勢いで飛び込んできました。
扉に進もうとしていた私。
廊下に出ようとする彼。
ちなみに扉は中に開く式です。
多少は身長差があるもののそれは微々たるもので、お互いの顔を見ながら向かっていく私たちには関係のないことだった。
全てがスローモーションにみえた私はこの時、『なんで人の物で喜べるこの変人さんはこんなにもカッコイイ顔してるんだろう』、とか余計なことを考えていたのほんのわずかの間だけで、すぐに現実に引き戻された。
そうして、ようやく今現在進行中で起こっていることの状況を瞬時に理解しました。
か、顔が近すぎるっ!!このまま、だと……!!
脳内に私と彼のその後の展開が自然と思い浮かぶ。
それは勘弁願いたいっっ!!!
もし私がただの一般的乙女少女だったのなら恋愛パターンに入っていくだろうけど、私はそんな性格ではないしそんな未来はお断りだ。
タイシュさんが嫌いだから嫌なわけじゃないが、考えてみてほしい。
人の後をつけてくる方ですよ?
不法侵入して変なことする人ですよ?
そしてこの人は執拗に私に結婚を迫ってくるんですよ?
私と彼の顔がぶつかってしまったとき、その後の展開が手に取るようにわかってしまう。
まさにこの時の私には食うか食われるかの心理的状態だった。
……だから、生物の持つ危機的本能とあまりの近さに驚いた私は、とっさに彼の綺麗な顔に握りこぶしのグーで思いっきり殴ってしまいました。
色々考えてましたが飛び出してから殴るまでのこの間、五秒にもならない。
当然いきなり力強い拳で殴られたタイシュさんはなすすべもなく激しい音を立てて床に倒れていく。
さすがの彼もすぐに立ち上がることは出来ないようだ。
……でも、謝ることはないか。うん。
美少年の顔に攻撃は確かにいけなかったかもしれない。
だけど明らかに私に非はないだろう。
こっちは自分の毎日使う毛布に変態行為をされただけでなく、平気で男女としては危ない距離で近づかれたから防衛しただけなんだから。
謝る必要性を全く感じない。
いや、なんか謝ったら負けだ。
………とりあえず、うん、今のうちに毛布を奪還しよう。
ついでに私の私物をさっさと遠ざけよう。