(1)・2メイドさんは早さが命
コンコンと軽く控えめなノック音。
師匠が私にノックなんてのはまずありえないから最初に可能性の中から打ち消している。たぶんメイドさんだ。
「何ですか?」
「失礼いたします。侯爵様からのご所望でよろしければ私の部屋でお話をしたいとのことなのですが…」
ドアごしでさっきとは違うメイドさんの声がする。
「あ、でも今師匠いませんので…」
「でしたらリィブ様だけでも」
「で、でも、荷物を見てないと…」
「でしたら誰かを見張りにつけさせますので」
「だ、駄目です!私が師匠に怒られちゃいますから!そ、それに私汚れてますから!こんな姿で会うなんて失礼になりますし…」
この屋敷に来たときは迎えてくれたのは彼女や執事さんたちだけで侯爵様にはまだ会ったことはない。
「…、…わかりました。では少々お待ちいただけますか」
と、急にドアの向こうから声がしなくなってしまった。
自慢の犬…いや狼耳に意識を集中させて廊下の音を聞いてみた。
…足音が早く遠ざかっている。
あの様子だと主人に聞きに行ったのかもしれない。
「・・・行ったら、確実に怒られる」
師匠は休むときはしっかり休む人だから多分30分以上は戻らないだろう。
もし戻ってきたとき、私が居ないのを師匠が見たら………。
……っ!!と、遠くに逃げても絶対に雷がくる!!
私がもんもんと悩んでいたら本日3回目のノック音。さっきのメイドさんだった。
さすがメイドさんは早い。
「公爵様が、汚れは気にしないのでよろしけば私がリィブ様方のお部屋を訪問しても、とのことなのですが」
…あやしい。
どうしてそこまでして会いたがるんだろう。
師匠目当てだとしても今は私しか居ないと伝えている時点で諦めているはず。
…でもまぁたとえ私しか居なくても何も起こらないよね。まさか私の目の前で師匠の荷物を盗むわけじゃあるまいし。
…というかそんなことする人いるのかな?たとえそうだとしてもそんなことさせないが。
こっちだって荷物守ることにいろんな意味で命懸けてるのだ。
時計を見ると師匠が戻るまでだいたい20分くらい。
「…師匠が戻るまでの少しなら」
…師匠が途中で帰ってきたら、どうしよう……。




