(2)・7理不尽ファイティング
リィブ視点ではないです。
「リィちゃんたらぁ……。…冷たいところもすごく素敵っ!」
恋は盲目。というかルチアーナからしたら彼女がつくる顔や動く姿、とにかく全てが愛しさに繋がる。
「でもわたくしを置いてまた二人で行っちゃうなんて……早く家に帰ってお二人に合流作戦をたてませんとっ!」
はい、彼女の中には諦めなんかこれっぽっちもありません。
憧れのギルバートと愛しいリィブに近づくためにはどんなことだってします。
たとえ、お金がかかろうと遠出だろうと力仕事だろうと雑用だろうと、二人に少しでも好かれるのなら、なんでも。
それだけ、彼女にとっては二人に嫌われるのがすごく怖い。
…ただ、普段の行いのせいでそこまで好かれていないことに本人は全く自覚していませんが。
「…でもその前にアレ(・・)に一言言わないと気が済みませんわ…!」
名前を口に出すのがおぞましいようです。
彼女は今、リィブ達がいた町の外に向かって歩いていた。
急がないといけないはずなのになぜ走らないかというと………。
「………みたぞ…!」
突如空から下降してきた、首に朱色の首輪をつけるこの黒髪美少年、いや彼女にとって最大の宿敵に一言物申すため。
はた目からは美少女の前に天使の如く舞い降りて来た美少年、もしくは美しい恋人同士の逢瀬にしか見えないことだろう。
だが、二人は恋人同士ではなく…………………『変態同士』であった。
「…また、あなたなの?しかも烏の分際で卑しいだけでなく、こっそりのぞき見だなんて……どこまで私とリィちゃんの邪魔をすれば気が済むのかしら……!リィちゃんの近くにいるというだけでも許せないというのにっ!」
「黙れ白々しいっ!!それはこちらの台詞だ!いつもどこでもどんなときでもあいつと俺の邪魔ばかりしおってっ!!しかもなぜ俺よりも先にお前があいつのところにいるんだ!!」
「……だぁって、一緒に夜を明かしたんだからぁ♪いるのは当然でしょう?寝起きのリィちゃんも最高だったわぁ…!あの無防備な眠気眼。少し乱した…いえ少し乱れた服。そしてあの可愛らしい寝顔に昨夜の一時!あぁ、もう一生忘れられないわぁ…!」
「……っ!!」
目は怪しいながらも、あえてそういう怪しい言い方をしたルチアーナ。
あえて、寝ていたリィブに薬を嗅がせたことは隠してます。
リィブの寝起きをみたことがないらしい烏の『変化タイプ』の少年、タイシュ−−タイラシュビルツはあきらかな嫉妬と憎悪の目を彼女に向けるが、もちろんルチアーナは知らんぷり。
「そ・れ・に、その言葉そっくりそのままお返しするわ。リィちゃんといちゃいちゃし始めた途端に、いつもいつもいつもいつもいつも邪魔ばっかり……!!」
「貴様に言われたくないわっ!先程も俺があいつを遠目に眺めようと飛んでいればこれみよがしにあいつに……!!」
つまりのぞき見です。
あわよくばリィブの着替えさえも見ようと近づいてました。
そしてルチアーナは、烏に変化しリィブにばれない程度の距離間でこっそりみていたタイシュを虫人にしてはあり得ない視力で捕らえたので、あえて彼女に抱き着きました。
もちろん、それを見せびらかして苦しむ彼を見て優越感を得るためです。
タイシュに嫌がらせができてリィブに抱き着けたが、かわりに彼女に膝蹴りされる。それはまさに天国と地獄。いや、彼女にとっては天国と天国のことだった。
「それっていつのことかしら?わたくし達、しょっちゅう抱き合ってるからわからないわぁ?あぁ…それにしてもさっき嗅いだいい匂いが離れなくて、もう、もうぅ〜……っ!!」
「最初から最後まで引っくるめて全部だ!!あと『達』ではない!あいつをいれるな!一方的に貴様から迫ってるではないかっ!!」
「あらぁ、怒ってるの?当然ねぇ、わたくしとリィちゃんは何たって『女同士!』なんだから、いちゃいちゃし放題だもの。でも、男のあなたがいきなり抱き着いたりしたらいくらリィちゃんでも怒るんじゃないかしらぁ。もしかしたら嫌われちゃうかも?お気の毒ぅー♪」
「ふんっ!貴様こそわかっておるのか?あいつが貴様といるのはあくまでも『お友達!』だからだ。友人の少ないあいつにはどこまでが境界線なのかわからぬようだが、いくらあいつでもその『お友達』を越えるような行為は認めぬだろうなぁ。それにくらべて俺は男だから心さえ奪ってしまえばそれ以上の行為を許されるのだ。惨めな姿になった貴様が目に浮かぶわっ!」
「ふんっ!でもぉ……あなたがリィちゃんを好きに出来る日なんて来なさそうだから安心だわぁ!」
「負け惜しみも弱くなったな。先ほども言ったとおり俺は落とせばよいだけなのだっ!貴様など確率ゼロではないか!これほど愉快で滑稽なことはないわ!」
コ・イ・ツ……ッ!
火花がちるとはまさにこのこと。
二人とも美少年、美少女の顔が激しく歪んでおり、はたから見ると般若のようで恐ろしいです。しかしそんなことは二人にはリィブの前でないのでお構いなしです。
それから両者、しばし無言で睨み合う。
しばしといっても、5分ほど。
そして先に口を開いたのはリィブいわく、「ガムみたいにうざくべっとりくっつき厄介でいらつくめんどくさい、私のたぶん大切なお友達」の方。
「行けないっ!こんなおぞましい変態真っ黒烏男に構ってられないわ!急がないとっ…!」
「変態がいえることか!それに俺は変態ではない!ただ溢れでる愛情が他者より強いだけで変なことは何一つしてないわっ!」
ルチアーナもそうだが、タイラシュビルツも自覚してるけど自覚してないところがかなりある。
リィブいわく、「偉そうで人の話を聞かず周囲を考えない、猪突猛進の騒がしい告白男」はえばれないことを偉そうに叫ぶと、さらに偉そうな顔をした。
「ところで本当に急がなくてもいいのか?お前のことだ、どうせ遅れても遅刻理由を正直に話すのだろう。『主賓の姪が変態の如く相手に、それも同性にしつこく付き纏った結果、遅刻という失態』……こうなれば、謹慎でしばらく自由には動けまい。当然あやつに会うことも叶わぬなぁ…。さぁ!思う存分遅刻するがいいわっ!」
「くっ、うぅ…!あ、あなたはどうですの!?伯爵様のくせに参加しないつもりなのかしら!?」
「くっくっくっ!自分勝手に動き回った貴様と違って、俺は激しい頭痛のための療養ということで、招待状が届く数日前からすでにその日には「休養」という名目の予定が入っておるのだ!つまり自由に動ける!さぁ、羨むがいい!悔しむがいい!」
「か、烏のくせにぃ……!!汚らしい…そしてなんて小賢しい…!」
烏だから、と差別されるのが大嫌いなタイラシュビルツもこの時ばかりは上機嫌でルチアーナを見下した。
その表情にムカッ腹がたつルチアーナ。たとえ彼女が誰かに彼のことを悪く告げ口して来させようとしても、自分のような特別な身体能力を持たない彼ではどのみち時間内に会場に着くことなど到底無理なこと。
そして彼の言うとおりでもあり、これから先リィブに会うためにはここで失敗してはかなりまずいことになる。
「貴様はせいぜいパーティーを楽しむがいい。ついでに新たな出会いでも見つけてこい。そして二度と戻ってくるなっ!」
いつか千倍返し+半殺しを決意し、不敵な笑みで見送るタイラシュビルツを尻目にルチアーナは風よりも早くその場を走り去った。
ちなみにルチアが遠くのカラスをタイシュだと見抜けたのは彼の首輪のおかげです。