(2)・5 晴れのち雷、雷のち……重石
「ふんふっふふ〜ん♪リ・ィ・ちゃあぁ~ん…♪」
ルチアさんは私の心からの一言を伝えると同時に痛いほどのタックルもどいハグと、嬉しいのか何かが恐ろしいのか何だかよくわからないすさまじい発狂をしてきた。
そして今ではこのとおり。とりあえず腕組みだけは許している状態。
ただし、恋人繋ぎだけは断固反対させていただきました。
「…結局、チケットはどうしましょうか」
滅多に手に入らない代物なのに捨てるのはあまりにも勿体ない。
「それなんだけど……一応ギルバート様に聞くだけ聞いてみたらどうかしら。もしかしたら行くのかもしれないし…」
「それもそうですね。そしてさりげなく手をなめたりお尻触ったりしたら本気で殴ります」
怪しい動きをし始めたルチアさんは涙目になりながら私の腕から離れていった。
触れないなら離れていた方がまだまし、ということだろうか。
どんだけ私に触りたいんですか貴女は。
*******
驚いたことが起こった。驚きすぎて私は数十秒固まりましたとも。
というか何が起こったのかすぐにはわかんなかったのだ。
「……………」
話すよりも先に見せた方が早いと思ってラムズリル島行きのチケットを師匠に向けたら、師匠はチケットの文に目を走らせるとごく自然にかなりスムーズに流れるように………………私からチケットを持って行った。
……………え?あ、…あれ?師匠、どゆことですか?
師匠は絶対に受け取らない、百パーセント無視すると思ってた。
手にしたってことは………それを望んでる?欲しいんですか、それが?行きたいんですか、ラムズリル島に?
師匠の場合、お金に困ってないから楽に行けるはずなのに私からチケットを盗ったってことは……。
「……師匠、そこまでがめつかったなんて」
ビシャーーーンッッ
「………………」
「〜〜〜ッッ!!!」
ががが顔面が、顔面がぁああぁーーっ!!
聞かれてはいけないとこだけ声に出てしまったぁっ!!
あまりの痛さに声がでないまま部屋を超スピードでごろごろ縦横無人に転がる私をうざく感じたのか、師匠は私をボールのごとく足蹴にして押さえ付けた上にさらに魔法具で重しを乗せてきた。
大きく真っ黒で明らかに頑丈そうな石のせいで背中は痛いし、顔は痛いし、痛みで暴れることも出来ない。
「ふげっ!」
それだけじゃまだ足りないのかさらに師匠はその上に座るというドS魔による大胆鬼畜で悪質な罰を行ってきた。
一歩間違えれば殺人未遂だ。
痛い上にもがくこともできないこの苦しみを師匠に分けてあげたい。
でも今の私にはそう思うことすら煩わしい。
何てったって顔面に雷を直でくらったから。
………でも、何故か師匠はいつも本気でやらないな。
今だってかなり熱くて痛いけど魔法具を使えば痕に残るほどじゃない。……しばらくやけど状態だけど。
「まぁ、大変!リィちゃんっ!!」
ルチアさんはルチアさんで心配してくれているのかと思えば、動けないのをいいことに私の耳や髪にチューしてきやがった。
全てに置いてなんて欝陶しい人だ!!
「……っ……し、ししょう!チケット、なくても、師匠、は……大丈夫、…じゃ……」
「………海に群れが出たらしい」
「…………」
意味がわからないし答えになっていしそもそも海は群れなんて作らないし言葉になってないし。
「群れ?ギルバート様、それって先日イワシの方々によって行われたお祭りの、あの事故のことですの?」
「……………」
相変わらず師匠は全く喋んないし顔も変わんないけど、長年一緒にいる私にはそれが肯定による沈黙だということはすぐにわかった。
それはルチアさんも気付いたんだと思う。
イワシのお祭り、というのだから、たぶんそのイワシは魚人のことだろう。
ルチアさんは何か知っているのだろうか。
でもそれを聞く前に、明確に話さず話の途中なのに石の上で本を読み上げたフリーダムな男と、心配顔をしながらまたしても人の尻尾にほお擦りをする天然無自覚腹黒な少女の、二人を何とかしなければならないというくたびれるような作業が私には残っていた。
もちろんその片方には今度こそ体罰を加えさせてもらうとする。