(1)・1 師匠の雷パーセンテージ
今日の宿はここ、レインドーラー侯爵様の客室。
たいてい私と師匠は野宿、もしくはどこかの宿で寝泊りだけど、ごくたまに師匠の名声を聞いて招待してくださるお貴族様もいる。
「それにしても素敵なお部屋ですね、師匠」
師匠が私にだんまりなのはいつものことなので気にせずに私は喋る。
「こんなに綺麗な部屋がたくさんあったら眩しすぎて目が大変そうですね。お食事も食べきれなくて残しちゃったのはもったいなかったなぁ…」
「そんなに気に入ったならここで」「嫌です」
師匠が言うであろうことはわかっていたので私は途中で遮って否定の言葉を発した。
「何度言われても私は師匠について行きます。置いてかれたって絶対に追いかけますから」
私は子どもの頃に捨てられた狼の獣人。小さい頃の私を拾ったのは今わたしが師匠と呼ぶ目の前の男性と、今はわけあって離脱している師匠の仲間だった。
それに対して師匠は獣人ではない。ましてや虫人でも魚人でも鳥人でもないがそれについてはまた今度話したいと思う。
拾ってくれたから恩返し、と言うわけではないのだが、私は師匠について行きたいから勝手について来ているのだが師匠は何かと私を邪険にし、粗末に扱う。過去に置いてかれたことなど両手の指じゃ足りないくらいだ。
だが私には(まだまだ未熟だが)獣人族特有の耳と鼻がある。
師匠は足音をたてずに歩くが、私の耳は確実にその音をとらえるし、鼻だってきくのだ。
置き去りにされたってどこまでも追いかけてついて行くと私は決めているので、みすみす見逃すはずがない。
だが私は子供(たぶん。捨て子な上に他の狼の獣人に出会ったことはないので確証はない)で、集中しなければ師匠だけではなく普通の人の気配も感じることは出来ない。
「失礼致します、ギルバート様、リィブ様。湯浴みの用意が整いました」
ノック音の後に聞こえる若くて意志がある女性の声。
…というか食事の後にお風呂ってどうなんだろう。普通、食前では?
まぁ食事が先に出来たなら仕方ない。
「じゃあ私…」
が先にいいですか、と言葉を発する前に師匠は私に気を使うこともなくさも当然のように先に進んだ。
「………。おふろ…」
これじゃあ私は戻るまではお風呂に行くことはできないじゃないか。というかむしろこの部屋で静かに待たなければならない。
だがこれは別に気を使ってのことではない。
以前師匠が入ってる間に私が別の場所でお風呂に浸かっていたら後々で怒られた。
それも怒鳴るわけではなく無言で睨まれるからさらに怖い。
しかも雷撃たれましたよ。いや、冗談じゃなくて本当に。
もちろん本気でやったら私燃えカスになっちゃうから多少手加減はされてるんだろうけど、これは本当に痛すぎる、熱すぎる。
シュウシュウいったよ。
「…誰が荷物を放れと言った」
「う、うぅ…。す、みま、せん…」
師匠の荷物はすごく少ない。
というか手ぶらも同然で所持品は軽くて目立たないかっこいいポーチだけ。それも大人の片手くらいの大きさの。
なぜなら師匠のもつ指輪の一つに、仕組みはよくわからないけど亜空間?らしきものを召喚できる指輪があり、その中に自分の荷物を収納している。
ポーチに入れるのは本当にすぐ使うものだけだ。
だからこそもしそれが盗まれるようなことがあれば非常に困るらしい。…慌てふためく師匠は想像できないけど。
で、お風呂に入ってる間は外さなければならないから私にちゃんとみてろという意味で怒っているのだろう。
幸いそのときポーチは無事だった。…私は無事ではなかったが。
それ以来、私は師匠がお風呂からあがるまで一人荷物番だ。
…多分、さぼってもばれそうだし。
「・・・・・・、早くお風呂、入りたい」
もう四日も入ってない。
泥どころか汗臭いし、自慢の白く長い髪もぱさぱさ。服だって洗いたい。
師匠早く戻ってこないかな。
……というか、普段は私のことを鬱陶しいそぶりをしてまこうとするくせに、こういうときだけ利用するなんてずるいと思います、師匠。