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第六話:放課後のブレインストーミング

売上が増えれば、すべてが解決する。


そう思っていたわけではありません。


でも、数字を知ってしまうと、

「なんとなく頑張る」だけでは足りないこともわかってしまいます。


六袋から八袋へ。


それは小さな変化かもしれません。

けれど、変化がゼロではなかったという事実は、

ほんの少しだけ、背中を押してくれました。


今回は、大きな成功の話ではありません。

怖さを抱えたまま、それでも動いてみる話です。



大学のラウンジ。


私は読みかけの『経営学入門』を開いたまま、同じページを何度も行き来していた。


「損益分岐点」という文字が、昨日の店長の顔と重なる。


六袋売れても、足りない。


あの沈んだ目を見てしまった以上、何も考えないふりはできなかった。


「何、はるか。そんなに真面目な顔して」


こなつが向かいに座り、後ろからかえでもひょこっと顔を出した。


私は、緑風園のことを正直に話した。


人は来る。でも利益は出ないこと。

煎餅を置こうかと考えていること。

でも、うまくいく保証はないこと。


「煎餅いいじゃん」とこなつが言う。

「でもさ、まずは今あるもので、もう少し何かできないかな」


かえでが小さく首をかしげた。


「お茶の匂い、もっと広がったらいいのにね。通路までふわっと届いたら、気になって覗きたくなるかも」


「香りか……」


私はノートの端に“匂い?”と書き込んだ。


「あと、コップ。毎回桜柄じゃなくても、ちょっとした工夫で雰囲気出せるんじゃない?」


アイデアは増える。

でも、それが本当に数字に届くのかはわからない。


もしまた変わらなかったら。

店長は、今度こそ何も言わなくなるかもしれない。


それでも――


「……とりあえず、やってみる」


次のバイトの日。


店にあった茶香炉を、久しぶりに使ってみた。

香ばしい茶葉の匂いが、ゆっくりと通路に流れていく。


足を止める人は、少し増えた気がした。


試飲を受け取る人も、昨日より多い。


けれど、レジの数字は劇的には動かない。


その日の売上は、八袋。


六から八へ。


増えた。でも、十分とは言えない。


レジを閉めながら、店長がぽつりと言った。


「……少し、違うな」


それだけだった。


でも、ため息ではなかった。


私は胸の奥で、小さく息を吐いた。


大きな成功じゃなくていい。


ただ、あの沈んだ顔が、ほんの少し軽くなればいい。


カバンの中の教科書は、相変わらず重い。


でも今日は、逃げるためじゃなく、確かめるために開こうと思った。


この回では、はるかはまだ何者にもなっていません。


経営を理解したわけでも、

賢くなったわけでも、

仕組みを掴んだわけでもありません。


ただ一つ変わったのは、


「数字を見てしまった後でも、動けた」ということ。


努力が無駄になるかもしれない。

それでも、何もしないよりはましだと思えた。


今はそれだけです。


次は、はるかがもう一歩、

“組み合わせ”という発想に近づいていきます。


まだ光は弱いままですが、

その弱さごと、見守っていただければ嬉しいです。


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