第五話:一坪のフィールドワーク
六袋では足りませんでした。
だからといって、すぐに答えが見つかるわけでもありません。
今日は、何かを“する”のではなく、
ただ、見る日です。
一坪の売り場を、少しだけ真剣に。
利益の少なさに少し落ち込んだ私は、リコーダーを置き、店の隅から売り場を眺めてみることにした。
(市場調査、ってこういうことなのかな)
難しい言葉はいらない。ただ、目の前の人を見てみる。
試飲の桜茶を「美味しいわね」と飲み干して、そのまま去っていく人。
「可愛い」とコップを眺めて、一袋だけ買ってくれる人。
そして、足は止まるのに、茶葉を見た瞬間に「やっぱりいいわ」と視線を逸らす人。
(止まってはくれる。でも、そこから先に行かない)
何かが、足りない。
夕方、主婦二人組が試飲のコップを受け取った。
「いい香りね」
「ねえ……でも、これ飲むと、ちょっと甘いもの欲しくならない?」
その何気ない一言が、胸に残った。
(あ……)
おばあちゃんの家の居間が、ふっと浮かぶ。
湯気の立つ急須。
その横に置かれた、固い煎餅。
バリッと噛んで、ずずっとお茶を飲む。
そして「ふぅ」と息をつく。
お茶だけじゃ、終わらなかった。
(もしかして……これなら、店長のあの沈んだ顔を、少しは変えられるかもしれない)
私はレジ横に立つ店長を見た。
「店長。……お茶と一緒に、何か置けたらいいのかもしれません」
「何か?」
「たとえば、お煎餅とか」
まだ、計算もしていない。
仕入れのこともわからない。
でも、お茶を飲んだあとに“何か欲しくなる”気持ちは、確かにある。
「……考えてみようか」
店長は小さくうなずいた。
答えが出たわけじゃない。
でも、六袋の先に、次の問いが見えた気がした。
カバンの中の教科書は相変わらず重い。
けれど、今日は自分から開いてみようと思った。
読んでいただきありがとうございます。
今回、はるかはまだ何も成功していません。
けれど、数字の向こう側に「人の気持ち」があると
初めて気づきました。
商売は、売ることよりも
先に“見ること”から始まるのかもしれません。
次回、小さな気づきを、実際の行動に移してみます。




