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第四話:六袋の罠

六袋。


昨日は少しだけ嬉しかった数字です。


でも、商売は“売れた”だけでは終わらないらしい。


今日、はるかはその続きを知ります。


バイト三日目。


昨日より少しだけ軽い気持ちでエプロンを締めた。

六袋。あの一坪の店で、自分たちの力で積み上げた数字。


「店長、お疲れさまです」


声をかけると、店長はレジ横で小さなメモを見つめていた。


「……はるかちゃん。昨日の分、計算してみたんだ」


差し出された紙には、売上と、その横にいくつかの数字が並んでいる。


六袋の売上。

そこから茶葉の原価、紙コップ代、そして私の時給。


「……あれ」


思っていたより、残らない。


六袋売れた。

でも、それだけでは足りないらしい。


「正直、まだ厳しいんだ。テナント料もあるしね」


店長はそう言って、紙を折りたたんだ。


私はレジの表示を見た。

昨日は少しだけ誇らしく見えた数字。


今日は、ただの数字だった。


(売れたら、終わりじゃないんだ)


講義で聞いた「損益分岐点」という言葉が、頭の隅に浮かぶ。

でも、まだうまく意味をつかめない。


ただ、六袋では足りない、という事実だけが残った。


店の奥から、茶葉の香りがする。


ふと、おばあちゃんの家の光景がよみがえった。

湯気の立つ急須。

その横に置かれた、固いお煎餅。


お茶だけで終わることは、なかった気がする。


「……商売って、難しいですね」


私がつぶやくと、店長は小さく笑った。


「だから面白いんだよ」


その言葉の意味は、まだよくわからない。


六袋。

成功だと思っていた数字は、入り口にすぎなかった。


カバンの中の教科書が、昨日より少しだけ重く感じられた。


読んでいただきありがとうございます。


六袋は失敗ではありません。

けれど、成功でもありませんでした。


この回は、はるかが初めて「利益」という言葉に触れた場面です。


理論を学ぶ前に、現実がある。

そして現実は、思ったより静かで、冷たい。


次回、はるかはもう一度、売り場を見つめ直します。

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