表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/51

手書きの約束

仕組みは、人を整える。


だが、ときに人をこぼす。


効率を選ぶたびに、

見えなくなる背中がある。


緑風園が設計したのは、

売れる道筋ではない。


置いていかないための、

もうひとつの入口だった。


有料会員制の導入を決めた翌朝。


はるかは、開店前の店先に立っていた。


昨日、「もう並べないんだよ」と言って帰ったお婆ちゃんの背中が、どうしても頭から離れない。


「はるかちゃん、早いね」


振り向くと、松五郎さんがゆっくり歩いてきた。


「昨日な、隣の婆さん、泣いてたよ」


胸がぎゅっと締めつけられる。


「俺たちはな、スマホなんて使えねえ。

この店が、そのうち“画面の中の人”の店になっちまうのかと思ってな」


はるかは一瞬、言葉を失った。


雪乃の設計図。

効率のいい未来。


でも、松五郎さんはそこにいない。


「……違います」


声は小さいが、はっきりしている。


「置いていきません」


松五郎さんは小さく笑った。


「そうか。それなら、いい」


その背中を見送りながら、はるかは決めた。



店に戻る。


「雪乃」


ノートを開く。


「サブスクの枠、半分はオンライン。でも、半分は店で受ける」


「……手書きで?」


「うん。店長が名前を書いて、約束するの」


こなつが眉を上げる。


「効率、落ちるよ?」


「うん。でも、それで守れる人がいるなら」


沈黙。


雪乃がゆっくり頷く。


「入口を二つにする、ということね」


かえでがぽつりと言う。


「画面から来る人と、扉から来る人」


はるかはショーケースを見つめた。


「たくさん売るやり方じゃなくて、

ちゃんと続くやり方にする」


店長が、穏やかに笑う。


「それなら、俺の出番はまだまだあるな」


その言葉で、空気が少し軽くなる。


「それと」


はるかは顔を上げる。


「五家宝と羊羹だけじゃ足りない。

土台、もっと厚くしよう」


こなつが笑う。


「探しに行く?」


「うん。歩いて見つける」


四人は、再び商店街へと踏み出した。


同じ商品でも、

入口が違えば景色は変わる。


画面の向こうから来る人も、

扉を開けて入る人も、

どちらも同じ「お客様」だ。


効率は大切だ。

だが、それだけでは続かない。


約束は、手で書くと少し重くなる。

その重さが、信頼になる。


緑風園は、速く進むことよりも、

一緒に歩くことを選んだ。


次に問われるのは――

この約束を、守り切れるかどうかである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ