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嵐のあとの、予期せぬ風

一坪の挑戦は、やがて組織の目に触れる。


売上が伸びるということは、

誰かに見られるということだ。


それは、味方が増えるという意味でもあり、

同時に、測られるという意味でもある。


数字は、嘘をつかない。

けれど、数字だけでは語れないものもある。


小さな店に吹いた風が、

グループ本部へと届いた日。


はるかは、初めて「評価される側」に立つ。

インスタの効果は、数字となって現れ始めていた。


一日の売上が、先週より一割、二割と、確実に底上げされている。

若い客が五家宝を買い、ついでに桜茶のティーバッグを手に取っていく。


「……これ、いけるかもしれないね」


店長がレジの集計表を見つめながら、ぽつりと呟いた。

その顔には、久しぶりに「商売の楽しさ」が戻っていた。


しかし、その空気は一人の男の登場で凍りつく。


ピシッとしたスーツに身を包み、銀縁の眼鏡をかけた中年の男性。

この日本茶部門を管轄する、飲食グループ本部の営業部長だった。


「……店長。これは、どういうことだね」


低く抑えた声。


店長の背筋が伸びる。


「あ、部長……。その、アルバイトの彼女たちが工夫してくれて……」


「工夫? 本部の承認を得ずにSNSを開設し、独自に販促を行う。

ここはグループの日本茶ブランドの一店舗だ。独断は困る」


“ブランド”という言葉が、重く落ちる。


私は思わず一歩前に出た。


「あの、でも売上は伸びています。客層も広がって――」


「はるかちゃん、もういい」


店長が制する。


「申し訳ありません、部長。すぐに削除いたします」


その時だった。


「――削除する必要はない」


落ち着いた声が、背後から響いた。


振り返る。


背が高いだけではない。

整いすぎた輪郭、静かに光を宿す瞳。

アイドルよりも完成された顔立ちなのに、笑わない。


一瞬、空気が止まる。


そして次の瞬間。


彼は売上表を奪うように取り、

迷いなく数字を追い始めた。


「先週比+18%。客数増加。客単価微増。

 販促費ゼロでこの伸びなら、十分検証価値がある」


低く、澄んだ声。


美しさよりも、その速さと正確さに圧倒される。


「……常務」


部長が直立する。


青年は、この飲食グループの常務取締役。

創業家三代目であり、ブランド戦略と新規事業を任されている人物だった。


青年の視線が私に向く。


「君が仕掛けたの?」


「……はい」


「なぜSNS?」


「この店の空気を外に届けたかったからです」


一瞬の沈黙。


その視線は、試すようでもあり、測るようでもあった。


やがて彼は小さく頷く。


「情緒をデジタル化したわけか。悪くない」


褒め言葉なのか、分析なのか分からない。


「正式承認は本部で通す。

 ただし、数字が止まれば即中止。再現性を示してほしい」


許可であり、条件。


そして彼は私のノートを手に取る。


「字は汚い。でも、回している」


「……?」


「PDCAを。無意識に」


胸の奥が、静かに熱くなる。


“回している”という言葉が、

評価のように響いた。


「ヴィヴァルディの四姉妹、だったかな」


「はい」


「面白いチームだ。止まらなければ、伸びる」


その言葉だけを残し、青年は部長とともに店を出ていった。


静寂。


店長が深く息を吐く。


「……本部の風は、強いな」


私はまだ鼓動が速いまま、売上表を見つめる。


あの人は、この店を守りに来たのではない。


測りに来た。


そして私は、初めて“評価される側”に立ったのだと知った。


一坪の中で回り始めた季節が、

飲食グループ全体の戦略と、静かに接続した瞬間だった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は、

売上が伸びた“その先”を書きました。


成果が出れば、必ず誰かが現れます。

それは応援かもしれないし、試験かもしれない。


今回の常務は、敵でしょうか。味方でしょうか。


それとも――市場そのものなのでしょうか。


はるかは、守られる存在ではありません。

彼女は、自分で回し始めています。


もしよろしければ、


・常務の第一印象

・はるかの対応はどう見えたか

・これからどうなると思うか


ぜひ感想で教えてください。


一坪の物語は、まだ続きます。

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