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第11話 ヴィヴァルディ四姉妹と、デジタルの風

第一章で、緑風園は「十袋」を売り切りました。


それは、小さな成功でした。

でも、確かに“数字”が動いた瞬間でもありました。


商売は、ひとつうまくいくと、次の欲が生まれます。

もっと広げたい。もっと届かせたい。


けれど、広げることは、必ずしも守ることと同じではありません。


春の芽吹きは、やがて夏の風に吹かれます。


この章では、はるかの挑戦が「一坪」から外へと広がっていきます。

それは希望か、それとも試練の予兆か。


どうぞお付き合いください。


ヴィヴァルディ四姉妹と、デジタルの風


「……というわけで、なんとか十袋、完売したんだ」


大学の学食。

ざわざわとした昼休みの音の中で、私はトレーを置きながら向かいのこなつに報告した。


五家宝とお茶のセットが、少しずつ動くようになった。

あの「一坪」に、じわじわと体温が戻ってきている。


「へぇ、すごじゃん、はるか。あの店長さんをやる気にさせたのはデカいね」


こなつはハンバーグを頬張りながら、何かを企むように視線を斜め上へ向ける。


そこへ、二人の人影が近づいてきた。


「お疲れさま。はるか、またお茶の匂いさせてるわね」


くすりと笑いながら現れたのは、かえで。

そして、その隣には珍しい顔。


「……あ、雪乃! 今日は学食いるの?」


雪乃は私たち四人の中で一番の“レアキャラ”だ。

経済学部・会計専攻。放課後は簿記学校。

数字と条文の迷宮に住んでいるような生活を送っている。


高校時代、音楽の先生にこう呼ばれたことがある。


――ヴィヴァルディの四姉妹。


春のはるか。

夏のこなつ。

秋のかえで。

そして、冬の雪乃。


「模試終わったから。脳が糖分を欲してる」


無表情のままガトーショコラを一口。


「五家宝、完売したんだって?」


そして、淡々と続ける。


「でも、利益率は出した?

輸送コスト、二重包装の資材費、それとあなたの労働時間。

現時点では、実質ほぼトントン、もしくは薄利よね?」


「う……」


春は、すぐに冬に凍らされる。


でも、不思議と嫌な感じはしない。


雪乃は壊すために言うんじゃない。

続けるために言う。


すると、それまで空を見ていたこなつが、突然手を叩いた。


「決めた。インスタやろ」


「……え?」


「緑風園、世界観あるじゃん。

茶香炉の煙、五家宝のきな粉、おじいさんの手元。

お茶を売るんじゃないの。“時間”を売るの」


世界観。


その言葉に、胸の奥がざわっとした。


こなつの瞳は、もう売り場を超えている。


「やるなら、アカウント設計から」


雪乃が手帳を開く。


「宣伝広告費ゼロ。

投稿頻度、ターゲット層、導線設計。

衝動購買じゃなく、関係性を作る方向で」


かえでは静かに微笑む。


「私は写真撮るよ。秋っぽい光で。

お茶って、夕方の方がきれいに見えるし」


夏が火をつけ、

冬が枠を作り、

秋が彩る。


そして私は、真ん中で立ち尽くす。


一坪の春は、

今、デジタルの風に吹かれようとしていた。

第二章が始まりました。


ヴィヴァルディ四姉妹、全員集合です。

春・夏・秋・冬、それぞれの役割が少しずつ見え始めました。


今回は少し浮かれさせています。

成功の手触りは、やはり嬉しいものです。


ただし――

デジタルの風は、優しいだけではありません。


フォロワー数と売上。

世界観と利益率。

熱量と持続可能性。


次回から、少しずつ「現実」が動き始めます。


もしよろしければ、


・四姉妹の中で一番気になるのは誰か

・インスタ展開はアリかナシか

・雪乃の一言は厳しすぎるかどうか


感想で教えていただけると嬉しいです。


一坪の物語は、まだ始まったばかりです。


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