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店長のひとりごと

売り場に立つのは、いつも若い方だけではありません。


挑戦する人がいれば、その背後で、静かに迷っている人もいる。


今回は、緑風園の店長の視点です。

一坪の店を守り続けてきた、五十歳の本音。


はるかの挑戦を、彼はどう見ていたのか。


事務所のパイプ椅子に深く腰掛け、私は冷めきったお茶を啜った。

湯気はもう立っていない。


棚に並んだ五家宝は、あと一袋。


一週間前には、想像もできなかった光景だ。


正直に言えば、最初は「ダメ元でやってみれば」という程度の気持ちだった。

「何かやりたい」と真っ直ぐな目で言ってきた彼女に、強く反対する気力もなかった。


どうせ長くは続かない。

若い子の思いつきだ。

そう、どこかで決めつけていた。


私はずっと、この店を“守る”ことばかり考えてきた。

新しいことを始めて失敗するより、何もしない方が傷は浅い。


そう思っていた。


だが、初日。

彼女がカバンからリコーダーを取り出したときは、さすがに度肝を抜かれた。


「何を始めるんだ」と。


だが、その素朴な音色が流れた瞬間、

死んでいたような売り場に、ふっと体温が宿った。


あの音を聞いたとき、

私は気づかないふりをした。


――羨ましかったのだ。


何かを変えようとする勇気が。


桜茶の試飲を始めると聞いた時も、

彼女が持ってきたのは百均の桜柄の紙カップだった。


「タダで配るのに、わざわざこんなもの。もったいない」


そう思った。


けれど、湯呑みの中に浮かぶ桜の花びらが、

その紙カップのおかげで驚くほど美しく見えた。


私は、いつからだろう。

「綺麗に見せること」さえ、諦めていたのは。


極め付けは、店裏の倉庫に眠っていた茶香炉だ。

いつ仕入れたかも忘れていた、埃まみれの道具。


あれを引っ張り出してきたのは、私ではなく、あの子たちだった。


私は長年、この店にいるのに、

店の可能性を一番知らなかったのかもしれない。


昨日のトラブルは、正直に言えば堪えた。


「やっぱり無理だったんだ」


本部の顔が浮かんだ。

売上報告の数字。

改善計画書。


失敗は、言い訳がきかない。


だから、やめようと思った。


けれど、泣きそうな顔で、それでも


「お菓子屋さんに、もう一度行ってきます」


と言い切った彼女の姿を見たとき、

私は情けなくなった。


私はずっと、減らすことで店を維持してきた。


在庫を減らし、手間を減らし、

挑戦を減らし、

そして、期待することさえ減らしていた。


――失うのが怖かったのだ。


赤字も、叱責も、失敗も。


けれど。


最後の一袋を見つめながら、私は思う。


守るだけでは、店は生き延びない。


あの子が教えてくれたのは、商売の理屈ではない。


誰かのために本気で考えると、

売り場の空気さえ変わるということだ。


私は立ち上がる。


最後の一袋。


それを売る瞬間だけは、

私も逃げずに見届けよう。


最後の一袋を前にした店長の気持ちは、

きっと単純な「嬉しい」だけではないのだと思います。


長く続けてきた人にしか見えない景色や、

言葉にしづらい迷いもあるはずです。


あなたは今回、

店長の姿をどう感じましたか?


もしよろしければ、


・店長の変化について

・はるかとの関係について

・この先どうなってほしいか


など、感想で教えていただけると嬉しいです。


一言でも、とても励みになります。


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