第八話
「クソが! こんなの聞いてないぞ!」
盗賊リーダーの悪態が大きく響き渡る。
そりゃあ、宣言して襲撃する冒険者なんていないだろう。サリアは浅はかだなと大きく息をついた。
まるでロイスの力を示すだけのために存在する盗賊だ。そう言えば前世で読んだ小説に、こういったご都合配置の敵は多かったなと半笑いになる。
結局彼らは、主人公を盛り上げるための舞台装置的な役割だったんだろう。
盗賊たちはロイスたちとは逆方向に走り出す。その彼らの進行方向を塞ぐように、サリアは立った。横にいるマイは、震えながらも覚悟を決めたような顔をしている。
「どけ! 小娘ども!」
剣を振りかざし、粗末な物言いをするリーダー。サリアは彼を見て、嘆息しそうになる。
どこまでも矮小だ。だからこそ盗賊に身を堕としたのだろう。そして、それなのにリーダーを名乗って威張り散らしている。
反吐が出る。
サリアの盗賊たちを見る視線は冷たくなる。
彼女は作業的に杖を振り上げて、唱えた。
「『ウォール』」
土属性と光属性が組み合わさった透明の壁。盗賊の剣は弾かれる。
この技は、“サリアが許可したもの以外は通れない”。主に、ロイスを夜這い中に邪魔されないために編み出した技だ。
魔法を維持したまま、何やってたんだろ自分と顔を真っ赤に染める。
しかもこの技は不完全で、自分が常時調整していないと発動を維持できない。自分の浅はかさをそのことが余計に際立たせていた。
「ナイスだよ、サリア!」
ロイスが声を上げる。
「ふん、ちょっと活躍したからっていい気になって」
リオの小声の悪態はしっかりと聞こえていた。
「あらあら、リオさん。嫉妬かしらぁ?」
「うっさいココット! あんたは何もしてないでしょ!?」
「私はちゃんと“ロイスの傷”を癒してたわよぉ? 敵に遮られて右往左往してたあなたと違ってぇ」
また喧嘩を始める二人に、サリアは空笑いをする。
「クソ、クソクソクソ! 俺はこんなところで終わる人間じゃねぇ!」
もう一度剣を振りかざして、壁を斬りつける。しかし、壁に傷一つつかないどころか、剣のほうが耐えきれずに折れてしまった。
それはそうだ。この壁はリオでさえ斬れないように想定しているのだから。
本当に自分は何をやっているんだろうか……。自分の魔法の才能をしょうもないことに使おうとしていたなんて。
「こんなところで終われる……か?」
男がマイへ気づいたように視線を向ける。
「おい、お前マイじゃねぇか!? 久しぶりだなぁ!」
気軽に話しかけられたことによって、彼女は肩を跳ね上がらせた。
サリアはマイをかばいたかったが、魔法に集中しているために動けない。
「どこ行ってたんだよ、探したんだぜ? また仲間にならねぇか?」
「マイ、こんな奴の言葉を聞く必要はない」
「うっせぇ! てめぇは黙ってろ!」
恫喝でしか威張れない男に、サリアは睨みつける。しかし、彼は気にした様子もなく、マイへと視線を移す。
「なぁ、俺たち仲間だったよな? また、一緒に暴れようぜ?」
「……そう、仲間だった」
マイは小さく答えて、一歩歩み寄る。
「マイ!?」
サリアの声も聞かずに、壁を越えていってしまった。
「おーうマイ、まずはその目障りな女を殺してくれ」
「マイ! そんな男の言葉聞いちゃダメ!」
無言の彼女は、愛用のナイフを取り出した。目を伏せ、ただ突っ立っている。
そんなマイの肩に、男は馴れ馴れしく手を置いた。
「さぁ、“仲間を助けてくれ”」
「……うん、分かった」
マイのナイフを握る手が震えた。
サリアの作った壁に血がへばりつく。
指を切られた男は、顔を涙でグシャグシャにしながら蹲っていた。
睨み上げる顔は、怨みで一杯だ。
「指、斬り落とすのが趣味だったよね」
「こ、この女ぁ! 今まで目をかけてもらった恩を忘れたかぁ!?」
「……目をかけてもらった恩なんてない」
マイは、サリアの前に立つようにして血のついたナイフを構える。
「私の仲間はサリアだから」
その一言に、サリアは心臓が高鳴る。何だか嬉しくなって、笑みを漏らしてしまった。
「サリアは、壁を維持して。私が片付ける」
「分かった!」
ナイフを握ってマイは盗賊たちに斬りかかる。
「お前ら! 何としても、俺を生かせぇ!」
その一言が、どこまでも自分主体なのが分かった。最初、抵抗していた盗賊たちは、徐々に戦意を喪失させていく。
気がつけば、全員剣を落としていた。
「役立たずのゴミどもがぁ!?」
怒鳴る盗賊のリーダーに、マイは冷めた瞳で見下ろしていた。
ナイフに付着した血を拭って、大きく息を吐く。
「一番の役立たずは、あなただと思う」
その静かな言葉は、どこまでも響く。




