第七話
あのあとなんとか連絡をして、現状を確認した。盗賊たちのいる場所を特定して、少しずつ挟み撃ちの状況を作り上げていく。
「ん、あれ……」
マイが指をさす。見えるのは木の間に立ち登る薄煙だ。
「……焚火の跡」
ここは街道からそれた森の奥。魔物との遭遇リスクを受けながらもここで休憩しているあたり、普通の境遇の人間ではないことは明らかである。
「サリア、待って」
「ん? どうしたの?」
「足元」
マイに言われて、自身の足元を見る。そこには、土が掘り返された跡があった。
他にもよく見ると糸が張り巡らされていたり、草の陰には木で作った騒音装置なんかも置かれている。
「こんなに罠を貼ってるってことは、向こうは休憩中かな?」
「多分、予想外の反撃にでもあった」
なるほど、ということは怪我人がいる可能性もあるということだ。
サリアは罠に触れないように気をつけながら、杖の底を地面につける。土の魔法を詠唱し、周囲の地理を把握する。
いたるところに仕掛けられた罠の先には、人工的に切開かれた小さな広場があった。
十数人の人影を感じる。詳細までは分からないが、彼らが目的の盗賊で間違いないだろう。
「目視しないと詳しくは分からないね」
「ん、気づかれないように近づこう」
マイの提案に、サリアは頷く。罠にかかるのを気をつけながら、人の気配のある方へと近づいていく。
極力音を立てないように草葉の陰から顔を覗かせた。
予想通り、盗賊たちが休んでいる。男女入り混じる彼らは、皆どこかに包帯を巻いていた。
近くにある大きな荷物群は、戦利品といったところだろうか。
その中で取り分け大きな男がいた。首からかかっているネックレスは、人間の指でできたものだ。悪趣味極まりないなとサリアは顔を歪める。
彼は木箱に座りながら、貧乏ゆすりをしている。どうやら今この状況が気に食わないようだ。
それはそうだろう。いつ追っ手が現れるか分からない状態で休まないといけないのだから。組織を預かるものからしたら、気が気ではないだろう。
ただ、気を張り続けることはできるわけはない。
「……やっぱり」
横にいるマイが、呟いた。彼女の体は少し震えている。
「大丈夫?」
「……ん、大丈夫」
ギュッと握られる拳は、どう見ても大丈夫じゃない。サリアは安心させるように彼女の手を軽く握る。
不思議そうな瞳でこちらを見つめている。
「私たちがいるから……ね?」
言うと、彼女は無言で頷く。少し安心したのか、マイの震えは止まっていた。
その直後だった。周囲から鳴り響くのは、木と木が打ち鳴らす音。その音を聞いた瞬間、盗賊たちは一気に警戒態勢に入る。
「うげ!? しまった!」
どこからともなく響いてくるリオの声に、サリアは瞬時に状況を理解する。額を抑えて、天を仰いだ。
そう言えば、いつもハプニングを持ってくるのも自分だったなぁと、遠い目をする。その役割まで担わなくていいのにと嘆息した。
「誰だ!? 出てこい!」
大きな声に、正面からロイスたち三人が出てくる。すでに剣を抜いており、臨戦態勢だ。
「覚悟してもらう」
「はん! たった三人で何をするつもりだ!? 男は殺せ、女は生け捕りだ!」
彼らはロイスの強さを知らない。だからこそ数で押せると思っている。
確かに、数的有利は争いでは大きなアドバンテージになる。しかし、それは一人一人の戦力が拮抗した場合に限る。
「マイ、彼らの退路に移動するよ」
サリアの言葉に、マイはコクリと頷いた。
あくまでこちらは挟み撃ち要員。気配を出さずに回り込む。気付かれると、折角の挟み撃ちは意味がない。
サリア自身は魔法で気配を消すことができる。そして幸い、マイはこういった奇襲が得意であった。
二人で対処すれば、なんとかなる。
それは、マイが通常通りに動ければの話なのだが。
剣戟が鳴る。ロイスとリオが前衛を取り、ココットが一歩下がって補助をする。
盗賊たちは、三人の連携に手も足も出なくなり、数的有利は取れなくなっていった。
「……くそ! 退くぞ!」
リーダーの男の指示が飛ぶ。数人の人間が殿を務めて、撤退を始める。
サリアは心の中でいやいやいやと呟いた。
リーダーが率先して逃げてどうするんだと。
「逃げるなんて卑怯!」
リオの声が聞こえる。駆け出そうとしてたのを数人がかりで止められる。
「リオさん、前衛ならもっと頑張ってほしいわぁ?」
「ウッサイ、駄肉! あんたがもっと補助をかけないからだろ!」
戦いながら喧嘩を始める二人に、サリアは大きくため息をついた。
肝心のロイスは、前衛に出ていてあまり注意をしない。
そういうところだぞと息をついたが、ロイスの強さは本物だった。パーティーが崩れるほどの重大なことは起こっていなかった。
それが良いことか悪いことかは置いておいて。
やはり逃げる相手を捕まえる役目は自分たちなんだなと、サリアは位置についた。




