第五話
のそりとサリアは起きる。毛布代わりにかけた布を、体から取った。
大きく伸びをしてから欠伸をする。まだ眠たい目を擦っていると、すでに支度を終えていたマイと目が合った。
「……おはよう」
「おはよう、何か変わったことはあった?」
「何もない」
返事を聞いて、そっかと答える。
「ほかの三人は?」
「あそこ」
マイが指を差した方向を見て、ガクリと肩を落とした。
ロイスがリオとココットの抱き枕になっている。真ん中に挟まれている彼は、とても苦しそうな表情をしていた。
相変わらずだなぁと、呆れる。
「ロイスはいつもモテモテ」
サリアの心を読んだのか、マイが静かに告げた。
「マイはロイスのところにいかなくていいの?」
「……うん、いい」
「珍しいね。マイもロイスのことを好きなんだと思ってた」
「……好きとは違うんだと思う」
彼女は胸に手を置きながら呟く。
「ロイスは安心できたから」
その言い方だと、今は違うみたいに聞こえた。しかし、サリアはあえて聞かないことにする。
そこでマイが小枝をさらに小さく折って、焚火の火力を調整していることに気がついた。
焚火には、串焼きにした魚が炙られている。
「魚焼いてるの?」
「朝食。見回りついでに取ってきた」
そんな軽く言っているが、道具も何ない状態で取れるのは普通にすごいと思う。
よく見ると、マイの髪の端が濡れている気がする。
サリアは立ち上がって、マイに手をかざす。
「何するの?」
「乾かすの。放置して、風邪引かれたらダメだから」
魔法を展開して、軽い風を起こす。焚火に煽られたそれは熱風となり、マイの髪を乾かした。
サリアが満足して元の場所に座ると、マイは照れたように髪の毛をいじっている。
チラリと上目遣いで視線を向けられた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
軽く笑い返す。するとマイは串焼きの魚を一本取って、こちらに手渡してきた。
「食べて、おいしいから」
「良いの?」
「元々、皆の朝ごはん用に取ってきた」
ありがとうとお礼を言うと、骨に気をつけながら一口ほど齧る。
焼き立てで熱々、表面はカリカリに焼けているが中はホクホクとほつれていく。丁度いい辛味と苦味が口の中に広がり、朝一番の元気を分けてくれる。
「うん、おいしい」
そう言うと、マイは照れたように指先を合わせて弄っていた。
※※※※※※※※※※
朝の支度を終えて一行は、残りの道程を歩いている。
相変わらず戦闘のロイスは、ココットとリオの二人の口論に挟まれる形になっていた。
彼も困っているなら本当に困っていると言えばいいのに。
ため息をつきながら、自分の裾を掴む存在を気にする。
「あの、マイ? 懐く相手間違ってない?」
見ると、マイは首を傾げる。
「ロイスは安心できるんでしょ?」
「……今はサリアのほうが安心できる」
そう言って、彼女は放そうとしない。サリアの歩調に合わせて歩く彼女を見ると、少し胸がきゅっとなる。
いやいや、自分が女の子に可愛いと思ってどうするんだと首を横に振った?
「ロイスは安心できないの?」
「……ロイスの周りは危険。負の感情が蔓延してる」
「あー……」
それはきっとココットとリオのせいだろう。
特にリオは昨日の時点でロイスへの好意が顕著であった。ロイスの一番が空いたのなら、そこに座りたくて必死なのだろう。
今はまだいい。しかし、このまま放っておくと、パーティー全体の足を引っ張りという事態になりかねない。
思ったところで、釘を指すことはできないのだろうが。
先日までの自分がそうだったから。
それにしても、マイが己に懐くのは早すぎないかと思う。別に彼女に特別なことをした覚えはない。
見つめると、目が合った。首を傾げるように見上げるマイに、思わず苦笑を漏らす。
うん、完全に今までロイスに向けてきた目をこちらに向けてきている。
明確に好きではないのだろうが、信頼しきってるそんな感じだ。
まぁ、それは仕方ないところもある。
マイは元々盗賊のコマ使として生きてきていた。それを役立たずと手放されたのだ。
パーティーで引き取った時の彼女は、とにかく周りに冷たく距離を取っていた。それが軟化したら誰かを求めるのは自然のこととでも言うべきだろうか。
──だからといって、その役割を自分に求められても困る。
正直な話、サリアは昨日までは自分主体でパーティーのことを見てこなかった人間だ。一歩引いて過ごしてみて分かったことは、ほとんどの部分を仲間に丸投げしていたこと。
つまり、戦闘以外ではお荷物状態だったわけである。
これから自分の少し考え方を変えようとしたところで、こうもパーティーメンバーたちの立ち位置は変わってくるものなのだろうか。
「皆、村が見えたよ! ここからは慎重にね!」
ココットとリオに挟まれたままロイスが声を出す。
彼だけは変わっていないなと苦笑を漏らした。




