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第二十三話

 その後のことは覚えていない。がむしゃらに戦って、なんとか退けたと思う。

 ロイスがよく立ち回ってくれたのを覚えていた。彼がいなかったらパーティーは崩壊していただろう。


 気がつくと、サリアはいつものベッドで寝ていた。昨日の静けさが嘘のように、外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 陽射しに導かれるように、ゆっくりと体を起こした。


「サリア、おはよう」


 マイがいつものように立っていた。おはようと小さく返してから、いつものように支度を終えて廊下に出る。


 階下からはいつものように人の声がする。日常が回っているのが、どこか不気味に感じて吐き気を催した。


「顔色悪い、大丈夫?」


 マイの心配に「大丈夫」と答えた。


 サリアはまずはリオはどうなったかと、彼女の部屋へと向かう。


 ノックをする。彼女の声が返ってきた。

 ドアノブに手を伸ばしかけたところで止める。自分の手が震えていることに気がついて、手を握るようにして誤魔化す。


「リオ……えっと」

「心配してるなら、大丈夫よ」


 ドアが開く。顔を覗かせたリオの目の下には、隈ができていた。


「そもそも、あいつの自業自得だから」

「……でも、私」

「サリアが悩んだところで解決できてないでしょ? あれは、そういうレベルの話じゃなかった」


 そう、リオの言う通りだ。

 今でも自分の判断が間違えだとは思ってない。自分たちが動いたところで、結果は変わらなかったのだから。


 しかし、少なくとも動いてたら後悔はしなかったかもしれない。その考えが脳裏によぎり、言葉が詰まる。


「……なんて顔してるのよ、らしくないわね」


 言われて、俯きかけた視線を上げる。


「まぁ、それは私も同じか……」


 ほぼ独白のように言ってから、リオは自嘲気味に笑った。


「少し一人にさせて」


 それだけ言うと、ドアを閉めてしまった。


 マイを見ると、彼女は無言で視線を合わせてくる。


「下に降りようか?」


 言うと、彼女は頷いた。



 下に降りると、ロイスがいつもの席に座っていた。そういえば彼はいつも早起きだなと、今さらながらに思う。


「おはよう、サリア」


 言われて小さく「おはよう」と返した。


「……リオは今日は無理そうかな?」

「そうだね、さすがに……」

「まぁ、今日くらいは皆休んでもバチは当たらないだろう」


 彼の提案に、サリアは小さく頷いた。


「ロイス、リオに寄り添ってあげて……今はロイスのほうが必要だと思うから」


 その言葉に彼は少し考えてから──


「一番寄り添うのが必要なのは、サリアだと僕は思うけどね」


 その言葉に目を見開いた。そして、サリアは笑って誤魔化す。


「私は元気だよ」


 同意を得ようとマイの方を見たが、彼女は首を縦にも横にも振らない。


「君がそう言うならそうなんだろうね。でもさ、“事実と思っていることは”違うと思うけどね」

「……ロイスのくせに生意気」

「はは、そうかい」


 大きく息を吐いてから、肩を落とした。


「じゃあ、少し行ってくる」

「……どこにだい?」

「散歩。ちょっと気分転換」


 ロイスはそれ以上は何も言わなかった。

 宿から出ていこうとするサリアの後ろを、マイが無言でついてくる。一人で行きたかったのだが、止める理由もない。


 宿から出ると、大きな笛の音が鳴った。討伐隊が帰還した音だ。



※※※※※※※※※※



 街はお祭り騒ぎになっていた。正門からやってきたであろう討伐隊が、群衆にガッツポーズを決めたり手を振ったりしている。

 中心の大きな台車に載せられているのは、グリフィンだ。災害を招くとされる魔物で、討伐は困難と言われていた。


 さぞ、大きな戦いがあったのだろう。討伐隊の面々を見ると、笑顔の下に疲弊している様子が見えた。


 彼らが体を癒せば、街は通常通りに回る。サリアは彼らの凱旋を見ながら、安堵の息をついた。


──本当にそうか?


 ちくりと胸に刺さる問いは、脳の中を蝕んでいく。

 過ぎるのは昨日の夜のことだ。


──本当に街は安全か?


 尋ねられた声に、サリアはそうだと答えることはできなかった。

 だからといって、自分にできることはない。そう切り捨てようとする。


──そうやって、現実を直視しないだけだろ? 結局お前は、ロイスにベタベタしていたときから何も変わっていない。


「違う!」


 思わず声を上げてしまった。近くにいた人が、びっくりしてサリアを見る。彼女は気まずそうに頭を下げた。


 手が握られた感触があった。見ると、マイがただ黙って握っててくれている。目が合うと無言で見つめ返してくる。


「大丈夫……大丈夫だから」

「わかってる」


 その言葉だけで、少し救われた気がした。


 討伐隊の面々が歩く先に、教会の人間たちが立っていた。いつもの白い服装は、サリアからは汚れて見える。

 その中に見知った顔がいる。


 白いシスター服に身を包んだココットだった。

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