第二十一話
声をかけてきたのは、少年だった。服はどこか小綺麗なのに、髪はボサボサ。手や脚は傷だらけで、顔にもあざができている。
そんなチグハグな少年は、青い瞳をこちらに向けていた。
「もしかして、ここの事件を調べてるの?」
彼が指を差したのは、封鎖されている道。ジロリと見張りの人間が睨んでくるので、慌てて少年の手を引っ張った。
「知ってること教えてもいいよ」
歩きながら、少年は口を開く。
「その代わり、何か奢ってよ」
言われ、どうしようか悩んだ挙句に、サリアは了承した。
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屋台の串焼肉を奢ると、彼はとても目を輝かせていた。よだれを垂らしてサリアと肉を交互に見つめている。
食べていいよと苦笑すると、彼はがっつくように食べ始めた。
食べっぷりから見るに、しばらく何も食べれてなかったのだろう。
「ん、本題」
味わって食べる少年に、急かさようにマイが口を開いた。なんだか少し不機嫌になっているように見えるのは、気のせいではないだろう。
「僕の両親が行方不明になったんだ」
最初のひと言から重かった。
「ずっとずっと探してた。で、ある日見つけたのは、路地裏から出てくる人影。怪しく思って、その路地を見に行ったら──」
少年の手が震える。持っていた串焼きを落として、頭を抱えだした。涙を流し、大きな声で叫ぶ。
今まで我慢していた感情が爆発したようだった。
サリアは落とした串焼きを拾った。そのまま火の魔法で処理する。泣いてる少年に、ハンカチを手渡した。
ありがとうとお礼を言う彼は、ハンカチで鼻をかみ出す。
笑顔を引きつらせながらそのハンカチを受け取ると、それも炎で消滅させる。新しいハンカチを買わなきゃと、小さくため息をついた。
「その人影っていうのは、どこで見たか覚えてる?」
「そこももう封鎖されてる。でも、人通りの少ない夜だったのは覚えているよ」
「夜か……」
顎に手を当てて考える。つまり、日の明るい今、どれだけ調査しても進展はないだろう。
少年に串焼きをもう一本奢ると、ありがとうとお礼を言って別れた。
「……マイはどう思う?」
「不穏」
「……だよね」
そもそも、人型の魔物は存在しない。かつての魔王の残滓は、人と相性が悪く人間のかたちを保っていられなかった。
王道ファンタジーで言うところのゾンビやスケルトンなんかは存在しない。だからこそ、少年の言っていた人影というのも気になる。
そして最も気になるのは“重要なことを教会は隠し過ぎている”という点だ。
表沙汰にしたくないのはわかる。混乱するという予想を立てられるから。しかし、それは初期衝動の場合であって、不穏さが滲み出始めた場合は世間に告知したほうがいい。
それをしないで封鎖だけはするということは、何か知られたらまずいものを隠しているのだろう。
──夜の外出制限もかけていない。徹底的に教会は知られたくないスタンスを取ってる。
なのに、封鎖で目立つことをしている。
知られたくないが過剰に出過ぎて、教会側の動きは矛盾だらけになっている。
「……わからない」
お手上げとでもいうように、空を見上げた。情報が少なすぎる。故に、これ以上考えても分からなかった。
「一度ロイスたちと合流して、ギルドに戻ろう」
「分かった」
マイの返答を聞くと、踵を返した。
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「反対! 絶対反対!」
リオが大きな声で言う。
「サリアが一人で夜の街を歩くなんて、絶対に駄目!」
「私も同意」
サリアが提案したことに、二人が猛烈に反発してくる。
「……だけど私以外適任は居ないと思うけど?」
「ロイスがいるじゃん!」
「……おい」
腕を組んでいつものところに座っていたロイスは、リオの言葉に反応して突っ込む。しかし、みんなは視線を向けるだけで、誰も彼の声に返事はしなかった。
「他の三人だと警戒して近づかない可能性がある。けど、私なら油断して近づいてくるでしょ?」
現実的な話、ロイスやリオは見るからに強そうな雰囲気を出していた。マイは佇まいが強いそれだ。
しかし、サリアは普通の女の子だ。向こうも安心して襲うことができるってものだろう。
「それに、何も私は自分が犠牲になるって言ってない。調査の一つって言ってる」
こういうものは、囮を立てるのが一番だった。そして、その囮に適任なのがサリアしかいないって言うだけの話。
わざわざ、パーティーの依頼に、赤の他人を巻き込むわけにもいかない。
「……でも」
「でもじゃない」
「……分かった。だけど、何かあったらすぐに守りにいくから」
「うん、信じてる」
仲間たちは絶対にサリアのことを守ってくれる。だからこそ、できた提案であった。
正直、自分らしくないとサリア自身も思ってる。しかし、やらなくてはならないと心の中で感じてしまっている。
ココットの不在。ココットは教会と関わりがあった。そのことがずっと引っかかっているのだ。
何事もなければそれでいい。
サリアは自分に言い聞かせるように呟いた。




