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第二十一話

 声をかけてきたのは、少年だった。服はどこか小綺麗なのに、髪はボサボサ。手や脚は傷だらけで、顔にもあざができている。


 そんなチグハグな少年は、青い瞳をこちらに向けていた。


「もしかして、ここの事件を調べてるの?」


 彼が指を差したのは、封鎖されている道。ジロリと見張りの人間が睨んでくるので、慌てて少年の手を引っ張った。


「知ってること教えてもいいよ」


 歩きながら、少年は口を開く。


「その代わり、何か奢ってよ」


 言われ、どうしようか悩んだ挙句に、サリアは了承した。



※※※※※※※※※※



 屋台の串焼肉を奢ると、彼はとても目を輝かせていた。よだれを垂らしてサリアと肉を交互に見つめている。

 食べていいよと苦笑すると、彼はがっつくように食べ始めた。


 食べっぷりから見るに、しばらく何も食べれてなかったのだろう。


「ん、本題」


 味わって食べる少年に、急かさようにマイが口を開いた。なんだか少し不機嫌になっているように見えるのは、気のせいではないだろう。


「僕の両親が行方不明になったんだ」


 最初のひと言から重かった。


「ずっとずっと探してた。で、ある日見つけたのは、路地裏から出てくる人影。怪しく思って、その路地を見に行ったら──」


 少年の手が震える。持っていた串焼きを落として、頭を抱えだした。涙を流し、大きな声で叫ぶ。

 今まで我慢していた感情が爆発したようだった。


 サリアは落とした串焼きを拾った。そのまま火の魔法で処理する。泣いてる少年に、ハンカチを手渡した。

 ありがとうとお礼を言う彼は、ハンカチで鼻をかみ出す。


 笑顔を引きつらせながらそのハンカチを受け取ると、それも炎で消滅させる。新しいハンカチを買わなきゃと、小さくため息をついた。


「その人影っていうのは、どこで見たか覚えてる?」

「そこももう封鎖されてる。でも、人通りの少ない夜だったのは覚えているよ」

「夜か……」


 顎に手を当てて考える。つまり、日の明るい今、どれだけ調査しても進展はないだろう。


 少年に串焼きをもう一本奢ると、ありがとうとお礼を言って別れた。


「……マイはどう思う?」

「不穏」

「……だよね」


 そもそも、人型の魔物は存在しない。かつての魔王の残滓は、人と相性が悪く人間のかたちを保っていられなかった。


 王道ファンタジーで言うところのゾンビやスケルトンなんかは存在しない。だからこそ、少年の言っていた人影というのも気になる。


 そして最も気になるのは“重要なことを教会は隠し過ぎている”という点だ。


 表沙汰にしたくないのはわかる。混乱するという予想を立てられるから。しかし、それは初期衝動の場合であって、不穏さが滲み出始めた場合は世間に告知したほうがいい。

 それをしないで封鎖だけはするということは、何か知られたらまずいものを隠しているのだろう。


──夜の外出制限もかけていない。徹底的に教会は知られたくないスタンスを取ってる。


 なのに、封鎖で目立つことをしている。


 知られたくないが過剰に出過ぎて、教会側の動きは矛盾だらけになっている。


「……わからない」


 お手上げとでもいうように、空を見上げた。情報が少なすぎる。故に、これ以上考えても分からなかった。


「一度ロイスたちと合流して、ギルドに戻ろう」

「分かった」


 マイの返答を聞くと、踵を返した。



※※※※※※※※※※



「反対! 絶対反対!」


 リオが大きな声で言う。


「サリアが一人で夜の街を歩くなんて、絶対に駄目!」

「私も同意」


 サリアが提案したことに、二人が猛烈に反発してくる。


「……だけど私以外適任は居ないと思うけど?」

「ロイスがいるじゃん!」

「……おい」


 腕を組んでいつものところに座っていたロイスは、リオの言葉に反応して突っ込む。しかし、みんなは視線を向けるだけで、誰も彼の声に返事はしなかった。


「他の三人だと警戒して近づかない可能性がある。けど、私なら油断して近づいてくるでしょ?」


 現実的な話、ロイスやリオは見るからに強そうな雰囲気を出していた。マイは佇まいが強いそれだ。

 しかし、サリアは普通の女の子だ。向こうも安心して襲うことができるってものだろう。


「それに、何も私は自分が犠牲になるって言ってない。調査の一つって言ってる」


 こういうものは、囮を立てるのが一番だった。そして、その囮に適任なのがサリアしかいないって言うだけの話。

 わざわざ、パーティーの依頼に、赤の他人を巻き込むわけにもいかない。


「……でも」

「でもじゃない」

「……分かった。だけど、何かあったらすぐに守りにいくから」

「うん、信じてる」


 仲間たちは絶対にサリアのことを守ってくれる。だからこそ、できた提案であった。

 正直、自分らしくないとサリア自身も思ってる。しかし、やらなくてはならないと心の中で感じてしまっている。


 ココットの不在。ココットは教会と関わりがあった。そのことがずっと引っかかっているのだ。

 

 何事もなければそれでいい。


 サリアは自分に言い聞かせるように呟いた。

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