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第二話

 この世界には昔──魔族という存在がいたらしい。悪しき心の種族は、王を立てて世界を支配しようと企んだ。

 しかし、勇気あるものに王が討伐されてからはそのなりを潜めた。

 残されたのは、魔力の残滓から生まれた魔物たちと魔族が作ったダンジョンという名のアジト群だけ。


 サリアたちが就いている冒険者とは、各国を旅しながらその魔物や雑事を片づける者たちの総称だ。


「……本当に大丈夫ぅ?」


 町中を歩きながら、ココットが横から尋ねてくる。

 サリアの視界の先では、マイとリオが左右からロイスにひっついていた。


「な、なにが?」


 ジーッと見つめてくるココットの視線に耐えられなくなって、左斜め上に顔が無意識に上がっていく。

 自分は疚しいことをしているわけでもないのにしている気持ちになるのは、やはり心と体が少し乖離しているからだろうか。


「いつもなら、ロイスさんとリオさんの間に入るのでぇ」

「あ、あぁ……」


 ほんわかと鋭いことをいう。いや、それほどサリアの好意はわかりやすかったということだろうか。

 昨日までの自分は、確かに彼を取られまいと必死だった。夜這い紛いなこともしたことある。


 しかし、冷静になると、ロイスに対して女心を預けるほどの魅力があるかと言われると、今はないと答える。

 今思えば、人の好意をいつまでも気づかない鈍感男になんであれだけ必死だったのだろうか。


「なんか、もういっかなって」

「……っ!?」


 呟いた言葉に、ココットが大きな口を開ける。目を見開き、信じられないとでもいうような表情を作っていた。


「サリアさん……もしかして病気ぃ?」

「え!? い、いやいや私は普通だよ?」

「だ、だって……お風呂の出待ちして自爆していたサリアさんがもういいって……」

「やめて!? それ、ものすっごい私の何かを抉り取ってるから!?」


 震えるココットが、サリアの額に手を当てる。

 

「……ね、熱は異常ないね」

「いや、本当に病気じゃないから!」


 彼女の手から逃げるように駆け足になる。そのとき足をもつれさせて、頭から地面へと転倒した。

 大きな音を鳴らして、顔を強打する。慌てていたためか、手で受け身を取ることができなかった。


「……大丈夫かい?」


 ロイスの声が聞こえて顔を上げると、先を行っていたはずのロイスたち三人に見下されている。

 ローブについた汚れを払いながら、恥ずかしさを堪えるように曖昧な笑顔を見せる。


「ちょっと躓いただけ」

「まったく人騒がせなんだから、行こロイス」

「ちょ、あまり引っ張らないでくれ」


 心配したかと思ったら、そのままリオに強制的に引っ張って連れていかれた。

 自分は女子たちに振り回されてますよ感を出している彼の背中を、ジト目で見つめる。本当に、なんであんな男を好きだったのか……。


「……おっちょこちょいなのは変わってないみたいだし、大丈夫だねぇ」


 追いついたココットが手を伸ばしてきた。彼女の手を握るかどうか迷った挙句、好意を受け取ることにする。

 

「てことは、本当にロイスさんのことはもう良いってことなのねぇ?」

「……そうだね」


 ローブの皺を伸ばしていると、ジーッと確認するように見つめてきた。思わず身を引くと、ココットがニコッと笑う。


「では、私ももう遠慮しないでいいってことねぇ」


 そう言うと、足取り軽やかにロイスたちのあとを追いかけていった。

 そのココットの後ろ姿を見ながら、みんな毒されてるなと苦笑する。



※※※※※※※※※※※



 サリアたちの冒険者は、拠点としている街ではそこそこ有名だ。分かりやすくいうと、上位層のランク帯を持っている。

 駆け出しの冒険者に比べて、依頼の幅も広い。


 依頼の貼られた掲示板の前で、サリアは唸る。いつもはココットがやっていた依頼の取捨選択を、サリアが変わったのだ。


 肝心のココットは、わかりやすく大きな胸を押し当てて座るロイスにくっついていた。リオが無駄肉と怒ると、ココットは笑顔のまま貧乳と言い返している。

 真ん中に挟まれたロイスは、「今日は仲が悪いなぁ。仲良くね?」と的外れなことを言っていた。


 うん、完全にサリアが抜けた弊害が出ている。


 よくよく考えると、サリアはロイスの幼馴染であった立場だ。気づかないうちに、彼の一番手を獲得していたんだろう。

 それがパーティー内の平穏を保っていた。しかし、己が抜けた今繰り広げられるのは、空いた席に誰が座るかというお互いのプライドをかけた戦い。


 女心って怖いなと、かつての自分の行為を棚の上に置いた。


 そんなとき、クイッと引っ張られて思わず後ろを振り返る。

 マイがこちらを見上げていた。


「どうしたの?」


 尋ねると、彼女は掲示板に貼られている一枚の紙を指さした。


「これを受けたいの?」


 マイが静かに首肯する。

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