第十九話
「こ、ら、待てー!」
草原で元気に聞こえてくるのは、リオの声。目の前には、キラーラビットという魔物が逃げ回っている。
放っておけば畑が荒らされるのに、すばしっこいという魔物だ。さらにたちの悪いことに、番犬をも食い殺してしまう暴力性がある。
キラーラビットの討伐難度は、街周辺に出没する割には高い。それはすべて、彼らの俊敏性故だった。
「ロイス、そっちに行ったわ!」
「よし来た!」
先回りしたロイスが剣を振り回す。一体は斬り刻めたが、残り二体は逃してしまった。
彼の弱点は、素早い敵に対処できないところだ。その練習も兼ねて、今回の依頼をサリアは受けた。
「やってしまった!」
案の定取り逃がしたロイスは、頭を抱える。
「何やってんのよバカちんが!」
「ば、バカちん!?」
「サリア、そっちに行ったわ!」
もはやリオにまで雑に扱われ始めたロイスの立場に、サリアは苦笑するしかなかった。
サリアは風魔法を詠唱する。簡単なつむじ風を発生させて、キラーラビットを空中に飛ばした。
「……っす」
短い呼吸音とともに、マイが飛び上がった。空中に浮かぶキラーラビットたちの急所を的確にナイフで突く。
絶命した小型の魔物は、地面に落ちて動かなくなった。
「ナイス、二人とも!」
リオは笑顔を見せて剣をしまった。サムズアップして、サリアたちに見せた。
「僕、完全にいらない人になってない?」
「そんなことは……あるわね」
リオの言葉に、ロイスは肩を大きく落とした。
「いや、まぁ一体仕留めてたし、こっちに誘導できたし完全にいらない人ではないよ?」
「サリア〜、なんか僕を慰めてない、それ?」
「そ、そんなことは……ないと思う」
思わず目をそらすと、彼は余計に落ち込んだ。リオが笑い、マイは無言で警戒している。
そんなとき、新たなキラーラビットがロイスの頭の上に乗る。それは彼の頭に牙を立てて噛みついた。
「いたたたたた! いたい! ものすごく痛い!」
「マイ!」
マイはサリアの言葉でようやく動いた。頭の上のキラーラビットの急所をつく。
解放されたロイスは、頭を抱えてしゃがみながら呻いた。
「うーマイ、警戒してたんじゃないの?」
「してた」
「なんで動かなかったんだよ〜」
「……サリアには危険がなかったから」
「僕は!?」
突っ込みで顔を上げたロイスの顔は血が流れている。リオが思わず「うわ」て、引くほどだ。
なんだか申し訳なくなって、サリアは苦笑いをした。
「マイ、一応街周辺でもパーティーメンバーに危険が潜んでたら動いてあげて?」
「分かった」
機械的に頷く彼女は本当にわかっているのだろうか。
取り敢えずロイスの治療に、ココットを呼び寄せることにした。
「あらあらまぁ、これはかなり歯が食い込んでるわねぇ? もしかしたら脳味噌が欠けちゃってるかもぉ?」
「ココット!? 怖いこと言わないで!?」
「大丈夫よぉ、生きている限りは戻せるからぁ。知能の方はわからないけどね」
なんか、とても怖いことを言いながら、彼女が治療を始めた。
取り敢えず、ロイスの治療が完了する間に、三人はキラーラビット狩りを再開した。
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「うん、今日は一杯狩ったわねぇ!」
リオはキラーラビットの死骸を手にたくさんぶら下げながら、大きく伸びをした。
この死骸をギルドに引き渡せば、お金と交換してくれる。
「……なんか僕は疲れる一日だったよ」
「よく頑張ったわねぇ」
ロイスがココットにいい子いい子されてる。リオはそれをジト目で見てから大きく息を吐いた。
「サリア、これからどうするの?」
見なかったことにしたのか、そのまま彼女はサリアに話題を振ってくる。
「んー、一応もう遅いしギルドに報告したら宿に戻るかなぁ」
「ん、私もサリアと戻る」
「そっかぁ。じゃあ、私も戻ろうかなぁやることないし。ロイスとココットは?」
リオに話を振られた二人は、少し考えたうえで口を開いた。
「僕も戻るかな」
「私はちょっとやりたいことがあるわねぇ」
ココットがやりたいことがあるのは珍しい。
サリアの心の声を代弁するかのように、リオが何のようなのかを尋ねた。
「乙女の秘密よぉ? エッチねぇ」
「うーわ、きも」
リオのあまりにも直球すぎる物言いに、ココットは頬に手を当てたまま酷いわぁと呟いていた。
「じゃあ、私は行くわねぇ。また明日」
その言葉を聞いて、サリアは「また明日」と返した。彼女の遠くなる背中を見つめる。
完全に見えなくなったのを確認してから動き出す。
夕刻、ココットの消えたあとのパーティーは、それでもいつも通り会話しながら街中を歩いていく。
この日以来、彼女の姿を見ることはなかった。




