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第十七話

 あのあとは、取り敢えずもう遅い時間になったし、部屋に戻って休もうということになった。

 取り敢えず、少し休憩してから公衆浴場に向かうことにした。


「どこ行くの?」


 マイの部屋を通り過ぎたとき、彼女が部屋から顔を出した。

 まるで待っていたかのようなタイミングに、びっくりして短く悲鳴を上げた。


「いや、これから寝るからお風呂行こうと思って」

「分かった、行く」


 いや、一緒に行こうなんてひと言も言ってないんだけども……。


「待っててすぐ戻る」


 そう言うと、彼女はバタバタと部屋に戻っていった。先に行くのも悪いと思って、仕方なくサリアは待つことにする。

 壁にもたれかかりながら、天井を見つめる。手に持っている着換えとタオルを抱え直した。


「ここで何してるの?」


 そしたら、リオが通りかかった。


「私は待ってるだけ。リオは?」

「私はトイレから戻ってきたのよ。待ってるってマイを?」

「うん」


 サリアの顔と持っているバスタオルを見比べる。しばらくしてから、ジーッとこちらの顔を見つめてくる。


「もしかして今からマイとお風呂?」

「うん、そうだけど?」

「待ってて私もすぐ用意してくる」


 そう言って彼女は少し急ぎ足で自分の部屋に戻っていく。その後ろ姿を見て、サリアは「あー……」と天井を仰いだ。



※※※※※※※※※※



 サリアは自分の体を洗いながら、少しため息をつく。


 自分はロイスから少し距離を置き、中心から離れたはず……だったのだ。普通に過ごせればそれでよかっただけなのに。


 曇った鏡越しに映る二人の姿に、苦笑いを漏らす。


「さーりあ」

「うひゃ!?」


 後ろから胸を下から持ち上げられるように揉まれて、思わず変な声が漏れた。

 慌てて距離をとって、自分の胸を隠すように手を体に回す。


 振り返ると、感触を確かめるように手をワキワキさせているリオがいた。


「サリアって、胸の形良いよね? 何かケアしてるの?」

「い、いや何もしてないけど?」


 リオの行動にサリアは顔を真っ赤にしていると、マイも近寄ってきた。


「私もそう思う」

「そうよね。うーん羨ましいわ。私、こう見えてバストアップ頑張ってるんだけどさ……」

「効果は絶望」

「まーいー? 今、私の胸見ながら言ったでしょ?」


 キャッキャッと騒ぐ女の子二人に、サリアは大きくため息をついた。

 

 女子の距離感ってこんなに近いものだろうか? この世界での女の子はロイスが取られると思って徹底的に話してこなかったからわからない。前世でも自分は男だったからわからない。

 少し居心地の悪い空間だ。それでも悪くないと思い始めてる自分もいる。


「ねぇねぇ、今日一緒に寝ない?」


 再び近づいてきたリオがとんでもない提案をしてくる。

 身体が暖まっているせいか、彼女の白い肌は赤く紅潮していた。それがまたどこか扇情的に見える。


 いやいや、これは友達として普通の提案だと、心の中で首を横に振る。


「だめかな?」

「……その、上目遣いはやめてもろてね?」

「……え?」


 思わず出た言葉を隠すように、口をふさいだ。


「良いけど、なんか急に詰め寄ってきたね?」

「ふふん、当然でしょ? サリアは私の友達だから」

「……あ、はい」


 なんかもう、マイに続いてリオまでサリアを中心に添えてしまっていないだろうか。

 その可能性はきっと気のせいではない。


「私も行く」

「もちろん、良いわよ」


 手を挙げるマイに、許可を出したのはリオだった。彼女は満面の笑みを見せて、マイの頭を撫でくりまわしている。

 これはもう確実に戻れない。そこまで来てしまっているのをサリアは自覚してしまった。



※※※※※※※※※※



 朝は変わらずやってくる。

 人間関係が変わったとしてもそれは不変だ。


 目を開けると、壁の端っこでナイフを磨いてるマイが立っていた。目が合うと、彼女の表情は少し柔らかくなる。


「……おはよう」

「サリア、おはよう」


 うん、彼女がなんか要人護衛みたいに立っているのは、もう見慣れた光景になりつつある。しかし、今回は少し違うところがあった。


 体を起こそうとすると、手が引っ張られるような感覚があった。振り返ると、腕に抱きついたまま寝ているリオがいた。

 完全に友人の距離感から踏み出していないか? と、肩をすくめる。

 

 リオの距離感がやけにバグっているのは、多分今までの彼女の育った環境によるものだろうか。

 今まで友人というものを作ったことがないのだろう。


 きっとそうだと、無理やりに納得させた。


 寝ている彼女を揺らす。まだ眠そうに目をこすりながら、リオは体をゆっくりと起こした。


 大きくあくびをしてから、体を伸ばす。

 ふにゃっと柔らかい笑顔を見せてから彼女はサリアの胸に顔を埋めるように倒れかかってきた。


「ちょ、ちょっとリオ!?」

「うん、おはようサリア」


 サリアは困ったようにマイへ顔を向けると、彼女は見て見ぬふりをしてそこに立つだけだ。

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